ストックホルム条約プレスリリース
COP4 ジュネーブ2009年5月6日
大きな第一歩 DDTのない世界に向けて

情報源:Stockholm Convention Press release COP4 - Geneva, 6 May 2009
A Big Step Forward towards a DDT-Free World
http://chm.pops.int/Convention/Pressrelease/
COP4Geneva6May2009/tabid/539/language/en-US/Default.aspx


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年5月8日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/POPs/090506_Press_POPs_DDT.html

世界の国々はミレニアム開発目標訳注1より前に
マラリアを撃退するためのより持続可能な方法に向けて動く


UNEP 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs(ポップス)条約)第4回締約国会議

ジュネーブ/ナイロビ/ワシントンDC 2009年5月6日】 - 国連環境計画と世界保健機関は、地球環境ファシリティ(訳注2)と協力して本日、合成殺虫剤DDTへの依存をますます減らしてマラリアと戦う国際的取組を発表した。

 アフリカ、東地中海、中央アジアの約40か国が参加し、世界的プログラム”媒介動物管理におけるDDTの持続可能な代替の実証と拡大(Demonstrating and Scaling-up of sustainable Alternatives to DDT in Vector Management)”の一部をなす10のプロジェクトは、潜在的な蚊の繁殖場所をなくし網で家を守ることから、蚊の忌避する樹木の植樹、及び蚊の幼虫(ボウフラ)を食べる魚まで、化学物質を使わない手法(non-chemical methods)をテストする。

 新たなプロジェクトは、メキシコと中央アメリカにおけるDDTの代替の実証が成功したことを受けたものである。この殺虫剤を使わない技術管理体制はマラリアの発症を60%以上削減した。

 5年間のパイロット・プロジェクトの成功は、ジクロロジフェニルトリクロルエタン(DDT)の持続可能な代替が地域的にも世界的にも適用可能でコスト効果のある解決として出現していることを示す。

 世界保健機関(WHO)によって推進された統合媒介動物管理(IVM)戦略は、異なる地域の状況に適合させた工夫を組み合わせたこれらの手段を含む枠組みを提供する。

 残留性有機汚染物質DDTを世界からなくす一方で、改善された健康介護(ヘルスケア)、監視、教育のような手段を合わせて、この発見は、健康と環境のミレニアム開発目標(MDG)を 2015年までに達成するという双子の目的に合わせるための舞台ができたことを示す。

 この取り組みは、DDTの使用に対する長年の増大する懸念と多くの国でこの殺虫剤への蚊の抵抗力が増大しているという証拠がある中で行われる。

 しかし、DDTの懸念は、年間2億5,000万件近くの発症及び 88万人の死者をもたらすという世界のマラリアの苦しみの懸念と同等である。したがって、DDT又はその他の残留性殺虫剤の使用のどのような削減も、少なくとも伝染防止の現状のレベルを維持することを確実にしなくてはならない。

 国際社会はストックホルム条約の下に、最終的には環境及び健康上の理由でDDTを含んむダーティな12の残留性有機汚染物質を禁止することに合意した。

 しかし、ある状況の下では適切な代替管理方法が現在は入手できないことが認められているので、マラリアを管理するためにDDTの使用に対し特定の限定された適用除外がなされていた。

 WHO及び国連環境計画((UNEP)が先頭に立って推進している4,000万ドル(約40億円)の基金のついた地球環境ファシリティ(GEF)の主要な取り組みである新たなプロジェクトの目的は、2014年までに世界でDDTの使用の30%削減、遅くとも2020年代の早い時期までに全廃を達成することであるが、一方、WHOによって設定されたマラリア目標を満たすという本題からははずれないこととする。

 国連事務次長でありストックホルム条約事務局を主催する国連環境計画(UNEP)事務局長アキム・シュタイナーは次のように述べた。”この新たなプロジェクトは、DDTレベルが低い、実際にDDTゼロの世界を実現しつつ、マラリアと戦うということを国際社会が決めたことを私は強調する”。

 ”本日、我々は、科学的知識と前世代の過度に単純化した選択に根付いていた、ひとつの化学物質の終結を告げる。そのようにすることで、革新的な解決が促進され、21世紀社会の真の健康と環境の熱望に合致する持続可能な選択をもたらした”。

 ”WHOは二重の課題に直面する。劇的にそして持続可能的に媒介性疾病、特にマラリアの苦痛を削減する約束、そして同時に、媒介動物管理におけるDDTへの依存削減目標への約束である”とWHO事務局長マーガレッット・チャンは述べた。

 WHOは、これらのプロジェクトを、マラリアやその他の媒介性疾病の伝染を管理するための選択アプローチとしてWHOが推進する統合媒介動物管理(IVM)の文脈で見ている。統合媒介動物管理(IVM)の主要素は、地域で採用されているコスト効果のある持続可能な媒介動物管理手法の組み合わせである。このアプローチはDDTからの持続可能な移行に役立つであろう。

 当条約の財政部門として本取組予算の半分以上を供給する地球環境ファシリティ(GEF)の最高責任者であり議長であるモニク・バーブは次のように述べた。”GEFは、現在及び永久に危険な化学物質を世界からなくすことに向けて重要な行動をとるために、これらのプロジェクトに投資をしている。これらの投資からの配当は、将来世代のためのよりクリーンでより安全で持続可能な環境である”。

記者への注記

メキシコと中央アメリカ

 2003年に始まった実証プロジェクトの最初のものは、国連環境計画(UNEP)、環境協力委員会(Commission for Environmental Cooperation)、及び8か国の政府を含む広範な組織との協力の下に、世界保健機関(WHO)のアメリカ地域事務局が調整を行った。

