環境健康ニュース(EHN) 2016年12月1日
内分泌かく乱物質: アメリカの干渉
 2013年以来アメリカは自由貿易の名の下に、
これらの化学物質に対するヨーロッパの規制に
あらゆる手を使って異議を唱えている。(パート 3/3)

ステファン・ホーレル
情報源:Environmental Health News, December 1, 2016
Endocrine Disruptors: The interference of the United States.
Since 2013, the United States has been contesting by all means available
the European regulation of these chemicals in the name of free trade. Part 3 of 3.
By Stephane Horel
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2016/dec/
endocrine-disruptors-the-interference-of-the-united-states


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年12月25日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/
ehn_161201_Endocrine_disruptors_The_interference_of_the_United_States.html

 編者注:この記事のオリジナル(仏語版)は 11月29日にル・モンドにより発表された。この英語版は HEAL(Health and Environment Alliance)により翻訳され、許可を得て発表された。我々(EHN)はまた、この調査記事の他の部分((Part 1 及び Part 2)も再掲載している。: The manufacture of a lie (Part 1) and The interference of the United States (Part 2)
日本語訳:Part 1Part 2|Part 3


 アメリカはそれを隠さない。ある場合には、彼らはヨーロッパの法律をそのままヨーロッパに任せておくのではなく、自分たちで書き替えたいと望んでいる。それは、とりわけ内分泌かく乱物質であり、これらの化学物質は我々の日用品中に存在し、生物のホルモン系を乗っ取る能力をもつ。

 2009年以来、欧州委員会は彼らの規制の問題に取り組んでいる。この規制は先例のないもので、他の残りの世界に新たな基準を課すことになるであろうことから、尚一層敏感である。欧州連合(EU)に製品を輸出し続けたいと望むアメリカを含む全ての貿易パートナー達は、この規制に従わなくてはならない。

 高度な技術的文書の中でアメリカ政府は、率直な批判と政治的干渉に近い要求をもってその立場を述べている。予想される様々な規制オプションに関する協議の枠組みの中で2015年1月16日に欧州委員会に伝達された文書は特筆すべきものである。その文書は次の様に述べている。”もし欧州委員会は、現在示されていない中で、ひとつのオプションを裏書きする証拠を提供されたなら、それは考慮されるのか?”

そのその法令をアメリカは単に書き替えることだけでなく、内分泌かく乱物質に関する規制の、まさに原則を議論することを提案する、ということである。
 その質問は複雑で難しいが、その言外の意味は明確である。すなわち、その法令をアメリカは単に書き替えることだけでなく、内分泌かく乱物質に関する規制の、まさに原則を議論することを提案する、ということである。

 緊張の発端は 2009年の農薬に関する欧州規則である。その規則は、内分泌かく乱特性を持つ農薬を非常に厳格に禁止するであろうことを予見している。”ハザード評価”の原則は、先験的にアメリカ政府の反感を買う。”どのようなハザードベースのカットオフ基準の実施もアメリカの農業用製品の EU の輸入に厳しい結果をもたらすであろう”と、それは書いている。ヨーロッパの政治的意志とは反対に、アメリカ政府は、帰納的に保証される”リスク評価”という従来の考え方に戻ることを求めている。

 EU に対するこのアメリカの圧力は、実際には世界貿易機関(WTO)の貿易の技術的障壁(TBT)に関する委員会の会合で2013年6月に始まった。アメリカ代表は米政府の”懸念”のみならず、貿易における著しい不当な混乱を恐れた米産業界の懸念も共有した。

 その後数か月して、アメリカの懸念は、特に農薬と食品に責任あるもう一つの WTO 委員会に広がった。”積極的でよく仕組まれた攻撃”が欧州委員会の2015年8月の内部文書に記録されているのをルモンドは見ている。おぼろげながら訴追の恐れがあることについて誰も誤解していない。

 SPS として知られる国際的な衛生植物検疫措置(international sanitary and phytosanitary measures)違反の疑いが提起されたのはこれらの WTO 委員会においてである。

