2020年4月のミステリ 戻る

仮面病棟 
実業之日本社文庫 331頁 2014年 知念実希人著
感想
映画化されて映画を見る前に読まなきゃってあせってたところが、まごまごしている内に映画館が自粛になってしまったの。。。
 
力作。
犯人はしょっぱなからなんとなくわかるんやけど、真犯人とゆうか動機につながるところに驚く。
色々疑問はあるんやけどね。化粧道具とか服はどう調達しはったん? お金はどこに隠してたのとか。
そやけど、そんなことはちっちゃいちっちゃい。いやあ、うまく繋げはったわ。
昔、お医者さんとの兼業作家はえーよなあ。書くネタいっぱいあるし。と書いてはった作家さんがいてはったけど、
そうかもなーと思う。
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流浪の月 
東京創元社 313頁 2019年 凪良ゆう著
2020年本屋大賞
感想
この間新聞で出光興産の元社長さんが湾岸戦争の頃英国に駐在していた話を書いてはって
「日本のマスコミは戦争にはならないとの論調が圧倒的だったが、英国では戦争は必至、むしろ開戦を待っているような受け止め方で、
英国人は戦争が好きなのだと感じた。」とあった。
日本は太平洋戦争でこてんぱってんにやられ、もう二度と戦争はしません。戦争はよくない。と教育されてきたけど欧米では違うみたい。
国として「最大多数の最大幸福」を目指すということなんかな。そのための犠牲はしかたがないと割り切る。
英国はコロナ禍も「経済活動をできるだけ続け、抗体ができるのを待つ」集団免疫方針でトップが犠牲になりかけはったけど。
(HIVの薬が効くかもってことであれば、HIVと似ててもしかするとコロナウィルスは免疫を無力化するんじゃねって心配もあるらしい)
「最大多数の最大幸福」をまず基本とするのは政治として間違ってはいないと思う。だけど割をくう人はでる。
 
という世の仕組みではあるねんけどね。これは有事の際かな。
 
相模原の事件で、事件を起こした人の「合理性信仰」について
「自然、世界、この世というものは複雑で多様なものなので、人間の目から見ればデタラメであり
無茶苦茶に見えるのは当然であり、人間存在を含むすべての生き物は自然が産むバグであるのだから、どんな生き物も存在して当然であり、
これは存在していいが、あれは存在してはいけないなどと人間が決めることはできない」
という事実を(犯人は)受け容れることができなかったのだ。
と書かれている方がいて、「重度の障がい者は手間もお金もかかるからといって殺してはいけない」は当たり前のことやねんけど
あの犯罪のなにが間違っていたのかが一番よくわかる説明やった。
 
反社会的人間は別として、異質に感じるからといって排除してはいけない。
そやねんけど、そこをこの小説はさらに複雑にしている。自分が手に入る知識だけでは「反社会的人間」と「異質なだけ」の区別がつかないことはままあんねん。
「スポットライト/世紀のスクープ」でも子供のいる記者(マーク・ラファロ)は容疑者が近所にいると知ってうろたえはるもんね。
 
読み進めるのが苦しい。桜庭一樹の「私の男」や吉田修一の「悪人」を読んでいた時の様な辛さがあった。
読み終わってフランスの小説フランソワーズ・サガンの「優しい関係」を思い出す。
映像化するなら「文(ふみ)」は「寝ても覚めても」の東出昌大がいいと思う。
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生物学探偵セオ・クレイ -街の狩人- 
早川書房 381頁 2018年
アンドリュー・メイン著 唐木田みゆき訳
あらすじ
職場で色々あって自宅待機となったセオ・クレイが家に帰ってくると、玄関前に立っていたのは黒人の男性。
いつもは丁重にお断りするところだが、その日の出来事で弱っていたセオは写真の「緑色の目」につかまる。
感想
「生物学探偵セオ・クレイ -森の捕食者-」第二弾
作者の本職はマジシャンでイリュージョン・デザイナーだそうです。
 
生物学者かつ数学者が今回探すのは「死体」やなくて「家に帰ってこなかった子供の行方」。子供の名前はクリストファー。
先生は犯人の追跡を始める。
見どころ読みどころはふたつあって、アライグマの習性とバクテリア。とくにバクテリアの分散は新型コロナウィルス禍みたくリアル。
リアルなんはえーねんけど、生物学とか数学の話があってなかなかこの頭では理解できない。280頁の「それでも」はなんで「それでも」なのかさっぱり。
 
サイコパス(先天的)、ソシオパス(育った環境による後天的)反社会的人格障害者を事件のニュースを見て時々うすら寒く感じる。
サイコパスは未成年者の事件(特に女の子)に多いように思う。何年かたったら日本の日常社会に戻って、まぎれこむんやね。
また仮面をかぶった賢いソシオパスは偉大な政治家とか企業家にもなりえるん。有事の際には非情なところも必要なん。
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生きのびるために 
さ・ら・え書房 162頁 2000年
デボラ・エリス著 森内寿美子訳
感想
映画「ブレッドウィナー」の原作児童書
お父さんがターリバーンに捕まり刑務所に送られ、11才の少女パヴァーナが少年に姿を変え家族のために街に出るという骨格は同じですが、原作はアニメとは別の道をたどります。
 
コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」でルームシェアしているドクター・ワトソンは第二次アフガン戦争(1878年 - 1881年)で負傷した元軍医やねんけど、BBCのTVドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」(ベネディクト・カンバーバッチさんの)は舞台が21世紀に変わっても、ドクター・ワトソンがやはりアフガニスタン紛争で負傷している軍医の設定に笑ったんやけど、笑いごとやないねん。
 
