環境健康ニュース(EHN) 2016年12月1日
内分泌かく乱物質: 嘘を作り出す
 欧州委員会は、これらの有害物質の過度に厳格な規制を回避するために
自分たち自身の証拠を作り出している。(パート 1/3)

ステファン・ホーレル
情報源:Environmental Health News, December 1, 2016
Endocrine disruptors: The manufacture of a lie
The European Commission has developed its own evidence to avoid
an overly stringent regulation of these hazardous substances. Part 1 of 3.
By Stephane Horel
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2016/
dec/endocrine-disruptors-the-manufacture-of-a-lie


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年12月11日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/
ehn_161201_Endocrine_disruptors_The_manufacture_of_a_lie.html

 編者注:この記事のオリジナル(仏語版)は 11月29日にル・モンドにより発表された。この英語版は HEAL(Health and Environment Alliance)により翻訳され、許可を得て発表された。我々(EHN)はまた、この調査記事の他の部分((Part 2 及び Part 3)も再掲載している。A denial of the state of the science (Part 2) and The interference of the United States (Part 3)
日本語訳:Part 1|Part 2Part 3


 全てのこと、又はほとんど全てのことは、わずかな言葉の中に含まれている:”(内分泌かく乱物質は・・・)人間の健康と環境に懸念をもたらすほとんどの他の物質と同様に扱うことができる・・・”。この短いフレーズ(語句)は、ブリュッセル(欧州委員会)が、しばしば非常に低レベルでホルモン系を干渉することができる内分泌かく乱物質を規制するための計画の基礎を置く 2013年に発表された欧州食品安全機関(EFSA)の見解の結論に由来する。

 間もなく加盟国により投票されることになっている欧州委員会の提案は、それに結束して反対するフランス、デンマーク、及びスウェーデンだけでなく、それは公衆の健康と環境を保護しないと考える全ての非政府組織((NGOs)もまた反対している。

 ホルモン系を専門とする約 18,000人以上の研究者と医師からなる学術組織である内分泌学会により取りまとめられている科学的専門家集団もまた、その提案に反対している。欧州委員会が EFSA の科学的専門性をもって科学に依存すると主張するなら、この反対は驚きである。
欧州委員会によって提案された規制体系が立脚する基本的な
フレーズは科学的専門知識の検討が実質的に開始する前に、すでに起草されていた。

 この奇妙なくい違いについての説明は、ル・モンドが入手した一連の欧州行政府の内部文書中に見いだされる。それらは、欧州委員会によって提案された規制体系が立脚する基本的なフレーズは科学的専門知識の検討が実質的に開始する前に、すでに起草されていたということを明確に示している。

事前に決まっていた結論

 2012年12月、 EFSA はこの作業を実行するために召集した専門家らにeメールで”結論/勧告”をすでに示していた。

 それは、”・・・内分泌かく乱物質とそれらの有害影響は、人間の健康又は環境に懸念をもたらす他のどのような化学物質とも正しく同様に扱われるべきである”と述べていた。基本的なフレーズ()がすでにそこに(このメールに)ある。作業を設定するためのまさに最初の会合はわずか語句数日前に開催された。三か月後の2013年3月末、その基本的なフレーズは同機関(EFSA)によって発表された見解の結論の中に現れている。

 ”確かにその結論は、文書にではないが、ある参加者らの頭の中で、事前に決められていた”と、当時、文書に接する立場にいたある消息筋はル・モンドに述べた。欧州委員会自身は我々の質問に答えなかった。EFSA はその義務を適切に果たしただけであると自信をもって反応した。

EFSA の”科学委員会は、多くの専門家やフォーラムからの様々な見解の蓄積から採用した ”と、 EFSA は問われて答えた。

 部外者にとっては無害な“EFSA フレーズ”も、実際には相当な重みがある。もし内分泌かく乱物質が実際に他のどのような有害化学物質とも全く同じようなものなら、厳格な規則は必要がないからである。

 この問題で最も影響をうける殺虫剤産業は、明確にその要点を理解していた。その主なロビーイング組織である欧州穀物保護協会(ECPA)、クロップライフ・インターナショナル、クロップライフ・アメリカ、又はドイツの農薬グループである BASF やバイエルは、”EFSA フレーズ”を欧州諸機関との議論や書簡の中で自由に繰り返していたことをル・モンドは見ていた。

 実際に、この有名なフレーズは、植物保護製品に関する欧州の規則にとって特に重要なものである。欧州議会が新たな”農薬規則”を採択したのは2009年のことであった。この規則によれば、事前に”内分泌かく乱かく乱物質”と特定された農薬は、その暴露が無視できると見なされる場合を除き、市場にもはや出すこと、又は留めることは許されない。

 この条項は、もしそれが適用されることになるなら一つのことを必要とするだけである。それは、内分泌かく乱物質を定義するための科学的基準、すなわち今日、ブリュッセル(欧州委員会)が提案している基準案の採択である。しかし、内分泌かく乱物質は、EFSA フレーズ”によれば他と同様な化学物質なのだから、それは次のような疑問を提起する。なぜそれを事前に禁止するのか?

