テシュティ!! イスカンダラーニー 

(雨だ!! アレキサンドリア人)

第3回

佐々木敏幸(在アレキサンドリア)



アレキサンドリア図書館(2) その後…。

正直なところ、エジプトの分際で…

 このような場で自己弁解しても仕方がないのかもしれませんが、私を知る人は一様に「あいつは口が悪い」と思っているらしい。つまり、はっきりモノを言うのである、昔から。

 しかしこう思われる事は、ある意味で日本的な感覚だからと私は割り切ることにしている。

 ダメなものには「ダメ!!」とはっきりと物申す以上に、私は良いモノには「良い!」「素晴らしい!!」「カッコイイ!!!」と、はっきりと意思表示をする。そのスタンスはまた、アーティストにとっての「信用」に繋がるモノとかってに思い込んでいる。

 さて、そのような価値判断において、このアレキサンドリア図書館。建物、設備、(一部の)内容に関して「素晴らしい!!」と形容せざるえない。

 正直なところ、エジプトの分際で…と思っていた節もあるが、それは正直に「本当にゴメンナサイ!!」と謝りました。

 もし「完璧に」内容が充実する事があるのであれば、おそらくエジ人達が言うように「世界一」の図書館になれるのかもしれません。私はこの2ヶ月の間に、5度足を運び、2度中に足を踏み入れました。

 ただし、やっぱりありました、エジっぽい事物が…。(ちょっと安心…)
 

3人もの警備員に同時に身体中をまさぐられ

 エジ人 「外国人は10ギネー!!」←(エッ!?15ポンドじゃーなかったっけ!? どうもエジプトでは珍しく、値下げしたようだ。素晴らしい!!)


 おとなしくチケットを購入して中に入ろうとする私に、予想よりも安い入場料を言い渡すカウンターの職員。もう半分エジプト人の私はひるまずにこう返した。
 

 僕  「僕は学生だから、半額にして!! アラビア語なかなかのモンでしょう!?」

 エジ人 「OK!!ノーブロブレム」


 そういって、学生証の提示もなしに簡単に半額の5LEと印刷されたチケットを渡される。

 ラマダーン中に初入場を試みた私は、金曜は閉館、平日は11時から14時30分まで、というよくわからない開館時間に振り回され、結局2度手間を取らされるはめになった。

 時間は午後1時。

 そのチケットを手に、入り口へ向かうと多くのエジ学生が引っ切り無しに出入りしている。

 どうやらエジの大学生は、学生証を提示すればフリーパスらしい。

 もぎりの警備員にチケットを切られるとすぐに、金属探知機で厳重なボディーチェックを受けさせられる。(まあ仕方がない、昨今の世の中、テロブームなんだから)

 しかし、ブザーが鳴ったからといって、何故僕だけ3人もの警備員に同時に身体中をまさぐられ、全く関係ない質問攻めに遭わねばならぬのか…。でもこの程度で、僕はもう怒ったりはしないけれど…
 

エジ人(1) 「この大きいカギは何だ…この小さい方は? 誰の家だ?? 断食してるか?」
僕  「自分の家、これは学校の教室のカギ、今日は2時間だけ断食した!! OK!?」

エジ人(2) 「このモバイルは日本から持ってきたのか? ノキアはイイなー、さすが日本!!」
僕  「これはエジプトで借りてるの!! ノキアは日本製じゃーないよ!!!」

エジ人(3) 「ショックラーン!!(ありがとう!!)」 と言って僕の帽子をかぶる…。
僕  「アッフワーン(どういたしまして)」 そして、彼のトランシーバーを掴む。


 つまり、暇なのである…。

 「いいから早くしろー!!」なんて、間違っても言ってはならない。
 

 やっとの事ですりぬけると、まだ何も機能していない近代的カウンターがあり、そして大きなドアからいよいよ内部へ。ところがまた警備員がいる。
 

エジ人 「カバンは地下のロッカーに入れて下さい。」

僕 「えーー、またーーー!?なんでよ???」

エジ人 「そこに物を詰め込まないように…。」


 つまり、本を盗まないように、身一つで中に入れと言う事らしい。

 カバンを置き、再度中に入ると、広大な空間が広がる!!

 「スゲ―――…(涙)」確かに大きい。

 ガラス張りの図書館内に張り出したフロアーから見渡すと、まるで段段畑のように階段状に広がる空間を見渡せる。各段のフロアーには一列に並んだコンピューターが常時インターネットに繋げられて、自由に使えるようになっている。早速中に入ってみた。
 

 大きな美術展のポスター。何か彫刻らしき立体が広いフロアーに置かれている。聞けばこれが展覧会らしい。(う―――ん、これじゃー日本の美大生レベル…)

 さっきつまずいたり、館内地図が張られてあったものも、作品だったとか…。

 素通りして、先に展示室へ。

 ここは三室に分かれてあり、向かって右が宗教関連古書の展示。中央がアレキサンドリアの歴史。左が企画展室。

 まずは右手。ここには主にクルアーン(イスラム聖書)の年代ものがカイロ博物館にもないようなガラスケースに並べられている。ケルトの写本などもあり、なかなかの物である。

 中央。近代アレキサンドリアの街の生立ちが、イラストと写真などで展示される。個人的には、僕の現在勤めている学校の75年前の写真が興味深い。「あ、ここ僕の教室!!」なんて指差して言っても、館内のエジ人は誰も取り合ってはくれない。近代建築図書館の中では誰もが「文明人」と化している…。(オーーーーイ!!そんな目で僕を見るな!!)

