EHP 2007年10月号 サイエンス・セレクション
DDTと乳がんの関係を見直す
古い議論に対し新しい発見


情報源: Environmental Health Perspectives Volume 115, Number 10, October 2007
Science Selections
DDT and Breast Cancer Revisited
New Findings in an Old Debate

http://www.ehponline.org/docs/2007/115-10/ss.html#ddta

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年10月2日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/07_10_ehp_DDT_Breast_Cancer.html


 レイチェル・カーソンは1962年にベストセラー『沈黙の春』の中で初めてその問題を提起した。しかし、EHP [Lopez-Cervantes et al. 112:207?214]で発表された meta-analysis (訳注1)を含んで、その後の研究はその関係を軽視した。今回、研究者らは、DDTが女性の乳がんと本質的に関連していることを示す新たな証拠を見出した[EHP 115:1406?1414; Cohn et al]。この発見は、DDTがマラリア対策の手段として再び推進されているのと時を同じくして発表された。

 DDTは、1940年代中頃にアメリカ及びその他のどこででも殺虫剤として広く使われ始めた。DDTはマラリアの発症率を減らすのに高い効果があったが、科学者らはそれが環境、特に卵の殻を薄くするDDTの代謝物であるDDEが含まれるエサ食べる鳥類を脅かしているのではないかと疑いはじめた。農薬の脅威が高まるにつれ、ある人々はヒトのがんとの関連を疑った。1970年代の初めに、DDTはアメリカ及び世界中の多くの国々で事実上、全ての使用が禁止された。

 DDTの代替として多くの化学物質が永年にわたって開発された来たが、マラリア抑制に対しDDTのように安くて効果的なものはなかった。同時に、禁止された後に実施されたほとんどの研究はDDTへの暴露とヒトのがんとの関係を明確にすることができなかった。可能性ある利益よりも現実に分っている健康リスクを重視して、世界保健機関(WHO)とその他の機関は最近、マラリア発生率の高い地域でDDTの屋内散布を支持した。

 しかし、今回の研究の著者らは、DDTとヒトの病気、特に女性の乳がんとの間に関係はないと示唆することとは時期尚早であると信じている。以前の研究は、対象とする人々の暴露時の年令を考慮する、あるいは、DDTが広く使用された時期における若い年令での暴露を測定することができなかったことによる制約があったということを彼らは観察している。有毒物質への早い時期の暴露はしばしば病気と強く関係があるということを示す動物実験に基づき、著者らは、子ども時代又青春期にDDTに暴露した女性は一般的暴露集団より乳がん発症率が高いという仮説を立てた。

 著者らは、1959年から1967年の間に産科の診察を受けた女性の血清を分析した。これらの女性は、子ども健康発達調査(Child Health and Development Studies)の一環として血液を提供していた。女性の平均年令は26才であった。そのほとんどは1945〜1959年の期間、すなわちDDTがアメリカで最も広く使用されていた時期に4〜12才であった。

 研究者らは、129のケース・コントロールの対を分析したが、ケースは後に、50歳以前に乳がんと診断された女性として定義された。この研究は、DDTの主要成分であ るp,p'-DDT (訳注2)の血清中濃度が高いと、1931年後に生まれた女性の中では乳がんリスクが5倍高まることを発見した。1931年以前に生まれた女性には乳がんリスクの増大は見られなかった。

 これらの発見に基づき、著者らはDDT暴露が乳がんについて公衆健康にほとんど影響を与えないと決めるのは早すぎると結論付けた。彼らは、若い時にDDTに暴露したアメリカの多くの女性はまだ50才に達しておらず、50歳を過ぎてから乳がんになるリスクが最大になると述べている。

ジョーン・マニュエル(John Manuel)



訳注1
meta-analysis とは何か
 複数の研究結果から,原データではなく平均値や標準偏差などから要約統計量を引き出す http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/lecture/meta-analysis/meta-analysis-1.html

訳注2
p,p'-DDT 環境省データ
http://www.env.go.jp/chemi/report/h14-05/chap01/03/20.pdf

訳注3(関連情報)


化学物質問題市民研究会
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