(雨だ!! アレキサンドリア人) 第5回
佐々木敏幸(在アレキサンドリア)
それでも、驚く事満載の日常編…。あらあら、エジったら…。
世の中の全ての物事を呪ってしまいたい時がある。![]()
最近、そんな日々を過ごす羽目に…。
アレキサンドリの今回の冬は、異常に雨が多かった。毎日「テシュティ!!テシュティ!!」そう、何度叫んだ事か…。
メイヤメイヤさん、大家さんへとメールしていたそんなある日…。
(以下メール、前後省略)「…今年の冬は雨がほぼ毎日のように降っています。実は今も降っていて、まるでホラー映画の中にいるようです。…」
バシャーー!!(轟音) ジョロジョロジョロ…ジョロ……ドッシャーーー!!(爆音)……
しかしまー、随分と激しく降り続くものだ…これじゃーいつまでたっても洗濯物が乾せないぜ…などと考えつつ、メール送信後、買い物の為に階下に降りてみる。ところが…。
あれ!?雨降ってないぞ…。
でもなんだってまー、こんなジトジトとした雰囲気が続いているのだろうか?!
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そういえば、なんだか臭うなー…。っていうか、かなーりクサイ…。
(さて、このような状況下でのネガティブな直感は、エジではほぼ間違いなく{神懸り的に}的中する!!だてに在留経験長くはない)
雨と勘違いした原因は音。
恐る恐るその音へ近づく。フラットのビル中央の吹き抜けのスペースへと向かい、階段脇の窓へ。激臭!!そして窓から顔を突き出してみると!!…。!!…。
「ヤ、ラッビー!!ヤー!ラッベナーーー!!!」 (アラビア語でオーマイゴット!!)
思わず叫んだつもりで呟く僕は、絶句し、立ちつくした…。
こんな事が、いやこんな光景があって許されるのであろうか…。
目の前には、上階付近で壊れた排水パイプの割れ目から、糞尿が階下まで降り注いでいるではないか!!(ある意味「テシュティ!!」だけど…。)
共同使用の、全排水を処理する壁に外付けされた配管である。
しかも、バッワーブ(門番さん)の勝手に作った仮設住宅に、その排水が降り注いでおる…。(ほとんど屋根だけのあばら家なのに、これで生活できるのかしら…。)
普通、このような場合すぐ修理するべきなのは、どこの国のどんな人でも考えられる事。しかし、エジでそんなに上手く事は運ばない。こちらのフラットはたいていの場合、オーナーが各部屋別オーナーの所有になっている。しかも海に近い為、短期滞在者用に入居者が頻繁に入れ替わる、アレキサンドリア特有の事情を抱えたビル。なにか問題を抱えた場合、体裁としては一応皆でお金を出し合い直す事になっている。当然僕の立場的には、僕の部屋の大家がその修理費を出すのが筋である。
しかしながら、僕もエジであらゆる問題事をかいくぐってきた猛者(のつもり)である。
この時点で僕が下した結論は…「無視」である。
ここで何かを提言した場合、間違いなく、言い出しっぺの人間があらゆる尻拭いをさせられる羽目になる。しかも、正確なアラビア語を解さない、(ちょっと)お金持ちの外国人が修理を要求する。あー、考えただけでもイイ鴨にされる事は目に見えている。
お金だけじゃなくって、たぶん何日も労働者が来て、僕の部屋から窓を伝って修理(のような事)をし、その為に平日も家にいなければならなくなる。毎日仕事があるのに冗談じゃなーい。
そして例えば…。部屋を汚したり(当然汚しても掃除しないし)、勝手に冷蔵庫の中のものを飲み食いしたり、トイレでウンコした後の拭いた紙をゴミ箱に捨てて行ったり、ここぞとばかりに色んな知り合いに電話したり、ダメだって言ったのにかってにシャワー浴びたり、「お祈りするから寝室使わせて」って言うから使わせたら泥んこのままベッドで昼寝したり、恋人の写真を見つけて「日本の女のXXXは、どんなんだ??」と卑猥な質問ばかりしてきたり…。(全て経験済みの内容です、はい。)
あーーーー、考えただけでも気が狂いそーーう。(この糞尿テシュティを前に、階段に立ち、一瞬の内に想いをめぐらしていたのだった。)
よって、悪いけど「見て見ぬふり」もしくは「見なかったこと」及び「気付かなかった事」とする事に、一瞬の内に決定する。(臭すぎで実際は無理だけど…)
さて、久しぶりにカレーを作る為の買出しを再開しよう!!
