開発途上国における船舶解体問題/解説

化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
更新日:2009年3月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/shipbreaking/shipbreaking_0.html


解説

バングラデシュは、年間180〜250隻の中古船舶をスクラップ用に購入している。現在、稼動中の船舶解撤ヤードの数は30あり、約30,000人の労働者が直接雇用され、さらに約50,000人が間接的に雇用されている。
2004年世界アスベスト東京会議発表資料より

■このページは、当研究会がバーゼル条約関連海外廃棄物問題の一環として取り上げている開発途上国における船舶解体問題をまとめたものです。
 船舶は資材の9割が再利用されると言われる優良資源ですが、船舶解体(解撤)は過酷な労働集約型作業であるため、先進国の船舶解体施設は20年以上前にほとんどが閉鎖され、労働安全衛生基準がないに等しく、労働単価が安いアジアに”輸出”されて解体されています。
 また、海洋汚染事故の問題から一重殻石油タンカーなど安全基準を満たさないサブスタンダード船の解体が今後数年の間に急増することが予想されています。

■バングラディシュ、インド、パキスタンなど開発途上国の海岸では寿命を終えた廃船が世界各地から送り込まれ、安い労賃と劣悪な労働環境の下に多くの労働者らが船舶の解体作業を行っています。ほとんどの廃船の船内にはアスベストやPCB類、燃料油残渣などの有害物質が大量に残っており、解体作業によって労働者の健康と命が犠牲となり、海岸地帯の水や土壌が汚染され、安全と環境を著しく損なっています。
 バングラディシュとインドにおける船舶解体の悲惨な状況が写真とともにグリーンピースと国際人権連盟(FIDH)により報告されています。
Childbreaking Yards / Child Labour in the Ship Recycling Industry in Bangladesh
END OF LIFE SHIPS: THE HUMAN COST OF BREAKING SHIPS
BAN 有害廃棄物ニュース 2005年12月14日船舶解体における人命のコスト(当研究会訳)

■EUや、国際的な環境団体らは、スクラップを目的とした廃船は廃棄物であり、アスベストやPCB類、燃料油残渣などの有害物質を含む廃棄物のOECD諸国以外への移動はバーゼル条約で禁止されている主張していますが、世界的な合意にはなっておらず、汚染物質の事前除去がなされないままに、開発途上国に送り込まれる廃船が後を絶ちません。

■バーゼル条約事務局のウェブサイトにはBasel Convention / Dismantling of Shipsのページがあり、情報提供を行っています。

■欧州委員会では、発展途上国における船舶解体問題を真摯に受け止めており、2006年3月に東京で開催された3Rイニシアティブ高級事務レベル会合の総括セッションで、欧州委員会がその問題の緊急性に一言ふれ、会場でインフォメーション・ノートを配布しましたが、日本、アメリカを含む他の参加国からは何も反応がありませんでした。
 欧州委員会環境委員スタブロス・ディマスは2006年4月25日の議会で「責任ある船舶リサイクリングのための解決」と題するスピーチを行い、その取り組みの必要性を訴えました。
 欧州委員会は2007年5月22日に「より安全な船舶の解体に関する緑書 」を発表し、パブリック・コンサルテーションにかけました。

■国際海事機関(IMO)は現在、船舶のリサイクリングのための国際的な安全基準及び環境基準を確立する作業を行っていますが、国際的な環境団体らは IMO の結論にバイアスがかからないよう監視しつつ、 「船舶解体問題に対する早急な世界的解決のための共同宣言」を2005年12月にジュネーブで開催された廃船の規制に関するILO、IMO、Basel条約事務局の会議で配布しました。当研究会もこの宣言に署名しました。「汚染者支払いの原則」に基づく、船舶解体のための安全と環境に関する国際基準を早急に確立すべきです。
 2006年3月にはILOの条約草稿に対し、同NGOsはプレスリリース ”IMO条約草稿:世界の船舶解体危機に驚くべき不適切な対応” を発表してその内容を批判しました。

■「日本財団図書館/船舶解撤の新たな進展と今後の展望」によれば、世界の解撤中心地はインド亜大陸と中国で、2001年実績では全体の98%前後を占めるとしています。

■日本での船舶解体について、「船舶の解撤に関するインベントリー分析」によれば、近年、大型船の解撤は国内では行われていない。大型船は国際取引で売買されることが多いが、国内での解撤コストが開発途上国より高く、受注競争力が弱いためであるとされています。

■「シップ・アンド・オーシャン財団ニュースレター第110号 2005.03.05 チッタゴン船舶解撤場の現状」によれば、バングラディシュのチッタゴンで解体される船舶は70年代後半以降に建造された大型商船で、その 7 割が日本製であるとのことですが、日本では、この開発途上国で船舶解体が引き起こしている環境上及び労働安全衛生上の問題について、日本では、この開発途上国で船舶解体が引き起こしている環境上及び労働安全衛生上の問題について、国や企業、研究者らがどのように考えているのか国民には示されず、環境団体、労働団体、メディアて議論されることもほとんどありません。

日本財団図書館/国際海運の構造と便宜置籍船によれば、2000年現在、日本の船舶の80%以上が便宜置籍船であり()、このことが日本の責任を見えないものにしているひとつの理由と考えられます。また、日本には” Environmental Justice (環境正義)”という概念が定着していないことも、関心がもたれないもうひとつの理由かもしれません。
 しかし「汚染者負担の原則」に基づけば、世界で最も強大な造船国、海運国である日本に、この問題に対する責任がないはずはありません。
 日本政府は、このような問題があるということを国民に明らかにし、船舶のリサイクリングに関する国際的な安全及び環境基準の確立に向けて、日本政府の立場を内外に向けて明らかにすべきです。

):2009年3月26日の国交省との面談時における説明ではもっと多く、日本の支配外航船約2000隻のうち日本の旗艦は80隻足らずで、残りは便宜置籍船とのことである。

■WWFのウェブページ 「違法な漁業の隠れ蓑、「便宜置籍制度」を追求! 日本語版レポート完成」 の2006年10月27日付の記事で 日本語版レポートと「便宜置籍制度」の問題の概要を紹介しており、概要の冒頭は次のように述べ、ています。
 ”漁業資源の枯渇に拍車をかけ、人権侵害をも引き起こしている「便宜置籍制度」問題。水産物消費大国である日本にも深く関わっています。WWFは、国際運輸労連(ITF)、オーストラリア政府とともに、2005年10月に「変わりゆく公海漁業−便宜置籍制度に守られる違法、無報告、無規制漁業」を発行。このたび、その日本語版を発表しました”。

WWF報告書
変わりゆく公海漁業 便宜置籍制度に守られる違法、無報告、無規制漁業
 全文:日本語 PDF形式:1.39MB


日本の造船・解撤・海運情報


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る