るーとらの秘密基地
blog「日のすきま」  
松吉
■くうくう!

●百物語 「脱ぐ女」
●袿姿の女
●手紙
●いぬきがヒルイヒルイと哭いています
●ロク
●トリル
●梅林

●津波
●doppel・ganger
●犬殺しの男
●ルカとセラ
●夢の記憶
●貝を食べる
●嘘つきエンピツ
(KとYの共作)

●冬の日
●眠る人
●さくら
             

■日のすきま
■メルマガ「日のすきま」
■月のすきま
■MK対話

夢の記憶

  私は あなたの 見る 夢だわ


 そう告げると男は当惑した顔をする。大抵の男はそうだ。
 私は、私を、しっかり実在させてくれる人を探している。
 弟が死んでから、私は、私のありかを無くしている。
 私はひらひら飛んでいるのに、私は私が飛ぶ風景を、野原を失った。
 私は弟の夢の中で羽を持ち、弟は私の夢の中で草葉を伸ばし、花をひらいた。
 けれどそんな「共鳴」が怖くて、私はある日、弟を冷たく突き放した。
 これは幻よ。
 わたしたちは別れた方がいいのよ。
 ひとはひとりで生きなければならないのよ。

 弟は黙って聴いていた。何も言わずに去って行った。
 次の日、
 ふたりがよく遊んだ河原に弟の死体が上がった。


  ぼくは きみの 見る 夢だよ


 ある日、そんなことを言う男が現れた。
 私はその男に惹かれ抱かれた。大事にしてくれた。
 けれど違った。
 男は私に自分の幻を被せているだけだった。
 自分の傷を愛しているだけだった。
 あるいは私の傷を。
 私はあなたの夢にはなれない。
 私はあなたじゃない。
 そう言うと、男は寂しく笑って手を振った。

 私はきっとこの世のものではない。
 誰も本当の夢を見ないから私はきっと実在しない。
 けれど私は夢を見る。
 静かな夜の河原。
 無数の蛍が飛び交っている。


   …………………………………


  「人間は夢で出来ており、眠りによって一生を終える」

                    (ルパード・シェルトレイク)