買出しから戻ると、部屋が臭う…。どうやら、その問題のビル中央の吹き抜けを中心に僕の部屋は形成されているらしかった…。(って、知ってたけど、現実を受け入れたくなかった。)つまり、そこの空気は直接僕の部屋に入ってくる(吹き抜けだもの…)。
バシャーー!!(轟音) ジョロジョロ……
どうやら、バッシャ?はトイレの水を流す爆発音(下まで滝となって落ちる為)で、ジョロジョロ…はシャワーとか、台所の水周りの音。
…。
「君は、物事の悪い側面ばかりを追おうとしている。もっと良い側面を見ようと努力しようよ。」と、村上春樹の呟きが、どこからか聞こえてくる。そうだ、忘れよう!!僕は今ハッピーなんだ。今は笑えないけど、きっといつの日か…。
さて、料理を始める。台所の真下は問題の滝つぼ…。臭いも音も絶好調!!
驚くほど手際良く進めた料理は、希少価値の高い日本製品でフィニッシュを迎える。
さて、食事。
オーマイ、ゴット!! 何でよりによって、こんな時に大切なルーを使ってカレーなんか作ってしまったのだろう!?俺はバカか??
もう、部屋中糞尿臭くって、カレーを食べてるつもりが、〇〇〇を食べてるみたい…。
やっぱり、考えてしまうぜ、色んな事をー。(ビールも色といい泡といい、なんだか…。)
寝室として使用している四畳半の部屋もまた、その吹き抜けを挟んで台所の向かいにある。こちらは窓がきっちりしまるので、臭いの被害は免れたものの、明け方まで必ず誰かのトイレを流す爆音で目が覚める…。バッシャーーー!!という音の度に飛び起きる。眠れない…。
悪夢だ…。まだホラー映画の方がましだ。エンディングがあるんだから。
さて、そのような日々が、結果的に約一週間半続く事になる。当然、大家に言ったがなしのつぶて。他の部屋の住人達も、責任をとりたくないからか、誰もなにもせず。(みんな一緒かい!?)
まさに、世の中の物事全てを呪ってやりたい日々を送る羽目に…、苦行の日々。
「心頭滅却すれば、火もまた涼し」
「エジのふり見て、我が不利なおせ」
結果的には、一番糞尿の被害を多くこうむった階下のバッワーブが動いて、修理等一件落着したようだ。(って、自分で直したみたい)
いちいち小さな問題に振り回されては生きてゆかれない。アレキサンドリアは今日も雨が降り続いている…。
なんでも有りの世の中って
日記のようなものを毎日つけている。かなり長く日々文章化するのだ。しかし、後で読み返した折、どう考えても納得できない文にぶち当たる。でも、エジだからか!?(以下日記、前後省略)「…(朝通勤の為)トラムから降りて、新聞を買う。学校へ向かおうとしたら、新聞屋の隣で、太ったおばちゃんが死んでいた。朝礼はいつも通りで、生徒と一緒に体操をし…」
さて、思い返してみると、確かに「死んで」いたのである。
しかも、子供(その息子!?)が、脇で平然と遊んでいた。良く考えると異常な光景だ。
まず、僕は何をしていたのか???
