テシュティ!! イスカンダラーニー 

(雨だ!! アレキサンドリア人)

第2回

佐々木敏幸(在アレキサンドリア)



ラマダーン = お祭り月間!!


日本に帰っていた折、ラマダーンの話しをすると皆一様に複雑な表情を返してくる。

「エッ?なんで??」と僕は思うのだが、普通の日本人はこちらの人々がストイックに一月も断食していると勘違いしているらしい。

それは違います。ラマダーンは(時に狂った)お祭り月間です。ハイ。

今回は、一般的ではないラマダン事情を紹介してみます。

「トシャ!! ヤー トシャ!!」
通りの向こうから、なにやら耳障りな呼び声がする。

仕事の帰り道、ラマダーンのイフィタール(断食開けの食事)前の激しく人と車の往来する中、(たぶん)僕の名前を呼ぶ声がする。(ちなみに僕は周りから「トシ」と呼ばれている)

薄汚れた身なりで、青白い顔をした見覚えのあるエジ男がオロオロとこちらへ向かって歩いてくるではないか…。(ヤバイ、関わりあいたくない…)

エジ男 「トシャ! トヒャーー!!(爆声)」

僕 「エー ダッ!?(何だこの野郎?!)エンタ ミーン??(お前は誰だ?)」

驚いて見れば、いきつけのバーのカウンターチーフ、マハムードではないか!!
僕 「イッザイヤック エンタ? シャクラックターバーン レー?(元気?オメーの顔疲れてんぞ、どうした?)」

マハムード 「アシャーン ラマダーン!!」 (だって、ラマダーンだもんっ!!)

そう、彼の具合が悪いのは、決して断食だけが理由ではないのだ。ムスリムなのに酒を売る仕事をする彼にとって、この期間の仕事はない。ラマダーン中は僕の知り得る限り、アレキのエジエジBarと呼ばれる飲み屋の類は全て閉店しなければならない。

この約一月の間、ちょっとハラーム(御法度)な仕事につく彼らのような人々には、控えめな営業が課せられる。当然お酒も買えない。それがイスラームの掟に従う事なのである。他にも、近所の買い物客でごった返す通りの、豚肉を扱う店などでは酷い対応を受けた。

僕 「イッザヨコン!! アーイズ ハンジィール。(みんな元気? ブタくんない。)」

肉屋 「ハラーム!!マフィーシュ ケダ。エー ダッ?(御法度よ!!そんなもんないョ、何だそれ?)」

僕 「えっ!?いつも売ってるじゃない!!」

肉屋 「マーラフシュ ハラームケダ バッス エンタミーン??(しらねーな、そんな御法度なもの…ところでお前は誰だ??)」

時々エジ人は都合悪いときに責任逃れをする。だけど、いつも買っているのに、この時期ばかりは大勢の前では知らん顔までされてしまうのだ。って言うか、友達じゃん!?そこまでしなくても…。豚はイスラム教徒にとって、酒と並ぶ最も食べてはならない食物。これもラマダーンならではの仕打ちなのだろうか?

「ビバッーン!!(爆音)」

仕事の帰り道を歩いていると、耳元でとてつもない爆音の後「キ?ー?ン」という耳鳴りで、全く音が聞こえなくなる。

「ナンダ?今流行のテロか??」そう思い上を見上げると、ニコニコ笑ったエジ親父がテラスの上からこちらを見ている。なんと大の大人が、爆竹を投げつけたのだ!!

