欧州委員会環境委員スタブロス・ディマス
欧州議会公聴会開会スピーチ 2006年4月25日

責任ある船舶リサイクリングのための解決

情報源:European Commission Press Release 25 April 2006
Stavros Dimas
Member of the European Commission, Responsible for Environment
“Solutions for the responsible recycling of ships” Open Hearing
European Parliament, Brussels, 25 April 2006
http://europa.eu.int/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/06/259&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年5月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/EU/06_04_25_Dimas_recycling_ships.html


 紳士、淑女の皆さん
 まずはじめに、私は欧州委員会を代表して、この公聴会を主催する、欧州議会、欧州議会議員 Ms Hennis-Plasschaert 及び Mr Sterkx、Industry Working Party on Ship Recycling [訳注1]及び NGO Shipbreaking Platform [訳注2]に感謝の意を表したいと思います。この目的のために力を結集して、このような幅広く連携するということは非常にすばらしいことであり、物事が正しい方向に進んでいることの証であります。

 訳注1:Industry Working Party on Ship Recycling(船主、海運業者らの国際的な組織の連合体)
http://www.marisec.org/resources/shiprecylingcode.pdf
 訳注2:NGO Shipbreaking Platform(グリーンピース、バーゼルアクションネットワーク等の連合体)
http://www.greenpeaceweb.org/shipbreak/prBangladesh.pdf
http://www.ban.org/Library/Legal%20application.pdf

 船舶の解体又はリサイクリングは、環境、経済、社会に及ぼす地球規模の緊急の課題であり、それには欧州連合(EU)が重要な役割を果たすことができ、また果たすべきす。我々は、そこで引き起こされている著しい環境及び安全の問題について述べられている懸念を完全に共有するものです。問題は深刻であり、したがって欧州委員会の重要課題のひとつであります。我々は欧州連合の法を正しく適用しなくてはなりませんが、同時に、広範な展望から状況を改善するために採用することができる選択肢を評価しなくてはなりません。

危険な船舶解体

 ほとんどの場合、今日の船舶の解体は適切に行われていません。例えば、船舶は南アジアの海岸で劣悪な労働条件下で解体されており、労働者の健康と安全、及び環境がリスクにさらされています。国際労働機関(ILO)及び NGO によてもたらされる環境と人権に関する情報は、非常に多くの労働者らが事故で死亡したり負傷し、又は有毒物質に暴露していることを示しています。環境という側面では、アスベスト、オイル残渣、PCB などの、船舶に残されている有害物質を取り扱うために必要な適切な装置がないので、海岸地帯の水や土壌が汚染され、その結果、自然の生息地と漁業の基盤が影響を受けています。

古い船が解体に出される

 ご承知の通り、EU は船の安全な航行を求めています。例えば、我々は、プレステージ号やエリカ号のような環境汚染事故を防がなくてはなりません。したがって我々は、欧州連合の法及び国際法の下に、一重殻タンカーの義務的廃止を導入し支援しています[訳注3]、[訳注4]。その結果、今後数年の間にスクラップとされる寿命の尽きた船(end-of-life ships)の数が大幅に増加します。その増加は、現在はまだ予測されたほどには増えていませんが、それは主にそれらの船舶がアジアにおける輸送の必要性を満たすためにより長く使用されているからです。しかし、いずれはその時が来ることは確実であり、我々には廃止義務の法律があり、我々はひとつの環境問題の解決が他の環境を悪化させることがないようにする責任があります。

訳注3:プレステージ号、エリカ号などの海洋汚染事故などの教訓:サブスタンダード船排除
http://www.jsanet.or.jp/environment/text/environment3f/01.html
訳注4:日本における油流出防止構造プロジェクト
http://www.nmri.go.jp/main/research/kenkyu/H16/H16P05.pdf

厳しい規制のジレンマ

 EU の法の観点から、私は解体又はリサイクルされる予定の船は廃棄物であるとみなされることを明確にしたいと思います。このことに関し、欧州委員会は、これらの船舶が我々の廃棄物法にしたがって扱われ、移動され、リサイクルされること確実にすることにより、果たすべき直接的な役割を持っています。

