(雨だ!! アレキサンドリア人) 第1回
佐々木敏幸(在アレキサンドリア)
サン・マルコ・カレッジの喜田さんの後を引き継ぎ(って美術・陶芸教師だけど)、アレキサンドリア生活もはや3年目。
2002年9月から、エジプト人の強い希望により戻ってまいりましたが…。
アレキサンドリアに生活する、もう半分エジプト人!?の佐々木敏幸が今のアレキの風物を時々レポートしてみちゃいます。(もうすぐ4度目のラマダーンとお正月。クリスマスもお雑煮も遠き過去の思い出…)
開館!! 快感?? アレクサンドリア図書館!?
「どうやら10月にマクタッブ・アルフェーン(図書館2000)がオープンするらしいぞ!!」そんな噂が街で囁かれるようになったのも、もうかれこれ2年前の事。
イスカンダラーニー達(アレキサンドリア人)は一応気にかけてはいるものの、実はいつ開館なのか誰も知らず、街中で変な噂ばかりが約2年もの間錯綜し続けた計算になる。
当時、ボランティアで絵画教室をやっていた、近所のベルギー人の娘のお父さんは建築家で、アレキサンドリア図書館を作りに来た現場監督。食事に誘われた際に話しを伺うと「計画ではもうできてもいい頃なんだけど…エジプトだからねー…。」と。
エジプトを知っているだけに妙に納得…。
そんなこんなで、人々の間にも「いつかはできんベー、インシャアッラー」と、半分諦めに近いムードが普通になっていたここ最近。
本当にオープンする!!との噂がまことしやかに囁かれ始める。
この手の噂は当然もう皆聞き飽きてるから「あっそー・・・」ってな具合であるが、本当に、しかも10月にオープンするらしい。
確かに10月って聞いたことはあったけど、まさか2年後だったとは・・・。
名前もアルフェーン(2000)が外され、タダの「マクタバ(図書館)」と呼ばれるようになった。
実は約1年前に、この図書館に僕は入っていた。
サンマルコカレッジの2ブロック先。近いので気になっていたから、たまたま外国の視察団の見学の折「日本からわざわざこの世界一の図書館を見にやってきたから入れてー」とゴリ押しで入れてもらったのだ。
円柱を斜めに輪切りにしたような外観のこの図書館は、外側を世界中の言語をレリーフ状にちりばめたカリグラフィーが並ぶ外壁で被われている。ちなみに日本語では大きく「画」と刻まれているが、字が完全に間違っている。(マレーシュでは済まされない…。)
夜はガラス窓で被われた天井に、煌びやかな電飾が灯りアレキサンドリアの夜景を演出する。
中は広大な段段畑を思わせる、奥行きのある広い作りで、本棚の一段一段に蛍光管が灯り、エジプトで見た事もないような机が整然と並んでいた。
でも本がない。エジプトにはコーラン屋はあれど本屋はあまり無い。エジプト中の本屋の本をかき集めても、ここに一体どれだけの本が納まることができるのか…?
とってつけたようなインフラ整備
開館が現実味を帯びてくる中、世界中からの来賓客の為に、街中でとってつけたようなインフラ整備に拍車がかかっていた。バス停などない国に、鉄筋で作られた屋根付きバス停が、街の中心だけに全て設置され、交通ルールのない国なのに、電飾付きの標識がそこいら中に立てられ、なんとクラクション禁止標識までしだす始末。
道路は多い所で13車線。海沿いにはヨーロッパ風の街灯が建ち、ゴミだらけだった街が塵一つ無いピカピカの街に転身していった。
興味深い事は、海沿いと図書館近辺の街灯に整然と設置された世界各国の旗についてである。アレキサンドリア大学の前に建つ図書館界隈にアメリカの国旗が数本掲げられた。
今年の4月、学生が911のテロ以後のパレスチナやアフガン情勢などから反米デモをいよいよエスカレートさせ、死者を出すほどの暴動にまで発展していた。
よりにもよって、その現場にアメリカの国旗を掲げるなんて…エジプト政府も挑発してるのかしら??と思わざる得なかった。
事実、開館式にテロが起きるから近づくな、という噂も聞いたほどで、何か起こりそうな気配もしたのだが…。
2002年10月、街中のイスカンダラーニー達は更に混乱する。この僕も…。
エジ人1 「いよいよ図書館が開館するらしいぞー!!来週らしいんだけど。」
エジ人2 「へー、ホントらしいね。外国からたくさん偉い人が開館式にやってくるらしいね。」
エジ人1 「ウン、だから僕等休みらしいよ?。やったー!!」
エジ人2 「君の会社はいいねー。」
エジ人1 「いや、アレキサンドリアだけみんな休みだよ。しかも1週間も!!」
エジ人2 「エッ!?マジでー!?やったー!!!」
エジ人1 「でもね、幹線道路はすべて閉鎖。飛行機からミクロバス(一番ローカルなバス)まで全面ストップで、ビルには狙撃兵が立つんだって。外でられね?ぞ、おいっ!!」
エジ人2 「どうやって生活するんだ??」
エジ人1 「そんなん、知らん!!ホスニー(大統領)が決めたんだから仕方がねーベー。」
エジ人2 「そんなん嬉しくねーけど、まー休みだからいいか・・・。」
開館式典は15日か16日か17日・・・。つまり寸前まで分からない。しかも、急に来週から皆強制的に一週間もアレキ人だけ休みにさせられる・・・訳がわからない。
街中が「いつから休みだ??」の話題でいっぱいになる。
当然、休みの日にちもさっぱり決まらぬまま、アレキサンドリア中が妙な興奮に沸き立つ(もちろん図書館ではなく、休みの事で)中、12日から18日まで、ほとんどの職場や学校が休みとなった。
学校の6畳一間で生活をする僕にとって、これは死活問題であった。
まず、食事はどうやってとれるのだろうか。図書館の近所の私の学校は、当然警備が最も厳しい地域で、外にはまず出られない(らしい)。
このまま飢えろって言うの??同僚は、どっかに行け!!という。
しかし休日が正式に決まったのは休みの前日の午後。
良く考えてみると、どこかへ行くにしても、その日の晩に決めて荷物をまとめて1週間の長旅に出なければならない…。
青天の霹靂。どこにも行きたくないのに行かざる得ない…。
全てのイスカンダラーニーはこの時、図書館どころではないさまざまな問題を抱えていた。
図書館開館週間の初日。
早朝、僕は同じ学校で働くフランス人ボランティア達と共にアレキサンドリアを脱出する。近所の工事現場は大きなエジプト国旗で隠され、電飾で飾られていた。いくらなんでもやり過ぎである。
休みという事もあるが、道路には人っ子一人おらず、変わりに警察と軍隊がひっきりなしに往来している。ちょっと変な街…。
はたして駅まで行けるのか?電車はあるのか??
