2002年7月の映画  戻る


ノーマンズ・ランド NOMAN'S LAND

2001年カンヌ国際映画祭脚本賞
2002年アカデミー外国語賞

2001年 仏・伊・白・英・スロヴェニア 98分
監督・脚本・音楽 ダニス・タノヴィッチ
撮影 ウォルター・ヴァンデン・エンデ
出演 ブランコ・ジュリッチ(ボスニア兵・チキ)/レネ・ビトラヤツ(セルビア兵・ニノ)/フィリプ・ショヴァゴヴィッチ(ボスニア兵ツェラ)/ジョルジュ・シアティディス(UNマルシャン軍曹) /カトリン・カートリッジ(ジャーナリスト「フロム・ヘル」「悪魔の呼ぶ海へ」「奇跡の海」「キャリア・ガールズ」「ビフォア・ザ・レイン」)
メモ 2002.7.19 梅田ガーデンシネマ
あらすじ
1993年深い霧の中でボスニア兵達は道に迷っていた。夜明けをまとうと眠り込んだ兵士達が目を覚ますと、目の前にセルビア軍。敵の陣地に迷い込んでいたのだ。命からがらボスニア兵のチキはノーマンズ・ランド(中間地帯)の塹壕に逃げ込む。セルビア軍側は古参兵と新兵を偵察に送り込む。ふたりがやってくるとノーマンズ・ランドにはボスニア兵の死体があるだけ。古参兵は面白がって死体の下にジャンプ型地雷を仕掛けた。ボスニア兵がノーマンズ・ランドにやって来て味方の兵を動かした途端地雷はジャンプ、爆発して2000個の鉛の弾をまき散らし50メートル内は全滅だあの殺戮兵器という。手の中に納まるような小さな物体にそんな威力があるのだ。ふたりが味方の陣地に戻ろうとした時、隠れていたチキが古参兵を撃つ。しかし怯える新兵のニノをチキは撃てない。中立地帯というのはどちら側からも攻撃を受けるという訳でふたりは塹壕から一歩も動けなくなってしまう。その上死体だと思って地雷を仕掛けられたボスニア兵のツェラは気を失っていただけであった。
感想
「敵兵ふたりが塹壕に閉じこめられ、最初は反撥しているもんの段々奇妙な友情が生まれる」映画と思いきや、そんな甘いもんではなかったのだ。

チトー大統領の死後1991年にユーゴスラビアは分裂する。7つの国境があり、6つの共和国、6つの主要民族、3つの宗教、3つの言語、2つの文字を持ったモザイク国家は昔からヨーロッパの火種。第一次世界大戦は独立主義者のセルビア人がサラエボォを訪問していたオーストリアの皇太子を暗殺した事からはじまった。多民族国家であり多数決を基とする民主主義では事は解決しない地域なのだ。ボスニア紛争は1992年ボスニア・ヘルツェゴヴィナの独立後、セルビア人、クロアチア人、ムスリム(ボスニア)人の領域拡大戦争が激化。ボスニア(監督はボスニア人)は戦争の準備をしていなかったため最も被害が大きかったらしい。異なる民族同士の結婚も珍しくなく隣人、兄弟殺しにまでエスカレートする。さらに悲惨な事はセルビアはボスニアの女性(イスラム教徒)を組織的にレイプし自分たちの子供を産ませた事だ。4年後の1995年8月に米国軍を中心としたNATOがセルビア勢力に対し空爆を開始。ボスニア・ヘルツェゴビィナ共和国はムスリム人とクロアチア人のボスニア・ヘルツェゴビィナ連邦とセルビア人のセルビア共和国に二分割され和平にいたる。しかし、この映画のラストはジャーナリストや国連防衛軍UNが去った後のボスニア・ヘルツェゴビィナを現しているという。20数万人の死者をだし、100万人の避難民はいまだ国に帰れず(帰っても職がないため)、戦争犯罪人は裁かれず、100万個と見られる対人地雷が残っているそう。そしてレイプベビーは9才になっている。

