2004年世界アスベスト東京会議発表資料
バングラデシュの船舶解撤ビジネスにおけるアスベスト
A.R.チャウドリー・レーポン
職業安全衛生環境財団[バングラデシュ]


化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

掲載 2005年4月11日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_05/05_04/Asbestos_Chowdhury_Repon_j.html

 2004年11月19-21日 東京・早稲田大学国際会議場で開催された2004年世界アスベスト東京会議(GAC 2004)で発表された口演資料を同会議(GAC 2004)組織委員会のご好意で掲載させていただきました。
 同会議の記録については同会議のウェブサイトhttp://park3.wakwak.com/~gac2004/index.htmをご覧ください。
 バングラデシュは、20年以上にわたって廃船解撤ビジネスを積極的に行っているアジア諸国のうちのひとつである。チッタゴン市シタクンダ(Shitakundha)にある船舶の墓場は、バングラデシュで唯一の"鉄鉱山"である。バングラデシュは、年間180〜250隻の中古船舶をスクラップ用に購入している。現在、稼動中の船舶解撤ヤードの数は30あり、約30,000人の労働者が直接雇用され、さらに約50,000人が間接的に雇用されている。
 シタクンダ地域に船舶解撤産業が根付いた主な理由は、この地域の海と砂浜が船舶解撤に適していること、人的資源や設備への投資が安上がりであること、(再)圧延工場向けの安い再生原料としての需要が高いこと、安い労働力が得られること、事業に関連する法の実施が緩いこと、世間の厳しい目から隔離されていること、及び、政府機関の監視体制が弱いこと、などである。実際、シタクンダの船舶解撤ヤードは、ヤード/会社の所有者独自のルールによって運営されている。
 船舶解撤ヤードでの作業は、ほとんどが労働集約的で、100%契約ベースである。正規の労使関係もないし、雇用保障や社会保障の制度もない。解撤ヤード労働者の98%は、読み書きができず、事前訓練を受けておらず、100%が未組織労働者である。労働災害、傷害、死亡が、きわめて頻繁に起こり、それが当たり前になっている。
 船舶解撤産業における労働者の健康に関するデータや報告書は、この地域におけるものだけでなく、バングラデシュ全体のものも存在しない。このことは、この地域における船舶解撤労働者たちの健康を調査する体系的な構造が、過去にも現在も存在していないということを示している。
 労働者たちは、船舶解撤ヤードで採用されている下記に示すような従来の作業方法により、潜在的に危険な影響を受けている。
  • 防護なしの溶断(目や膚の傷害)
  • 重量物の挙上(擦過傷、裂傷、腰痛)
  • 騒音(難聴)
また、下記のような危険物質にも曝されている。
  • アスベスト
  • 化学物質(PCB、PCV、PAH(多環芳香族炭化水素)、有機スズ化合物)
  • 重金属
  • ヒューム(粉じん、ヒューム/ガス、ダイオキシン類、イソシアン酸塩、硫黄、など)

 アスベスト含有物質(ACM)は、熱系統の断熱材や素材の表面に使われている可能性がある。アスベスト含有物質が劣化したり、かき乱されると、非常に細かい繊維となって長期間、空気中に浮遊し、労働者や機器の運転者、あるいは解撤ヤード附近に住む人々が吸引する可能性がある。最も危険なアスベスト繊維は、非常に細かくて目に見えない。いったん吸引されると、その繊維は肺の中に留まり蓄積する。アスベスト繊維を高レベルで吸入すると、肺がん、中皮腫(胸膜及び腹膜のがん)、及び石綿ト肺(不可逆性の肺の損傷で死に至ることがある)のリスクを増大させる。肺がんと中皮腫のリスクは、曝露の程度によって増大する。これらの疾病の症状は、曝露後、多くの年月が経過するまで現われない。アスベスト関連疾病患者の多くは、仕事に伴って職場で高濃度のアスベストに曝露していた。
 廃船から除去されたアスベストは、バングラデシュではまだ、必ずしも危険な廃棄物として規制されていない。実際、バングラデシュやその他の諸国では、アスベストは手で粉砕して回収され、再利用のために再生される。
 アスベスト使用による潜在的な健康への悪影響に対し、最低限の厳しい予防措置が強制的にとられることが必要である。これらの措置には、アスベストの危険な影響、船体からアスベストを除去する場合の作業者保護、アスベストの再利用の禁止、アスベスト廃棄の安全確保、及び、解体場からアスベストが再び市場に持ち込まれることを防ぐことなどに関する、船舶解撤ヤードにおける労働者の教育、能力構築訓練、及び注意の喚起が含まれる。
 さらに、この問題に関する、強力な行動志向型の、アジアにおける国及び国際的なキャンペーン・ネットワークまたは連合を築き上げることが重要である。


化学物質問題市民研究会
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