5−@ JRと航空は両立できないのか

JRと航空は両立できないのか

 

 9月8日の朝刊に「新幹線時速360キロ計画/東京-新青森 めざせ3時間以内/JR東日本 空の便に対抗」と言う記事があった。こう言う記事を見るとまたかと言う気持ちとともに、腹立たしさを覚える。

 我が国のジャーナリズムは、こう言う目でなければ鉄道と航空の関係を見ることができないのだろうか。

 私は第三セクター航空会社に在職していたことがあるが、機会ある毎に新聞やテレビの記者にお願いしていたことがある。それは、航空対JR戦争と言う図式での報道をしないでくれと言うことであった。 

ある一部分をとった場合、確かに競争しているように見える区間はあるが、航空はけして鉄道全体にとって代わることはできない。都市近郊の通勤区間に航空が乗り出すことはないし、鉄道が非常な努力で維持しているローカル線を航空が肩代わりすることはできない。

 一方、鉄道は千キロにもなる区間では、時間では航空に勝てないし、既存の空港を利用する航空のように短期間で新路線を開設することもできない。

 利用者にしても鉄道か航空のどちらかだけが生き残ることを望んでいるのではないであろう。私が強調したのはまさにその点である。在職していた第三セクターの航空会社にしても、地域住民はJRの代わりになるように航空会社を設立したのではない。 

 利用者は鉄道も航空も必要に応じて使い分けられるように、両者が共存することを望んでいるのではないか。しかし、9月8日の記事は、依然として鉄道対航空戦争の視点でしかなく、こうした興味本意の記事が鉄道と航空の協調を妨げているように感ずる。鉄道と航空は重複する部分があるにせよ、むしろそれぞれの特長を生かせる領域の方がはるかに大きい。記事では東京-青森間のことにしか目がいっていないように読めるが、新幹線のもっとも大きなサービスは、始発駅から終点駅間だけではなく、その途中の駅による区間利用が自由にできると言うサービスの柔軟性にあるが、航空では二地点間のサービスしか出来ない。

 また、誰もが東京駅に住んで、新青森駅に用事があるわけでもなく、新幹線で東京-青森間が3時間になっても、航空を利用した方が便利な人もいるのである。 

 鉄道と航空のやるべきことは、部分的には競争しても全体としては利用者の選択するサービスをそれぞれの立場で提供することであろう。

 現実的には、JRの駅で航空券を購入できるし、航空旅客がJR利用時に割引して貰える航空割引制度もある。東京-青森間で新幹線と航空にデスマツチをやらせて、残るものはなんであろうか。一時的には割引合戦により利用者が恩恵を受けるかも知れないが、いずれは敗者が撤退あるいは供給を縮小してしまい、利用者の選択の幅が狭くなることにしかならない。また、勝者にとっても苦い勝利となるであろう。

 基本的に鉄道が得意とするのはいわば線上における輸送サービスであり、航空は比較的遠隔の二地点間の輸送サービスである。鉄道の一部、それも新幹線の始発から終点までの二地点間の競争だけを取り上げて、「鉄道対航空」戦争をあおるような視点は、両者の提供するサービスの本質を見誤っている。報道に望まれるのは、鉄道と航空が協調してどのようなサービスを利用者に提供するのが良いのか、その方向を利用者に代わって指し示すことではないだろうか。

以上