北海道は新しい航空政策を!
2004.2.15
去る1月30日に、かねてより帯広〜函館線の開設を計画していたエアァシェンペクスに定期航空運送事業許可がおりた。 発表されたところによると、6月には運航を開始するとのことである。
エアァシェンペクスが営業開始すると、北海道内の航空路線を運航する航空会社は、現在運航しているJAS(その頃にはJAL Japnとなっているであろうが)、HAC、ANK、A-net、ADKとあわせると6社にもなる。 これは沖縄県の県内路線を飛んでいる三社を大きく上回り、47都道府県でトップである。その輸送旅客数も2002年度で101万人にも達している。
これは2000年2月の航空法改正による航空運送における規制緩和の結果の一つであり、それでA-netが設立されてANKの肩代わりをし、エアァシェンペクスの新規参入となった理由の一つである。 それでは万事好調と喜んでよいのかと言うとそうでもなさそうである。 規制緩和で新規参入もある代りに、採算の取れない路線からの撤退もある。 ADKの稚内〜礼文、稚内〜利尻線からの撤退があり、ANKの紋別空港からの道内路線はなくなった。 また、現在運航されている路線も今後の継続が保証されている訳ではない。
規制緩和以前は、路線の開設、撤退は政府の認可事項であり、その手続きの過程では地域を代表する地方自治体が影響力を発揮する機会はあったが、現在はその機会は設定されていない。それで、北海道においても規制緩和以降の道内航空路線の維持発展にどう臨むべきか、どう関与すべきか考え直す必要がある。 その見直しにあたって考えるべき課題は次のようなことではないか。
・ 北海道内で将来的に維持したい航空路線網
・ 航空会社が撤退する路線についての対応
・ コミューター空港の今後の取扱
・ 上記に関連して第三セクターであるHACの役割
以上について、所見を述べたい。
1.北海道内で将来的に維持したい航空路線網
現在も100万人を超える道内の航空路線網は、北海道の将来にとって経済面でも文化交流の面からも重要さは変わらないであろう。 但し、JR北海道を始めとする鉄道網やそれを補完する長距離バスや離島における船舶航路もある。また道内の高速道路網も整備されつつある。
それらも勘案した上で、将来的にも維持したい、またこれからの開設の期待も含めて、航空輸送が必要な区間はどことどこであるか、定義する必要があろう。 勿論それは最低限のものであり、現実がそれを上回るならばむしろ歓迎すべき現象である。
現在の規制緩和の中にあっては、基本的にはそれら航空路線の開設・維持は自由競争市場にゆだねなければならないが、そのなかで、もし北海道の政策としても維持しなければならない路線があるのか、あるとしたらそれはどの区間なのかと言うことも予め検討しておく必要があると考える。それは次項以下にのべる路線の開設・維持についての地域や地元地方自治体の関与の仕方に関係してくる。
2.航空会社が撤退する路線についての対応
現在の航空法の下にあっては、ある日突然、航空会社が路線の廃止を発表することも予期しておかなければならないことである。 今の法にあっては、その時に地元は路線維持を陳情することはできても、それが路線廃止阻止の決定的理由となることはあり得ない。
そして、もし地元がその路線の存続を航空会社に要求するならば、応分の支援-その殆どは経済的なものであろう-を求められることは火を見るより明らかである。 その応分の支援を負担するとすれば、地域として、地元地方自治体としてそのための大義名分なり、確固たる理由が必要となろう。 それ故に、そう言う事態にあっても政策として維持しなければならない路線があるとすれば、それは予め考えておかなければならないことであり、行き当たりばったりに航空会社との交渉によるべきものではない。
民間企業である航空会社の努力だけで維持できない時に、地域として、関係地方自治体としてどうしなければならないのかも、考えておくべきであろう。それが、いま北海道に必要な道内航空運送に関わる政(以下、航空政策)であると信ずる。
3.コミューター空港の今後の取扱
北海道においては、宗谷南、留萌、日高、根室地方などでコミューター空港建設が検討、計画されてい.ると承知しているが、現在全く動きが見えない。これらの計画は、国の空港政策の転換(新規空港建設の抑制)から、中断になっているものと推量するが、これらの計画は永久に没になるのであろうか。
一時期(第6次空港整備5カ年計画から?)、国はコミューター空港の整備を積極的に進めていたが、その必要性は無くなったのであろうか。全国の1/5の面積を有する北海道にこそまだ必要な基盤整備ではないかと考える。