そうだ(ムバーラック(エジプト大統領)の写真を集めている為)、新聞を毎日買わなければならない。新聞を購入し、キオスクのオヤジにそのお金を払った後、学校へ向かおうと体を進行方向に向けた瞬間、うつ伏せになった巨体が、その隣の建物のエントランスにどっかりと横たわって、手足が不自然に投げ出されていた。そしてピクリとも動かない。(巨体は普通呼吸に合わせて必ず動くはずである。)4・5歳の子供が周りでなにやら駆けずり回っている。
アレ!?変だぞ…と思って、キオスクに戻り、親父に告げる。
僕「ちょっと問題ありなんだけど…。たぶん、人が死んでるよ、隣で…」
オヤジ「あーー(知ってるの意味)。マトハフシー(怖がんなーー)」
僕「いや、そうじゃなくって、死んでるってーたぶん…。」
オヤジ「あーーー。マーティットゥ(あーー、死んでるよー)」
僕「知ってんなら何とかしようよ、警察とか救急車呼ばないの!?電話あるんでしょう!?」
オヤジ「あーー…。」(エジ独特の煙にまく時の対応の仕方で…)
目撃者(野次馬!?)が多い事と、外国人の自分にはとても手におえないと判断し、学校へ向かう。そしてすぐ忘れていた…。
エジ人はとても優しい。優し過ぎて、時々殴り倒したくなるほどである。でも、何故みな助けないのだろうか???
日本でだって、さすがにあそこまでなっていたら、誰か助けるはずなのに…。
後日、エジ親友にこの出来事について聞いてみたところ…。
エジ友「トシ、いいか。その話しをする前に、有名な事を話して聞かしてやる。新聞にも出ていて、皆知っている話しだ。」
僕「なんだよ、改まってー。どうせ下らないノクタ(冗談)だろー!?」
エジ友「ボッス! エッスマー!!(イイから聞け!!)」そう言って彼は語り出した。
ある日、心優しい善良なタクシー運転手が交通事故現場を通りかかった。
轢いた車は、とおに逃げ去った後…。
野次馬は多いが、誰も要領を得ず、怪我人の様態は悪くなるばかりだ。たまたま通りかかったその運転手は、見るに見かねてその事故にあった怪我人を車に乗せて、乗車賃の当てもないのを覚悟に、急いで病院まで運んだ。ところがその車中、怪我人は息を引き取ってしまった。
さて、病院に着いた運転手は、事情を説明するも証拠がない。疑われる事となる。
何らかの問題を起した場合、現場ではその起した本人が処理する事が普通であり、科学的な捜査など全く期待できない社会にあっては、現場に居合わせた人々がその段取りの優先順位を決める。路上判定が自然に行なわれる。当然、この場合轢いた本人が病院へ連れて行くのが筋となる。
善意と、好意の塊である彼は、人の命を助けようと無理して運んであげたにも関わらず、その後問答無用で刑務所に入れられたそうである。全ての人生を棒に振って…。
さて、
エジ友「トシ、分かったかー!?つまり、そういう事だ。しいて言えば、捕まったウンちゃんが不味かったって事だ。揉め事に関われば、それだけ大変な目に遭うんだ。俺だって、そういう事はちゃんとしたい。昔はエジもちゃんとしていた。でも今は…(ケダ)…なんだ。マーレーシ(仕方がねー)!!」
僕「でも、みんなそうなのー??」
エジ友「いや、金持ちはなんの問題もねー。周りも助けるさ。でも、貧乏人は救急車呼ぶのだって、値段交渉から始まるんだ…。」
僕「つまり、あのオバハンは死んでるのを皆分かっていても、もめるのが嫌でみんな知らん顔してるって事…?」
エジ友「あー、そういう事だ、オメーも頭がよくなったナー…。」
シューーーーリョーーーーーーーーーーー!!!!!! (おしまい)
エジ人は、日々本当に親切に、疲れてしまうほど優しく接してくれ、日本人も大人気。でも、本当にまずい事になったら…。
「死人に口なし」
「エジの祭り(後の祭り)」
何となく分かってた、けど…。
そういった事…。
エッテファッダル(どうぞ召し上がれ!?及び、一緒にいかがですか!?)
「エッテファッダール!!(どうぞ召し上がれ!!)」そう声をかけられ、エジ生活の初期はよく色んなモノをタダ食いしたものである。
これは建前上の挨拶で「礼儀」である。そう言われたからって、本当に貰って食べたりしてはいけない。しかも、街角の知らないエジ人から…。
そう、街の色んなエジから我々は毎日のように、色んな物を勧められる。
エッテファッダール!!そして、差し出された手に握られたモノ…。
こういう時は「ショックラーン!!(お心遣い、ありがとう)」と返せば良いのだ。
全ての物は万人に分け与え、譲り合う心を養う大切なイスラーム文化。素敵なのは確かなんだけど、こんな物まで…!?