 2016年3月の報告書は、カナダはその規則は”農業分野にける国際貿易を蝕むのに役立つだけであり、措置を科学的リスク評価に置くことになっており、科学的根拠なしにはそれらを維持しないことになっている WTO SPS 協定の基本的な原則に違反すると見なしていると述べている。実際にアメリカは、他の諸国をアメリカ側に引き込んでおり、2016年夏までにその異質な連合は、中国、トーゴ及びジャマイカを含む20か国以上を含んでいた。

 そのような痛みをもたらす提案が2009年に採択されていたことを考えれば、なぜアメリカは、WTO の枠組みの中でそれについて異議を唱えるのを 2013年まで待ったのか? 実際に 2013年は欧州の内分泌かく乱物質に関する意思決定プロセスにとって重要な時機であった。2013年の初めに、欧州委員会は非常に異なった軌道を設定した。書類一式を取り仕切っていた欧州委員会の環境総局は選択したオプションをまさに提案したところであった。

 発がん性物質のために使用されている分類に倣えば、物質は二つのカテゴリーに分類することができる。”疑わしい(suspected)”又は”既知の(known)”内分泌かく乱物質である。(訳注:これは2013年の環境総局の分類である。2016年の欧州委員会の分類は訳注1 を参照のこと。) このオプションは科学界、非政府組織、及びフランスを含む一部の加盟国によって支持されているが、産業界は激しく、そしてあからさまにそれに反対している。

 それに反対するロビーイング電撃戦が2013年6月に行われた。それはアメリカの農薬産業のためのロビーイング組織であるクロップライフ・アメリカ(CropLife America)からの書簡であり、彼らは WTO 規則を利用して米当局にそのオプションに異議があることを示唆した最初のものであった。

 ”もし EU が新たに提案された規制体制を・・・リスク評価に基づくアプローチなしに進めるなら、アメリカ政府は WTO における SPS協定の権限を利用して自身を防御すべきである”と、クロップライフ・アメリカは2013年5月10日付けで米国通商代表部に書簡を送った(訳注2)。その書簡は、”クロップライフ・アメリカは、サポート文書を提供する準備ができている”と加えた。

 驚くべきことに、アメリカとその連合の敵対行為は、欧州委員会の立場が完全に変化したのに、ほとんど変わらなかった。

 その時には権限を奪われていた環境総局のオプションは、2013年7月に葬り去られた。2016年6月15日に発表された欧州委員会の新たな提案は、会社側の権益を非常に守るものであると判断されているにしても、産業側及び WTO の批評家のどちらも満足させるものではない。EU 派遣代表が2016年7月に欧州委員会の保健総局の事務所にやってきて彼らの不満をぶちまけた。

 8月末に、最終的威嚇射撃が WTO を通じて撃たれた。カナダは”否定的で不必要で不当な貿易への影響”を煽り、アメリカ政府は” EU のアプローチの健全性”に異議を唱え続けた。”サポート文書”として、米・化学工業協会及びクロップライフ・アメリカを含むいくつかの産業側組織の書簡がある。

 この記事についての質問又はフィードバック: Brian Bienkowski at bbienkowski@ehn.or。


訳注1:発がん性物質と内分泌かく乱物質の分類比較
Table 2. Categories of carcinogenic substances, as defined by the EU CLP regulation (EC, No. 1272/2008) on classification, labeling and packaging of substances and mixtures)
出典:EHP 2016年10月号掲載論文 【最終版】欧州連合における内分泌かく乱物質を特定するための規制基準の策定に関連する科学的問題

訳注2:関連情報
米通商代表部 2014年 技術的貿易障壁に関する報告書からの抜粋 欧州委員会の内分泌かく乱物質の分類提案

訳注:参考情報
2015年5月 ステファン・ホーレルと COE 有害な出来事 化学物質ロビーはどのようにホルモンかく乱化学物質への取組みを妨害したか
2003年9月 アメリカのEU化学物質政策 (REACH) への干渉 ジョセフ・ディガンギ博士



化学物質問題市民研究会
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