 プロジェクトには、1950年代以来、マラリアと戦うために地域の家庭や水域にDDTが広範に散布されたベリーズ、コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジェラス、メキシコ、ニカラグア、及びパナマが参加した。

 中央アメリカ(Mesoamerica)では8,900万人以上がマラリアに感染しやすい地域に住んでおり、そのうち3分の2以上又は2,350万人以上が高度の風土病地域に住んでいる。

 このプロジェクトは、GEFから750万ドル(約7億5,000万円)弱、その他から640万ドル(約6億4,000万円)の基金を得て、8か国の50自治体、202共同体が参加し、”統合媒介動物管理(“integrated vector control)”手法の実証を開拓した。

 このプロジェクトは、高度感染地域の人々のほとんど30%を代表する、直接的には16万人、間接的には680万人をカバーした。

 次のような様々なマラリア管理戦略と技術が試みられ評価された。
  • 管理活動の中心的な軸としての共同体住民の参加

  • 多くが先住民で極度の貧困とマラリアのある辺鄙な地域を公平に優先

  • 環境、教育分野から保健分野までを巻き込む多領域/他分野アプローチ

  • 「マラリアに対する戦いにおける世界戦略」と「ロールバック・マラリア・イニシアチブ」にしたがった管理手法の組み合わせ

  • 改善されたカウンセリングと口頭治療の管理を含んで迅速な診断と治療を通じて集団の寄生虫の駆除

  • ベッドの処理蚊帳(treated bed nets)、ドアと窓の網、インドセンダン(neem)やオークのような忌避樹木の植樹、家の石灰消毒による蚊と人との接触の低減

  • 除草、側溝や水路のよどみ水の排水、ある国では魚やバクテリアなどによる生物学的管理の利用などによる繁殖地の管理

  • 例えば、人の衛生管理の促進とともに家の中や周囲の掃除と整頓など、蚊が好み潜むような家の近くの場所の排除
 このプロジェクトは、マラリア発症の63%削減と、最も深刻な感染と世界で最も高い死亡率を引き起こすマラリア原虫である Plasmodium falciparu の86%削減を達成した。

 研究者らは次のことを含むその他の便益を指摘する。マラリア撲滅にかかわる国及び地方の機関の強化、共同体のDDT汚染に関する改善された科学的データ、及び残留性有機汚染物質の備蓄に関する行動。

 このプロジェクトの間に、136トンのDDTと、トキサフェンやクロルデンなどの化学物質64トン以上が確認された。

 これらの備蓄品は、異なるが関連するUNEPの条約である「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」の下に輸出され破壊されることになっている。

プロジェクトを世界に広げる

 プロジェクトは現在、DDTに対する持続可能な代替のいくつかの新たな5年間の地域的実証が立ちあげられた又は今後12か月で立ち上げられる状況にある。

 これらは、エリトリア、エチオピア、及びマダガスカルが関わるもの、及び、ジブチ、エジプト、ヨルダン、モロッコ、イラン・イスラム共和国、スーダン、シリア、イエメンが参加するもっと大きな地域的取り組みを含む。

 第3のプロジェクトには、南コーカサスや中央アジアのグルジア、タジキスタン、及びキルギスタンが参加、さらには関連する近隣諸国が参加する可能性がある。

 他のプロジェクトは、政府が健康・社会・環境影響と政治とのトレードオフを評価できるような意思決定ツールを開発するためにケニア、タンザニア、及びウガンダに焦点を当てている。

 もっと多くの地域プロジェクトが進行中である。

 http://dgef.unep.org/focal_areas/pops/DSSA_Programme_240409.pdf

 メキシコと中央アメリカにおけるマラリア媒介動物管理のためのDDTに対する持続可能な代替の行動と実証の地域プログラムの様々な技術報告書は下記にて見つけることができる。
 http://www.paho.org/English/AD/SDE/ddt-home.htm

 新たな地域実証プログラムを含む新たな世界的プログラム”媒介動物管理におけるDDTの持続可能な代替の実証と拡大”の詳細は下記にて見つけることができる。
  http://dgef.unep.org/focal_areas/pops/DSSA_Programme_240409.pdf

 第4回ストックホルム条約締約国会議

WHO-UNEP 健康と環境関連イニシアチブ(HELI)
  http://www.who.int/phe/health_topics/heli/en/

地球環境ファシリティ(GEF)www.TheGEF.org

更なる情報については下記にコンタクトしてください。

Nick Nuttall, UNEP Spokesperson/Head of Media, on Phone: 254-20 7623084, Mobile in Kenya 254 (0) 733 632755, Mobile when travelling 41 79 596 57 37 or e-mail nick.nuttall@unep.org

Ms. Maureen Shields Lorenzetti, GEF Spokesperson on Phone: 1 202 473 8131 or e-mail: mlorenzetti@thegef.org

Nada Osseiran, Communications Officer, World Health Organization (WHO), on Phone: 4122 7914475, Mobile: 41 79 4451624 or Email: osseirann@who.int

Ms Ravini Thenabadu, Communications Officer, Global Malaria Programme; Tel. direct: 41 22 791 2339, Mobile: 41 79 500 6549; email: thenabadur@who.int


訳注1
ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)(外務省ウェブページ)

訳注2
地球環境ファシリティ(Global Environment Facility:GEF)(外務省ウェブページ)

関連情報
Environment News Service (ENS) May 6, 2009 / 40 Countries Will Try Fighting Malaria Without DDT

DDT/マラリア関連情報


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