エジ人1「エッテファッダール!!」とある街角。そして手に握られた、飲みかけのお茶。もう底に溜まった紅茶殻しかないのに、それを差し出して…。
僕「ショックラン。ミッシュ アーイズ!!(ありがとう?って言うか、いりません。)」
エジ人2「エッテファッダール!!」ゴミ掃除の労働者が、ゴミの中から拾い上げた腐ったオレンジを差し出して語り掛ける。
僕「ショックラン。って言うか、ゴミを捨てたくて待ってるのよ、早くして。」
エジ人2「レーー?ヘルワ ダ!! なんでよ!?美味しいよーこれ」
僕「…。(じゃー、お前が食え!!)」
エジ人3「エッテファッダール!!」日本に電話するため並んでいると、前のエジ男が公衆電話の受話器を差し出して一言…。知らない人のかけた、知らない相手を勧められても、一体どうしたら良いの??
僕「レーーー??(なんでやねん!?)ショックラン、ヤッラ バー!!(って言うか、僕も電話したいから早くして。お心遣いはけっこうです!!)」
エジ人4「エッテファッダール!!」日曜日のラメセス中央駅の公衆便所は、お祈り前で大混雑。列に並んでやっと次に順番が回ってきたと思ったら、隣の便器で真っ最中のエジオヤジが一言。しかも、手まで差し出して…。
僕「ラッ!!ショックラン。(いりません。)」一体、互いの物を同時に突っ込んで、何をしようって言うのだろうか…。失礼な。(ここはホモが多いことで有名なんだけど…)
エジ人5「エッテファッダール!!」僕の教室の脇にはゴミの番人としてヨボヨボのオジちゃんが働いている。彼が何かを食べている時に通りかかると、いつもこう語りかけてくれる。歯がほとんどないので、時々唾液でフヤフヤになったアエーシュ(エジパン)を、口から出して「エッテファッダール!!」と…。優しい彼が、僕は好きだ。
一昨日、彼はこっそり人目をしのんで鼻をほじくっていた…(暇なのである)。そしてそれを食べていた…(時々目撃)。
僕は一瞬ためらいながらも、彼の前を歩きすぎた。その時…!!何食わぬ顔で彼はこう言い放った…(もちろん指をこちらに向けて、にんまりと笑いつつ)。
「エッテファッダール!!」
僕「!! …。」
「タダより高い物はない」
「親しきエジにも礼儀なし(親しき仲にも礼儀あり)」
お心遣い、いつも本当にありがとう。
素敵な想い出もありがとう。厚意は一生忘れません。
さて、日常といえば、最近エジの外貨換金率が、固定相場制から変動相場制へと移行し、三年前に比べ下手をするとドルが2倍の値打ちになってしまった(約三年前100ドルは340LEだったけど、今は600LEぐらいの所も)。物価も流動的になってくる…。
(写真はラマダン明けのお祭り用の羊たち。あっけない、、、)
アレキサンドリア郊外には、大きなショッピングモールが2つも建設され、最近のイスカンダラーニーの流行発信源らしい。場所はスモハー地区。その内の一つ「グリーンプラザ」へ、友人(元同僚のフレンチ)の結婚式2次会の為、深夜行く事になった。
デカイ…。綺麗(日本みたい)。
ヨーロッパ人軍団にお供して行ったけど、エジ人より我々の方がオロオロしていた…とってもハイソ(もう行かないけど)。
日本の今風のショッピングモールと変わらない…(内容は別にして)。しかも、お酒が飲めるクラブ(そこで2次会だった)まである…。
約三年こちらで生活して、「日常」にそんなに変化は無いような気はする。でも、イスケンデレイヤ(アレキサンドリア)も、イスカンダーラーニーも確実に、時代の波に飲み込まれているみたい…。
便利になるのも、生活が豊かになるのも良い事かもしれない。
貧しい人々も、もっともっと減っていゆければいいと切に願う。
でも、 「エジ」 変わらないで欲しい。
期待なんてしないし、何も望まないけど…。
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