 同様に、有害物質を含む廃船は、有害廃棄物の取り扱いに適用されるルール、特その移動に関するルール、にしたがって扱われるべきです。我々は、有害物質を含む船舶の EU から OECD 以外の諸国への移動は、事実上、有害廃棄物の輸出であると考えます。このことはバーゼル条約及び欧州連合の廃棄物輸出法の両方によって禁じられています。欧州委員会は、この禁止が EU 加盟国で適切に適用され施行されることを確実にすることにちゅうちょしません。

 これには最近のクレマンソー号事件が相当します。すでに良くご存知の通り、このフランス航空母艦はリサイクルのためにインドに向かって航行していました。欧州委員会は、有害物質、特にアスベストがこの船から十分に除去されていないことを知らされました。私はこの件について特に関心を持ち、フランス政府に、もっと具体的にはオリン大臣に追加の情報提供を求めました。最終的にフランス政府は正しい配慮を行い、安全なリサイクルを行えるよう準備するためにクレマンソー号を母港に呼び戻すという正しい決定を行いました[訳注5]。

訳注5:
BAN プレスリリース 2006年2月15日 クレマンソー号 国際法と環境正義の勝利 ”幽霊退役空母” どの国も廃船をアジアに棄ててはならない(当研究会訳)
BAN 有害廃棄物ニュース 2006年1月6日 退役フランス航空母艦クレマンソー号 アスベストでインドに死をもたらす恐れ(当研究会訳)

 したがって欧州連合が船舶リサイクリングに関し、とるべき行動を避けることはできません。我々は国際的な解決を求めて働きかけることに賛成ですが、我々はまたこの問題に対し EU 内部でも解決を求めるべきであるとする意見を私は支持します。EU レベルでの行動は、我々が、世界の他の諸国の範となる正当な環境、健康、安全に関する基準を制定することに役に立ちます。それに加えて、我々は欧州連合内によき事例を作らなければなりません。特にそれは、我々にはこの問題の一部に責任があるからであり、それは例えば、我々の重要な海運活動であり、一重殻船舶への廃止規則の適用などです。
 欧州連合内には積極的な機運があり、現在の状況は、この問題に対する EU 全体のアプローチは好ましいものであると私は考えています。この事柄に対し、フランス、ドイツ、イギリスなどの加盟国は言うまでもなく、閣僚理事会、や欧州議会など欧州連合内の諸機関、及び、NGO や産業界などの関係者によって示された関心は激励のサインであり、そのことにより、我々は船舶の安全なリサイクリングを規制する正しいバランスの取れた方法をすぐに見つけるであろうということに私は自信を感じています。  しかし、我々は二次的な影響から目をそむけてはなりません。厳しい規制があるところにはいつでも、特にそれが経済的に有利な場合には、それを回避しようと試みる誘惑がつきまといます。

 実際、我々は船舶解体のために不法に船を輸出しようとする大きな誘惑があることを知っており、我々また、それについて何か措置をとることが非常に難しいことも知っています。したがって、我々の法律が厳格に施行されることを確実にすることを必要とするだけでなく、このような不法な活動と戦う追加的な方法にも目を向けなくてはなりません。

平等な土俵の必要性

 約20年ほど前、ヨーロッパにも船舶解体のための施設がたくさんありましたが、現在ではそのほとんど全てが姿を消してしまいました。しかし、アジアには労働コストと安全基準が切り捨てられた船舶解体所がまだあります。また南及び東アジアの開発途上国では鉄の需要が高まっており、この地域での船舶解体を経済的に魅力のあるものとしています。

 私はリサイクリングと二次的資源のための効果的な市場に賛成であることを明らかにしておきますが、しかし環境と社会の安全のための最低の基準はなくてはなりません。

 残念ながら、地球規模で船舶解体のための平等な土俵を持つにはまだ程遠い状況であり、そのことは最低限の通常は不適切な環境・安全基準しか持たない船舶解体施設が競争力持っているということを意味しています。これは許すことができません。
 より厳格な法的強制力のある国際ルールが緊急に求められます。国際海事機関(IMO)は現在、安全で環境的に適切な船舶のリサイクリングに関する条約の草稿を討議しています。欧州委員会はこの取組を歓迎します。IMO の下に船舶報告システムの法的要求ができるだけ早く確立されるべきです。このシステムはバーゼル条約の下に確立されているように平等な管理を保証すべきです。我々は IMO が速やかにこれを完成させることを期待しています。