その4年間の悲惨な紛争の間、国連防衛軍が何をしていたかというと中立を貫き、人道的援助といって食料を運んでいたらしいですね。それでもって、ボスニア・ヘルツェゴビィナの民は飢えずにすむが爆撃に苦しむ生活を3年半も続けたわけ。元々は覇権争いのお家騒動とはいえ、憎しみが憎しみを生んで当事者ではどうしようもない泥沼状態に「その勝負みどもがあずかる」ってな国連ではなかったらしい。恐ろしい話ですね。何故国連が動かなかったかというと、ゲリラ戦を恐れたアメリカが動かなかったせいではないかと。米国がやっと動いたら
「ピースメーカー」の原因となったわけで。(しかし「ピースメーカー」のパンフを読み返してみたらボスニア紛争についてはなんら書かれてませんな。ドリームワークスの提灯記事は2つもあるのに)。そして世界中のジャーナリストは「自分たちの見たいモノを見て、知らせたい事を報道する」だけ。しかも国連防衛軍もジャーリズムも指揮は遠く離れたオフィスでされている。監督の深い怒りを感じた。「事があったら国連か米国がなんとかしてくれる」とのほほんと考えていたらあきませんな。日本は、軍事力ではない国力と外交的手腕を磨かなくては。

話聞いていると陰鬱そうですが、あにはからんや皮肉に満ちたユーモアたっぷりの映画なんです。
おすすめ度★★★★
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青ひげ Bluebeard

1944年 米国 70分 モノクロ
監督 エドガー・G・ウルマー
出演 ジョン・キャラディン/ジーン・パーカー/ニルス・アスタ
メモ 2002.7.18 シネフィルイマジカ録画
あらすじ
19世紀パリの夜、セーヌ河にまたもや死体が浮かぶ。女性ばかりを狙うこの事件の犯人は”青ひげ”と呼ばれ警察の捜査は遅々として進まず、連続殺人の恐怖で女性達はおちおち夜の街をひとりで歩けない。
仕立屋のルシールは女友達2人と夜道で人形遣いのモレールと出会い、女友達に誘われて公園でのショーを見に行く。不思議な魅力を持った人と惹かれるルシールだったが、モレールは”青ひげ”その人だった。昔記憶を失っている女性を助け恋に落ち、画家だった彼は愛する彼女ジェネットの肖像画を描いたが彼女は突然いなくなる。行方を探し当てたそこは娼館だった。金の無心に来たと勘違いした彼女を殺したアルバ・ガロン(=モレール)は、あわれ肖像画を描いた女性を殺さずにはいられない性癖の持ち主となっていた。
一方警察は殺害された女性の肖像画があるという情報をキャッチしておとり捜査に乗り出す。呼ばれたのはフランシーンというやり手の捜査官。世間がせまい事にフランシーンはルイーズの妹だった。彼女は南米の富豪の娘というふれこみで金に困っている画家をおびき出すことに成功する。しかし、もう少しという所で姉の恋人の人形遣いが青ひげと知り殺害されてしまう。
現場に落ちていたクラバット(ネクタイ)が自分が繕った物だった事から、人形遣いが”青ひげ”の画家だったと知ったルイーズの目の前で、警察に追われ屋根に逃げたアルバ・ガロンはセーヌ河に落ちる。
感想
カルト映画というのは総合的なクオリティの高さとは無縁な訳で、本作品もジョン・キャラダインのまなこ全開の演技と人形オペラ、パリの地下道など美術を心の底から楽しみましょの怪奇ロマン漂う怪作。

カルトムービーとなるとお名前があがる(らしい)エドガー・G・ウルマー監督作品。さぼてんは、ベラ・ルゴシとボリス・カーロフ共演の「黒猫」を見ていました。「恐怖のまわり道(1945)」とか、ウエスタンなのかな「The naked dawn(1955)」の作品が有名だそうです。シネフィル・イマジカの「point of view」によると「オーストリアからハリウッドに渡ったウルマーは元々美術出身でバウハウス派の建築様式をホラー映画に持ち込むなどの冴えを見せたがハリウッドの主流に乗れず、B級映画専門の座に甘んじた」とか。
人形遣いに扮するジョン・キャラディンの代表作。ジョンはディビット、キース、ロバート・キャラディン(「ロング・ライダーズ」)のファーザーです。
おすすめ度★★★★
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フレンチ・コップス  Les Ripoux
 1985年 セザール賞作品賞、監督賞、編集賞