怒って怒鳴りつけたが、耳が聞こえないって結構話しずらくて、結局何もできず…。

通りを歩く人々曰く「マレーシュ ラマダーンカリーム!!(気にすんな、{寛大な}ラマダーンだから)」と。取り付くしまもない…。

ラマダーン中は街のあちらこちらで爆竹が鳴りまくる。ならではの風物詩でもあるのだが…。
 

僕の職場は、エジプトでは少数派のキリスト教徒の運営する学校。でも生徒の大半はムスリムである。

我々同様、当然キリスト教徒には断食は関係ない。表通りではタバコを吸う事ですら憚られるこの時期に、学校内では堂々と飲み食いが許される。

キリスト教徒の生徒と小さな子供のみ許される食事の後、彼らはいつもおやつを食べている。普段と変わりない情景の中、僕はいつものように自分のおやつを子供にあげていた…。

ところが、遠くで同僚教師が何やら叫んでる。

同僚 「ラッ!! トシ マムヌーア!!(だめ!!トシ、ダメダメ!!)」

僕 「レー…。(え、何で??)」

同僚 「アシャーン ホワ サーイエム!!(だって、この子は断食中よ!!)」

てっきりラマダーンだってこと忘れていた。幼いながらがんばって断食してるのに、戒律やぶらしてしまったのだ。かくなる上は…。
 
僕 「マレーシュ!! ラマダーンカリーム!!!(ゴメンゴメン、{寛大な}ラマダーンだから許してね)」
僕の首にはエジ人の腕が強く絡まり、ヘッドロックの状態で連行されていた。
エジ人 「タアーラ ヘナ!!(いいから来い!!)」
連れて行かれた先は、牢屋ではなく通り沿いの仮設テント。
この時期5時になると、街角のいたる所でイフィタールと呼ばれる断食開けの食事がどんな人にも無料で配られている。ザガートと呼ばれるイスラームの五行の中でも重要とされる、富める者が貧しい人々に与える喜捨の為の食事。異教徒の私でも歓迎され無料でご飯が食べられるのだ。(でも、同僚曰く「アレを食べに行くのは、恥ずかしい事なのよ」)
「タッダメシ、タッダメシー、嬉しいな?♪♪」と口ずさみながら、昨日とは違うイフィタール会場を目指して歩いている僕の前に、昨日のイフィタール会場のお兄ちゃんが立ちはだかったのだ!!
僕 「僕はここで昨日食べたから、今日はあっちで食べてみたーい!!」

お兄ちゃん 「ダーメ!!今日もウチで食べて行け!!」

僕 「イヤだー!!マカロニはもう飽きたから、次はあっちでお米が食いたい!!頼むから行かして―――!!」

お兄ちゃん 「ダーメ!!いいからここで食え!!見ろ、今日はコフタ(肉)だぞー!!」

僕(ヘッドロックをされながら) 「イヤー ロッズ ロッズー!!(イヤだ、米米!!)」

異教徒のぶんざいで、タダメシを恵んでもらいながら、より好みするなんて何て罰当たりな日本人なのだろう!?しかも断食してないのに…。

当然、コフタをいただきました。ハムドリッラー(御馳走さまでした)
 

僕の学校でも、イフィタール会なるものが毎年一度だけあり、5時きっかりから教員皆で食事会をする。ギリギリに学校の門へ着いた僕の目に異様な光景が飛び込んできた。

なんと若い軍人が3人で、本物の大砲に弾を詰めているではないか!!

僕は恐る恐る尋ねてみた。

僕 「すいませんが…、この大砲の向きはイスラエルとは逆の方向を向いていますけど、君らは一体どこ狙っているのですか??」

軍人 「えっ!?もちろんアメリカだよー!」

僕はそそくさと立ち去り、イフィタール会の席に着いて、食事開始の5時を待つことにした。

「ボゴーーーーンッ!!!!(遠くで爆音)」

皆いっせいにご飯を食べ出した。カツカツカツカツ………学校のホールでは、大勢の皿をつつく音だけが響き渡る。

どうやら、イフィタール(食事)開始の合図の為に、空砲を撃っているらしい。聞けば、特別な事ではなく毎日学校の前で5時に大砲が炸裂するそうな…。
 

ラマダーン経験もこれで4回目。ただでさえ色んなビックリが起こるエジプトで、このラマダーン月間は最もエキサイティングな期間。優しく陽気なエジ人達は、ちょっとした掟とtoo much な施しを我々にも与えてくれます。

僕は最近、そんな彼らとの日々が心地よくなってきました。

さて…僕も一回くらい断食してみようかな…。

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