ウィキでアフガニスタンの事をちょっと読んだんやけどそれはそれは複雑。アフガニスタンは部族社会でもともと国としてのまとまりが希薄やねんね。
(ちなみに日本国は分裂したことがない国らしい。北条氏も織田信長も徳川氏も「天子さまは天子さま。うちらはうちらで別の国作りますわ。ほな、さいなら」ってならなかったってことなんかな)
 
ロシアの南下政策によるインドへの進出を警戒した英国が第一次(1838年-1842年)と第二次(1878年-1881年)アフガン戦争でアフガニスタンを英国の保護国とする。
第三次のアフガン戦争(1919年)でもってアフガニスタンは独立国となる。
 
その後、パキスタンのインドからの独立に伴うクーデターとかあって、内紛 (1978年-)が起こりソ連はアフガニスタンへ軍事侵攻(介入)(1979年)するねん。
それで1980年モスクワオリンピックの集団ボイコットが起こったん。
 
1989年にソ連軍が撤退した後も内戦が続きターリバーン政権とアルカーイダが誕生した。らしい。
この本はそのころを舞台としている。
 
2001年3月6日、ターリバーンがバーミヤンの石仏を爆破する。そして2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件が起こる。
ターリバーンは、「湾岸戦争が勃発した1990年8月以降アメリカ軍がサウジアラビアに駐留していることに強い怒りを抱いていた」ねんて。
「ビン・ラーディンは、非イスラム教徒がアラビア半島に常駐することは預言者ムハンマドによって禁じられている」と解釈してはったらしい。
そしてアメリカが開戦する。(イギリス・フランス・カナダ・ドイツ等も参戦)
 
なんとも言えない話やわ。
本作はイスラム原理主義者による支配のもと、女性の人権皆無を描いている。
「ぼくの国、パパの国」でパパは「(ヒンズー教に比べ)イスラム教はみんなが平等なすばらしい宗教なんだ。」
ってゆーてはんのにね。
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枝野家のひみつ−福耳夫人の20年− 
光文社 196頁 2019年
枝野和子著
感想
立憲民主党代表の枝野幸夫代議士の夫人が著した枝野家の内幕暴露本 人となり「枝野家のひみつ」。
 
2011年の東日本大震災時の内閣官房長官で赤い目をしながら冷静沈着、記者がPCで文字が打てる様にゆっくりしゃべり、
男をあげた枝野さん。
「枝野寝ろ」ってツィートされてましたね。
あの姿そのまま、政治には濃く熱いがイジワルされても批判されてもまったく傷つかず、落ち込まないメンタル強しの男らしいです。
「20年経っても相変わらず飄々と、めげず、くさらず、落ち込まず、選挙、政治の荒波に立ち向かって行く」
枝野さんって弁護士さんだったんですね。夫を表現するのによく出てくる言葉は「ちんまり」 なんかわかる。
震災当時「枝野は妻子をシンガポールに避難させた」ってデマを流され、事実無根の証明のためにいつでも見せれるよう
夫人はご自分と双子の息子さんのパスポートを携帯されていたらしいです。
 
笑ったのは、夫人が29歳、枝野氏が34歳の時にお見合いされたそうですが、初めてのデートの時に上下とも格子柄、チェック・オン・チェックの
服装でやって来て引いた。とのお話。さもありなん。
枝野氏の話の時は言葉を注意深く選んだ文章ですが、足かけ4年に及ぶ不妊治療の話はご自分主体ということでその辛かった経験と世間の偏見について
力強く書かれていました。
議員宿舎のEVで破水して、たまたま乗り合わせた他党の大御所をあわてさせたって話、どなただったんですかね。
(以前会社のEVに手を挟まれた女子がいて、EVホールに居合わせたじいじの副社長(ウチは密かに大阪の城代家老と呼んでいた)が
女子の手をひっぱりながら「誰か誰かいないかっ!」って叫んでた話を思い出した)
 
某首相のアキレスけん夫人の「とめる人はいないのか」というファーストレディの殻を破る自由奔放さは類を見ない個性ですが、
(俺より頭のいい女はさかしらしくてすかんってゆう某首相の声が聞こえてきそう)
元JALのCAさんという枝野夫人の援護射撃バックアップは賢い。そして強い。
 
作中の言葉で印象に残ったのは
息子の発達障害を診ていただいている児童精神科の先生の言葉に、とても勇気づけられました。
「これからの時代、機械やAIが人間の仕事に取って代ろうとしています。それなのに、今の日本の教育制度は、機械でいえば
精度のいい部品を作る教育をしているだけで、精度の悪い部品があったらそれを取り出し排除しようとしています。
精度のいい機械の部品を作る教育をしても、それはAIがやってくれることと一緒なのですから、これからはとくに個性を
伸ばすこと、その子ならではの抜きんでたものを伸ばすことがもっとも大事なはずなんですよ。
それをお父さん(政治家としての枝野)にもぜひ伝えてくださいね」
 
そうやねえ。そやねんけど、身内の話で恐縮なんやけどちびさぼはこんまい頃から工作がうまかった。
抜きんでてたかはわからへんけど。将来プロダクトデザイナーもええなと思ってたんやけど、
本人は作れって言われるから作っていただけで絵を描く方が好き。
コミック「とめはね!」と東野圭吾の「カッコーの卵は誰のもの」を読んでいた時にも思ったんやけど、「得意なことと好きなこと」が違うこともあるねんね。
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