健康保護における”重大な違反”

 それゆえに欧州委員会はその同規則の条文を修正した。従って現在の条文は、もし農薬が市場に投入された後に問題を起したなら−従って事後に、示されたリスクを一件毎に評価するのに十分である。この修正は2009年規則の精神を犠牲にしているのではないか?

 この修正は健康と環境の保護という点で”大きな法の抜け穴”をあけることになると、EDCフリーヨーロッパ( EDC-Free Europe)は言う。この NGOs の連合体は、欧州委員会は欧州法(European law)の意図を歪めようとしているとして非難している。

 しかしとりわけ、この2009年規則の修正は民主主義の問題を提起する。それは、当局は選挙で選ばれた代表の意図をもってなすべきなのに、あたかもそれをしない法令を率先して起草するようなものである。

 欧州議会もまた、同じ意見である。ル・モンドが探し出した9月15日付の書簡のコピーの中で、議会の環境委員会議長は、その文書(農薬規則)に責任ある健康コミッショナー、ビテニス・アンドリュウカイティスにへのメールの中で、プロジェクトは、”農薬規則の本質的な要素を修正することにより、欧州委員会の実施権限を超えている”と書いた。同様に、10月10日の彼らの覚書の中で、フランス、デンマーク、及びスウェーデンは、欧州委員会には”議員による政策の選択”を変える権利はないと判定して、何も異なることを言っていない。

 この非難は、欧州委員会がこの問題に関してすでに違法状態にある時になされたので、かえって不幸な結果をもたらした。欧州司法裁判所は 2015年12月に、EU 法違反であるとして欧州委員会に違法判決を下した。すなわち、欧州委員会は内分泌かく乱化学物質を特定するための基準を2013年末以前に策定することが求められていた。

 しかし欧州委員会は批判の嵐にも動じず平然としていた。同委員会は、規則を”更新し”、科学的知識の進展、すなわち有名な EFSA フレイズ−を考慮する権限を同委員会に与える条件を満たしたことを保証するとしている。それが、その正当性の根拠が依拠するフレーズである。

 しかし、なぜ EFSA は科学的総意に反して事前に結論を書いたのか? ル・モンドが入手した欧州委員会の内部文書が、現在は欧州委員会におけるこの問題について責任がある保健食品安全総局((DG Health)の意図に、ある手がかりを与える。

”ここで我々が見たものは、政策に基づく証拠づくりである。
−アクセル・シングホーフェン、グリーン・欧州自由連
 ひとつの会議報告書が、2012年9月現在、保健食品安全総局(DG Health)は欧州で選出された代表の意思を無視することを意図していることを書面で記録している。健康総局はその時、”例えリスク評価に基づいて規制する方向に戻るという考えにも反対せず”、また関係する規制の一部を”完全に変更する準備ができている”と述べた。

 同文書はさらに、健康総局(DG Health)は、”見解の準備を企画し加速するよう EFSA に話さなければならない”と述べている。この時点では、EFSA の意見は存在しなかった・・・。それは EFSA が内分泌かく乱物質に関する作業部会を立ち上げるよう要請されたばかりの時であった。

”屈辱”のメッセージ

 この作業部会が運用された非常に特別な条件は、 EFSA の専門家らと担当者らの間で交わされたeメール中で読み取ることができる(訳注1)。EFSA 報告書が発表される一か月前、世界保健機関(WHO)と国連環境計画(UNEP)は、内分泌かく乱物質に関する共同報告書を発表した。

 屈辱を感じた EFSA のある専門家は、作業部会全体に次のようなメッセージを送った。”WHO-UNEP 報告書が化学物質の従来のリスク評価は内分泌かく乱物質を評価する目的には適切ではないと結論付けている一方で、我々は正反対の結論を出している。この状況で、現在の我々の(EFSA)報告書案を WHO-UNEP 報告書と比較することは、ばつの悪いことである”。

 この科学者はその結論を劇的に変更することが重要であると考えた。作業部会の作業を監督する EFSA の担当者はそのことに同意した。

 ”内分泌かく乱物質はほとんどの他の化学物質と同様にみなされるべきであると我々が 説明する現在の結論は、自分たち以外の他の世界から我々を隔離し、防御するのを難しくするかもしれない”と、彼は書いている。しかし、EFSA の意見が 2013年3月20日に発表された時に、それは取り乱さずにその小さなフレーをやはり含んだままであった。

 ”これは科学に基づく手続き・・・証拠に基づく政策決定であるべきである”と欧州議会のグリーン・欧州自由連合の顧問であるアクセル・シングホーフェンは言う。”しかし、ここで我々が見たものは、政策に基づく証拠づくりである”。

 この記事についての質問又はフィードバック: Brian Bienkowski at bbienkowski@ehn.or。


訳注1: EFSA 専門家のメールのもう少し詳細な内容は、「2015年5月 ステファン・ホーレルと COE 有害な出来事」 の中の ”EFSA の策略 ”を参照ください。

訳注:関連情報



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