幸い尋問にも合わず、すんなり脱出し我々はカイロへ向かう事ができた。
開館式当日に付いては、居なかったので良くわかりません…こんなテーマで書いてて申し訳ないのですが…。
さて、緊急避難旅行後、一緒に旅を終えたフランス人の友人達と僕を前に、開館式に実際に行ったエジプト人女性教師が、顔に青アザを作り座っていた。
彼女曰く「最低な開館式!!」と。
アザの事については触れなかったが、何でも祭典用イベントに選ばれた子供達を引き連れて現場に行ったはいいものの、当日になって色んな事がドタキャンになり、結局子供達も中に入れず、大暴れ。
つまり、ほとんど現地人は中に入れてもらえなかったとの事。
他にも色んなエジプト人に聞いてみたら「すばらしい開館式だった!!」「世界一の図書館ができた!!」と皆誇らしげだが、何で知ってるの?と聞くと「テレビで見た」そうである。皆一様に…。
そして噂好きのエジプト人はまたしても色々な事を話してくる。
エジ人「ブッシュが来た!!」
ウソつくな!!何でこの御時世にアメリカ大統領が来るんだ!?
エジ人「ヒロヒトも来た!!」
何で日本の天皇が来るんだ?だいたい来てたら僕等が知ってるはずでしょう!?その人まだいたか??
エジ人「たくさん本やペンを買ったぞー!!」
図書館は本屋や文房具屋じゃなーい!!!つまり、ほとんどのイスカンダラーニー達は図書館の事はそっちのけで、おのおのの休日を満喫していたようであった。
外出禁止令…
で、我々にとって一番気がかりであった外出禁止令…。エジ人「え!?ちょっと少なかったけどタクシーもミクロも走ってたよ。1日だけ電車は出なかったみたいだけど。」と。
つまり、開館式当日以外は、普通の街だったようである…。
未来の事。それを表現する為に、ここで人々は「インシャアッラー」を口にする。つまり、その時になってみないと分からない、神の御加護があるのであるならば、という神のみぞ知る世界「未来」。
我々はまんまとその言葉にはめられ、無理して長い旅行に出かけてしまった。
考えてみれば、寸前までアレキ中の休みが決まらなかったのだから、こういう事だってありえたのに…。まだまだ知らない事一杯、やられっぱなしのエジプトである。
その後の図書館について、イスカンダラーニー達に聞いてみた。
エジ人1 「毎週色んなコンサートが開かれていて、タダなんだ。先週のピアノコンサートは最高だったぞ!!お前なんで来なかったんだ!?」
エジ人2 「展覧会見たか?お前絵描きだろ!?絶対見に行け、大きい絵がいっぱい外国から来てるぞ!!」
エジ人3 「昼なのに、夜なんだ。星がいっぱい見れる物語があるんだって。今度行こうな!!何ていうか名前忘れたけど」
僕「何!?それってプラネタリューム??」
エジ人3 「なんかしんねーけど、そんな感じのやつ。日本にもあんのかそれ?」
ト・ショ・カ・ン・ジャーーないのかーーーーーーー??????そういった訳で、あれから僕はまだ近所の「世界一」と言われる開館して間もない図書館に足を踏み入れられないでいる。
世界的な学術交流を目的に、ユネスコなど世界的な援助機関や各国の援助によって建設されたという、夢いっぱいの図書館。
先日、日本から来た私の知り合いが訪ねた折、チョットだけ中を見学して、いいお土産話にでもしようと入り口まで行ってみた。
エジプト人が皆、出たり入ったりのすごい人の数。中に入ろうとしたその時…
入り口の職員 「切符買って下さい、エグスギューズミー」
知り合い 「タダって聞いたんですけど…」
入り口の職員 「外国人はダメ!! 15ポンド、エグスギューズミー」
知り合い 「…」
我々の税金だってきっと使われている、国際色豊かな図書館。でも、エジプトにあるって事をちょっと忘れていたみたいです。僕はいつになったら足を踏み入れる事ができるのか…。
次回もあるかな?アレキ事情お楽しみに!!インシャアッラー…。
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