 そして左手。マクロ写真の企画展示。どうもここには外国人のキュレーターが居るように思われる。展示の質が良い。ゆっくりと足を運んで行くと、いきなり出産シーンの展示が!! あれ、オッパイも写っているぞ!?

(《注》イスラーム世界で、女性の裸はかなりの御法度。H本所持で捕まるとか…。)

 更に歩みを進めれば、精子の大群の写真。(まあ、ここまで来れば別に構わないのか…)

 それにしても、皆そっけなく、そんなハラーム(御法度)な写真をそっと眺めては文化人気取り(のように見える)。この内容なら街では人だかりができるはずなのに…。

 そうだった、ここは「文化人」の空間だったのだ…。
 

ダメです、ご飯です。

 早速、図書館としての本題、蔵書を確認する。

 下に下れば下るほど開いた本棚が目に付く。棚の一段一段に蛍光灯が灯り美しい。本の充足率は全体でも30−40%というところだろうか。しかも、欧米の言語(主に英語)で著された中古本が中心。各フロアーには、数台のコピー機が入った複写室があり、学生でごった返している。

 そして、僕のお目当ての「美術書」のコーナーで足を止め、早速閲覧。

 初めて見る画家の画集を見つけ、ページをめくり始めると…。
 

エジ女 「時間です、退場して下さい!!」と、毅然と語りかける。(どうやら職員らしい)

僕  「だって、まだ1時50分だよ。まだ30分以上あると思うんだけど…。」

エジ女 「ダメです、ご飯です。」 更に毅然と語る。

僕  「メシって…、ラマダーンだから…??…マーシー(OK)…。」


 どうやら、かたずけも入れて2時半までなのか…。それにしても、あんなに自信に満ち溢れ、毅然とした態度で「ご飯です」って…。メシって、あなた自身の個人的な事情でしょう…さすが文化人たる文化施設、アレキサンドリア図書館である。

 出なおすことにした。
 

 ラマダーンも明け、平常営業。金・土曜日は3時から7時半までの開館。

 私の家族が日本から訪れ、我が愛しのアレキサンドリア案内も大詰め。

 自信満万にチケット売り場でお金を5人分出すと…。
 

エジ人 「外国人は一人20ポンド!!」

僕  「ハッ!? 2週間前は5ポンド(学生料金)で入ったよーー!!」

エジ人 「ダーーーーーーーメ!! 学生証見せろ!!!」


 値下げしたかと思ったら、今度は値上げ。しかも倍…。

 年末と言う事もあり、外国人もかなりたくさんいる。大手旅行代理店が観光スポットとして大型バスで乗りつけているからだ。

 中に入ると、展示は前回とあまり変わらない。今度は内部の散策を試みた。

 まず一番下のフロアーには、コーランなどのイスラム関連と蔵書を検索できるコンピューターが置かれている。ここではイスラームとアラブ研究を志す人には、良い勉強の場となるのではないだろうか。そして向かって右側のフロアーから別棟の階段を登れば、アラブ音楽関連のフロアー。しかしここにはほとんど物がない。

 代わりに中学生の工作のような、発砲スチロールでできたウッドベースが置かれてあった。

 これって展示物??でも、やっとエジプトらしいものを見つけて一安心。必見!!

 記念撮影を行なう。

 エレベータは地下4階、地上4階。

 上まで上がり外に出られるスペースが少しだけある。そこからの眺めは最高!!ピラミットに登った人の話しは聞いた事があるが、図書館に登った人の話しはまだ聞かない。つい登りたくなる(《注》僕は登ってません)。でも、係員に見つからないように。

 他にも最上部には、一般人立ち入り禁止のVIPフロアー、同時通訳ができる機材が整った、ガラス張りの会議室などがある。

 他にも、日本人には図書館の外壁に書かれた日本語と、その間違い探しをするのも楽しみの一つ。私は今まで「人」「画」「貝」などを見つけましたが、字が間違いっぽいです。そして、まだまだありそうです。

 週末には、ほぼ毎週コンサートが行なわれている様子。

 この併設されたホールは、2年ほど前からすでに使用されており、僕も何度か聞きに行った。知らずに行った、ジャズのハービーハンコックのコンサートでつい寝てしまい、後で「もったいない」と怒られたけど。だって、15ポンド(約350円)だったんだけど…。

 外の入り口付近から上の階段を上がれば、ヒルトンカフェがある。が、まだ営業できていない。

 プラネタリュームと思われる球状建築物が海側に建てられている。こちらははたして営業しているのかしら?? 夜は外壁が青く光り、墜落したUFOのようで異様です。

 入り口付近には、10月にどこから持ってきたのか「本物の」ファラオの彫像がそびえ立つ。
 

 ああ、(本がないんだけど…)何て素晴らしい図書館なんだろう!! って言うか、これは図書館なのだろうか!?(まあ、深く考える事はやめにしよう)

 ああ、居れば居るほどわからない事だらけになっていくエジプト。僕の価値観は崩壊しっぱなしです。(崩れる事が、最近快感になってきたけど)

 次は世界の7不思議の一つ、ファロスの灯台でも作るのかしら…もちろんユネスコと、我々の税金で…。

 さて、学生証でも作っておこうか、今のうち…。

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