 私の観点では、船舶リサイクリングの環境的に適切な管理のための最低要求が世界中で法的強制力をもち、これらの要求への遵守がリサイクリング施設の認可と監査のための有効なシステムによって保証されることが重要です。我々がそのシステムを信頼することができるよう確かなそしてバイアスのかからない評価をする独立の国際的認証機関が必要です。

EU は今、行動する必要がある

 しかし、そのような国際的な解決はすぐにできるわけではなく、また我々それを長く待つこともできません。我々は、一重殻石油タンカーやその他の船舶のほとんどがスクラップにされる時期が来るまでに、より良い国際的なシステムを持つ必要があります。

 しかし、我々は船舶解体に関するもっと強固な国際的ルールに向けて働きかける必要がありますが、我々はまた、EU の中でも活動する必要があります。もう一度繰り返して言わせてください。我々は国際的なアプローチを鼓舞しますが、しかし我々は同じように EU レベルで活動する必要があります。そこには活動すべき余地があります。この活動には、とられるべき三つのレベルがあります。

 第一に、海運業界は自主的に信頼できる現実的な取組を検討することに着手すべきです。さもないと欧州委員会はこの目的を達成するために強制力のある措置を考えなくてはなりません。結局、我々の環境法における基本的な原則 ”汚染者支払いの原則” に従い、産業的行為者はその行為が生み出すかもしれない環境的コストを負担しなくてはならないというということを忘れてはなりません。ご承知のようにこれは様々な産業分野に当てはまります。例として、私は廃船指令、又は廃電気電子機器指令を挙げます。

 さらに、鉄材の高価格は船舶の解体を船主にとって経済的に魅力のあるものとし、船舶リサイクル現場の環境及び安全条件を改善することで、許容できない負担を課すことはなくなるでしょう。企業の社会的責任(CSR)の精神で、海運会社は彼らの廃船を IMO、バーゼル条約、及び国際労働機関の現在の技術基準に合致した施設にのみ送るべきです。

 第二に、EU 加盟国政府は廃船の責任ある管理を示すことによって事例を作るべきです。彼らはまず国家自身が所有する船舶、戦艦、砕氷船などから事例作りに着手すべきです。これら国家所有の船舶が IMO によって設定されるどのような国際条約の範囲からも除外されるということはありません。幸いなことに、我々はすでに良い最初の事例を見ています。イギリス政府は国家船舶リサイクリング戦略をパブリック・コメントにかけました。それは明確に、問題に目を向け政府所有の船舶についての方針を述べており、商用船舶についても勧告をしています。

 イギリスの環境的に安全な船舶解体のための国家戦略は、EU 内の他の主要国だけでなく、 EU 全体に霊感を与えるでしょう。私は、DEFRA(イギリス環境食糧地域省)によってなされた仕事を賞賛し、現在、私の機関と進めている彼らの協力をる評価します。

 第三に、我々は船舶解体のためのEU 全体の戦略に向けて EU レベルで行動を起こすことができ、起こすべきです。我々は、EU において船舶リサイクリング施設を再構築する可能性を見ましょう。欧州廃棄物輸出法は有害廃棄物を開発途上国に移動することを防ぐために非常に厳格です。それが我々がその寿命に達した船舶が安全に処分できる施設を必要とする理由です。ある場合、又は多くの場合、このことは EU に当てはまります。私の見解では、ヨーロッパ及び隣接する OECD 諸国において、少なくと最低限の環境的に適切なリサイクリング能力が維持され又は再構築されなくてはなりません。

 我々はすでに、事前浄化(pre-cleaning)のコストと便益を含んだ船舶解体の本質的な全ての側面について注意深い調査を実施したということを私はお知らせすることができます。我々はまた、この問題に対する可能な限り最良な解決を見出すために、来月、EU 加盟国との対話を行い、強化するつもりです。例えば、ヨーロッパの海域で運行している加盟国の戦艦、フェリー、及びその他の船舶はその寿命を終えたなら EU 内の国内施設で解体できることを加盟国が確実にするための責任ある役割を見ています。