もし、将来それらの計画が再起するとしても、飛行場そのものは国や地方自治体の予算で建設されるが、航空路線が開設されるかどうかはまったく別の問題である。 昨今の我が国の航空業界を見るに、そのようなコミューター空港が建設可能な状況になったとしても、民間航空会社が喜んで自発的に路線開設してくれるとは到底思えないのである。
従って、将来、新たなコミューター空港建設が可能になった時には、その空港への路線開設問題は直ちに政策課題ととなるのは必至であるが、北海道には道が日本エアシステムと共同で設立した北海道エアシステム(HAC)がその役割を担うものと聞いている。 故にこれから検討すべき航空政策には、これらコミューター空港の整備及びそれを進める場合の当該空港に関わる航空路線は、前述した政策的に開設・維持される路線として位置付けられるべきである。
4.第三セクターであるHACの役割
もし、北海道がすべての道内航空路線の開設・維持をまつたくの自由市場にゆだねると言う政策を取るならば別であるが、もし一路線でも政策的に開設・維持したい路線があるとするならば、第三セクターであるHACの役割をどう定義するのか、どう活用するのかが重要な課題となる。
HACが設立された当時は規制緩和前であり、加えて札幌以外の道内都市間に航空路線を純民間ベースで開設してくれる航空会社はなかったので、その目的のために設立された。
現在は函館から旭川、女満別、釧路、及び旭川〜釧路線が開設されている。 しかし、この状況がエアァシェンペクスの参入により崩れようとしている。 即ち、従来純民間ベースで開設されることはないと見られていた帯広〜函館線を同社が開設すると発表したからである。 ここからだけ見ると、このような札幌のない路線ですら純民間航空会社が開設してくれるならば、もはや第三セクターとしてのHACの役割は終わったと言う声が出て来ても不思議はない。 そうして道内の航空路線の開設・維持は民間に全面的に任せてしまっても良いのではないかと。
しかし、筆者はその立場を取らない。 遠い将来はいざ知らず、見通せる将来においてはエアァシェンペクスのような会社が路線を開設するペースよりも、ANKがやったような紋別関係路線からの撤退のような大手航空会社グループの合理化策の一環としての不採算路線の整理の方が遥かに早いペースを取るであろう。
それ故に、それらの合理化される路線で道が政策として維持したい路線に肩代わり運航させられる可能性のある道の持つ唯一のツールとしての第三セクター、HACの存在が重要なのである。 例えば、今もし道がなんとか紋別関係路線を復活させたいとすれば、HACだけがそれに応える潜在的能力があると言える。 潜在的にと言っているのは、現在のHACは経営的にも運航能力としてもそれは持っていないからである。
HACは第三セクターとは言え、道の出資比率は49%で、残りの51%はJALグループである。 従って事業計画の立案と日常的運営の主導権は基本的にJALグルーブにあると見られる。 そう見ると、仮に道が紋別関係路線のHACによる再開を希望しても、JALグループが採算性の悪いが故に反対するとしたらどうなるのだろうか。 それでも道の希望が通って路線再開ができるとは思えないのである。少なくとも、このような路線をJALグループが新たに背負い込むのを反対する方が今のJALグループの方向にあっているであろう。
即ち、HACは道の航空政策遂行の-但しすべての道内航空輸送を自由市場にゆだねるのが政策と言う場合を除き-強力なツールとなる可能性があるが、それを現実のものにするには現在の道とJALグループの49:51と言う力関係を逆転する必要がある。 運航能力にしてももっとも不足しているのは運航する航空機の数であり、それも今はJALグループがその気にならなければ4機目の導入はないであろう。 結局は経営の主導権の問題である。 そして、外部から見る限りではJALグループがHACを、そして旧JAS傘下の地域航空会社であるJACも含めてどうするのか、方向性が見えない。それ故に、道の取る今後の航空政策においてはHACの役割の定義は重大な意味合いを持っているのである。
5.まとめ
ここ数年で、我が国の航空運送業界の様相はがらりと変わってしまった。 北海道においても前述のように例外ではないと言うより、ADO問題まで含めればもっとも大きな波をかぶっているとも言えるのである。 この時期にあたって、早急に北海道としての道内交通網における航空輸送をどう位置付けるのか、時代に適合した航空政策の確立が臨まれるのである。
その中にあって、HACの取扱は政策全体の方向性すら左右するものと言っても過言ではない。 北海道は我が国において地域航空の先進的役割を果たして来たし、現在も知事は全国地域航空システム推進協議会会長でもある。 北海道が今後も地域航空の先進であり続けるような、時代に適合し将来を先取りするような航空政策の確立することを期待するものである。
以上