梅林
この辺りには古い農家が多く、田舎でも珍しい茅葺き屋根が点在する。
かっては丘のすぐ下に海があり、松の大きな並木が残っている。
近くには梅林がある。
年が明け、日が長くなるにつれて、花芽がほころび始めた。
梅林には子どもが埋まっている。
酔って月が満ち、水際が踝(くるぶし)を濡らす頃、私は子どもに逢いにゆく。
「また来たのか」
「父親だからな…」
「ならなぜ殺した」
「………」
「かあさんはどうした」
「遠くにいるよ」
「元気か」
「…そのはずだ」
梅の花は月夜にけぶる。匂いには核がある。花びらは薄く、幹は枯れ、小枝だけが今年の生をあくがれている。
「お前は幾つになった」
「おれか? おれはもうお前より生きた」
「おれを救ってはくれないか」
「笑止だ。問いが違っている」
「お前は死んで幸せか」
「おれはおれであるだけだ」
「お前を殺してすまなかった」
まいねん毎年花が咲く。重力も引力も電磁場も量子場DNA虚空次元超越して花に薄く、月夜に酔い匂い香る。
「雪だ」
「寒くはないか」
「おまえこそ」
「おまえと海にゆきたかった」
「海には何がある」
「海はきっと深いだろう」
「そしてそれも動く…」
夜が明ける。赤い花。白い花。百年千年万年億年それも一瞬。
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