1984年 仏 107分
製作 ピエール・ゴーシェ
監督・脚本 クロード・ジディ(「ザ・カンニングIQ=0」「La Totale!(トゥルーライズ)」)
撮影 ジャン・ジャック・タルベ
音楽 フランシス・レイ
出演 フィリップ・ノワレ/ティエリー・レルミット/レジーヌ
メモ 2002.7.3 シネフィルイマジカ録画
あらすじ
パリの裏も表も知り尽くした刑事のルネ(フィリップ・ノワレ)の夢は「馬のめぐりあい」亭を買い取ること。場外馬券を売る居酒屋で騎手、調教師、馬主が集まってくる店だ。話は馬のことばかりという馬に生きる人生を夢見ている。大金を掴んだらと思いながら日々ルネのやっている事といえば、職権乱用して小悪党の上前をちょっとばかしはねているだけ。
勝負をかけなきゃと仕組んだ計画もおじゃんになり、相棒ピエロが刑務所に入ってしまった。代わりにあてがわれたのは若造のフランソワ(ティエリー・レルミット)。地方からやってきた刑事でこれが石頭のコチコチ。信じらんない事に昼飯の間に昇進試験のための勉強をするわ昼食代もちゃんと払うわで、ルネは息が詰まり調子も狂ってきた。なんとかしなくてはとルネが図った計画とは・・・・。
感想
シネフィル・イマジカの「Point of view」には「ポリス何某とは異なりさすがフランス。ペーソスに富む」と書かれてあったもんで、「真面目だったフランソワが悪徳警官になって故郷に帰り、それはそれでルネは寂しく思う」とか「暴走したフランソワをかばってルネが死ぬ」とか勝手に話こしらえて見ていたんですけれど、、、、。なるほどねぇ。これがフランス映画なんよねぇ。霧の中からパッカパッカという音が聞こえてくるラストなんざセンスがええよねぇ。

ルネの女友達シモーヌの入れ知恵計画とは「フランソワにきれいな金のかかる女ナターシャをあてがいメロメロにしてしまう事。そしたら金に困るでしょ?」だった訳でこれがうぶな刑事にどんぴしゃになる。元高級娼婦・男の心理を知り尽くしているシモーヌにルネが「お前さんが馬を知っていたらなあ。明日の4連勝式はいただきだがな」と言った時の答えとは「私は馬と寝たことはないからね。」

「ニュー・シネマ・パラダイス」の映写技師フィリップ・ノワレと
「奇人たちの晩餐会」のピエール役ティエリー・レルミットが主演。このおふたりは「タンゴ」でも共演してはりましたね。
おすすめ度★★★★
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模倣犯


2002年 日本 
監督・脚本 森田芳光
原作 宮部みゆき(「模倣犯」)
撮影 北信康
出演 中居正広(網川浩一・ピース)/山崎努(有馬義男)/津田寛治(栗橋浩美)/藤井隆(高井和明)/木村佳乃(前畑滋子)
メモ 2002.7.3 南街シネプレックス
あらすじ
俺は天才だ。フツーの奴らとは違う。神と言ってもいいかもしれない。善悪からは超越している。だいたい誰が作ったかわからないルールに何故従わなければならない? この世は俺のためのゲーム盤なんだ。みんなも怒っているようなフリして連続殺人事件を楽しんでいるだろ?
という犯罪者に対し、被害者の家族・豆腐屋と物書きはねばり強くその正体を追う。そして真犯人の弱点「肥大化した自我と山より高いプライド」を突く。
感想
前半はこまかいカット割りのザラっとした影像を繋ぎ、デジタル社会を強く表現したかったのだと思う。その対極に置かれているのは被害者鞠子(まりこ)の祖父の「手作りのお豆腐屋さん」なん。
この映画は原作を読んでいないとお話がバラバラして全体を掴みにくいんではないかと思う。しかし、受け取り手にわかるかわからないかおかまいなしに一方的に与え流していく情報と影像が今日のデジタル放送、モバイル・ケータイ時代を現している。観客を突き放し好きなように撮っている専制君主のような監督さんだ。うん、ピースかも。

とって付けたようなラストは「自分とそして他人を大切にする人間になるよう子供をしっかり育てる事が、日本を地球を救う。」という普遍的なメッセージなんだろう(爆弾かとドキドキした)。 皮肉な見方をしない真面目な原作と映画と思う。そこんとこは好きだ。好みから言うと真面目すぎストレート過ぎやけど。そして細部へのこだわりはえーねんけど、全体としてまとまりに欠けるかな。
「39」の時にも感じた事やねんけれど、影像には凝るがメッセージの発信にはひねりはないみたい。
おすすめ度★★★
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