 もちろん、このことが無料でできるわけではなく、相当な投資がもちろん求められるでしょう。このことは、そのような投資の資金をどうするかという疑問をもたらします。産業界は、EU における船舶リサイクリング、又は汚染除去の能力の開発に貢献することができ、そのことは高い環境と、健康、安全の基準を重んじることです。しかし、これだけではもちろん十分ではありません。他の資金源も探さなくてはなりません。ここは船舶リサイクリング能力向上のための資金調達の方法を特定するための会議ではありませんが、他の廃棄物法によって規定されたものと同様なスキームを考えることができるでしょう。もし、一般市場及び国際的貿易ルールと矛盾しないなら、国家の援助と助成金を考慮することもできるでしょう。

 現時点において、私は、欧州連合内における助成を受けた船舶リサイクリング又は汚染除去能力の再構築が開発途上国からビジネスと雇用を奪うことにはならないということを強調したいと思います。むしろ逆に、そのことは、国際的規制のためのベンチマークとして用いることができる、もっと野心的な環境基準の制定に寄与するでしょう。

 構造的基金(structural funds)のようなコミュニティー基金もまたひとつの支援源かもしれません。もし我々が賢明で前向きなら、我々は、造船所の閉鎖のために被った EU の未開発の領域に対し新たな経済的な可能性をもたらすことができるかも知れません。最近の原材料の価格上昇は、リサイクリングがもっと利益の上がるビジネスに早急になることを意味するべきです。しかし、先ほど述べたように、ここはこのような特殊性について述べる機会ではありません。ここでは我々はまず基本的な原則に同意することとし、、我々はいずれ詳細について討議する様々な機会を持つことでしょう。

 私の結論に入りましょう。ここヨーロッパで我々自身の活動を浄化するだけでは十分ではありません。我々は、環境的に適切な管理と労働者の安全と健康という観点から世界中のリサイクル施設が正当な基準に適合することを確実にするために働かなくてはなりません。しかし、我々は、開発途上国が世界的に受け入れられる環境と安全の基準に適合することを助けるために、海運産業及び EU の全体に責任ある他の産業界の支援と知見を必要としています。

結論

 結論として、私は船舶解体のためのバランスの取れたそしてよく考慮された EU の戦略を追求し実施するという個人的な約束を強調したいと思います。その取組の中で、私は同僚の委員諸氏の支援を求めます。彼らの参加と専門性が我々の目的の実現のために必要だからです。そして、各人はこのことに関するいくつかの領域に思いを寄せることができます。開発途上国のこと、産業競争力のこと、輸送のこと、社会的状況のことなどはほんの一例です。我々の取組は、EU 内部及び新規に出現している EU 外の双方の関係者の利害を考慮しなくてはなりません。そして、安全と人の健康と環境に対する配慮がそのような戦略の中心に置かれなくてはなりません。

 ご清聴ありがとうございました。


訳注(参考):日本の便宜置籍船関連情報

 ■日本財団図書館
国際海運の構造と便宜置籍船
 http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2001/00799/contents/00003.htm
 2000年現在、日本の船舶の80%以上が便宜置籍船である。
 ■シップ・アンド・オーシャン財団ニュースレター第110号 2005.03.05
 チッタゴン船舶解撤場の現状
 http://www.sof.or.jp/ocean/newsletter/110/a03.php
 現在、チッタゴンで解体される船舶は70年代後半以降に建造された大型商船で、その7割が日本製で占められている。
 ■日本船主協会:オピニオン/海洋環境におけるアジア船主の責任
 http://www.jsanet.or.jp/opinion/opinion_200306.html
 アジアの船主は安全運航や船舶の適正保守、解撤といった地球環境に直接影響を与えると注目されつつある問題について、国際間の話し合いの場で発言が少ないことが指摘されている。
 ■国際運輸労連−ITF
 船員の基本的権利/便宜置籍船/政治キャンペーン・・・
 http://www.itftokyo.org/about/senin.html




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