ES&T 2006年6月28日
DDT の悪影響は数十年間残留する

情報源:Environmental Science & Technology: Science News, June 28, 2006
DDT’s legacy lasts for many decades
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/jun/science/jp_ddt.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年6月30日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_06/06_06/060628_est_DDT_legacy.html

 すでに禁止された殺虫剤、DDT の残留で汚染された土壌は、一世代以上、従来考えられていた以上に長期間にわたって大気を汚染し続けるであろう。

 レイチェル・カーソンの『沈黙の春』がワシに危害を与えDDTを告発して以来40年以上経過し、そのDDTが北アメリカで禁止されてから30年たつが、土壌中のこの歴史的残留物が世界中の大気に対する最大の汚染源となっている。本日、ES&T's Research ASAP website (DOI: 10.1021/es060216m)に掲載された研究は、30年以上前に散布されたDDTの農地からの蒸発を測定している。この調査は残留性有機汚染物質であるDDTが、高度に有機化された土壌中に一世代以上の間、潜んでいることを示している。

 ”我々は、環境考古学をやっている。我々は1960年代及び1970年代に使われた農薬の”古い骨”を発掘しており、それが、今日の大気のレベルにどのような影響を与えているかをを見いだそうとしている”−とカナダ環境省(Environment Canada)の環境化学者であり、この研究の共著者であるテリー・ビドルマンは述べている。彼と彼の同僚らは、有機性が高く、人参やキャベツのような野菜が継続して栽培されている南部オンタリオの肥沃な畑を分析した。土壌を耕すことはDDTが消散するのに役に立つが、土壌中のレベルは、ミミズや鳥を含んで、そこでの動物食物連鎖に害を及ぼすのに十分なほどに高い−とオタワ大学(カナダ)の環境毒物学者ジュールス・ブレイシスは述べている。

 この研究は、長期間禁止されている農薬の蒸発を追跡するために、地表から2メートル以内の高さにおける風速と温度勾配を測定するマイクロ気象学(micrometeorology)を初めて使用した。研究者らは、土壌が 19ppm の DDT を含んでいることを見いだしたが、その濃度は環境と人の健康を保護するためのカナダ環境大臣評議会の基準 0.7ppm を越えている。DDT の大気中濃度はバックグランド・レベルより 60〜300倍高かった。科学者らは、土壌の表面で DDT を 5.7ナノグラム/m3、地表から 20センチの高さで 1.3 ng/m3 検出した。

 研究者らはこの畑では土壌中の高い DDT レベルを予想していたが、その理由は、1972年以前に大量の DDT がこの畑で使用され、また土壌中の高い有機物濃度が親油性の DDT をひきつけるためであるとランカスター大学(イギリス)の環境科学者であり、この研究の主著者であるペリハン・カートカラクスは述べている。しかし、科学者らは土壌中の DDT が蒸発だけで半減するのには 200年要するということが分ってびっくり仰天したとビドルマンは述べている。幸いなことに微生物による分解のような他のメカニズムがあるので土壌中の DDT が実際に消滅するのは世紀のオーダーではなくて、数十年のオーダーであると彼は述べている。

 それとは対照的に、過去10年間以内に実施されたアメリカ南部の農業土壌の二つの調査は、100サンプル中 1サンプルだけが 0.7 mg/kgを越えていた。有機物が低濃度なアメリカ南部の農場の土壌は半減期が5〜20年であると計算されたとビドルマンは述べている。”土壌中の DDT 濃度は、過去の散布量、有機物濃度、及び栽培方法によって 1000倍の変動がある”−と彼は述べている。研究者らは、もっと広範な地理学的範囲における DDT の土壌残留と蒸発を予測するために、他の土壌で研究を繰り返し、それらのデータを土地利用の GIS(geographic information system)マップに統合たいと考えている。

 経済協力開発機構(OECD)は、現在化学物質の長距離移動能力を評価するためのモデルを採用しようとしているとブレイシスは述べている。”我々は、学ぶべき DDT の経験を引き出し、最終的にはその情報をモデルに導入し、モデルの精度を確認するために DDT を使用することができる”−と彼は付け加えた。

 ”この研究やその他の類似のものは、我々はかなり長い間、大気中で多量の化学物質に暴露するであろうことを示している”−とコネティカット農業実験ステーションの分析化学者、メアリー・ジエーン・インコルビア・マッティーナは述べている。ほとんどの場合、個々の汚染物質への環境暴露は比較的低濃度であるが、DDT、クロルデン、トクサフェンのようなすでに禁止された農薬が、現在、市場に出ている様々の新規化学物質の混合の上に加算される暴露合計は、我々の総合的な健康に影響を及ぼすかもしれない−と彼女は述べている。

ジャネット・ペレイ(JANET PELLEY



化学物質問題市民研究会
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