2000年1月のミステリ
見えない死

コーネル・ウールリッチ 新樹社 1999年 門野集訳
あらすじ
「ショウボート殺人事件」1935年 The Showboat Murders 「私の死」1935年Death of Me 「妄執の夜」1941年Marihuana ○ 「二本立て」1936年Double Feature 「見えない死」1947年Death Escapes the Eye 「義足をつけた犬」1939年The Dog with a Wooden Leg
感想

おすすめ度:★★★1/2
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私が彼を殺した

東野圭吾 講談社ノベルズ 1999年
あらすじ
脚本家で小説家の穂高誠は、自分の結婚式当日に毒殺される。容疑者は3人。ひとりは花嫁美和子の兄の神林貴弘、二人目は詩人の美和子の編集者雪笹香織、三人目は穂高のマネージャー役の駿河直之。
感想
 「どちらかが彼女を殺した」に続く、著者が「謎解きミステリを読み飛ばして推理しようとしない」読者への挑戦状。昼から読み始めてやっと犯人までたどりついた・・・と思う(笑)。悲しい話ですね。 
私の回答は こちらです。当たっているといいな。
おすすめ度:★★★★
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極大射程 (by さぼてん男)

スティーブン・ハンター 新潮文庫

元来、速読と言われるがこの本には梃子摺った。一段落だけ引用する。
 レミントン七〇〇ボルト・アクション。一九七五年にボブが負傷して除隊になったときに記念品として贈られた、海兵隊狙撃チームで愛用された銃だった。銃身はもともと射撃時の振動をほとんど吸収してしまう分厚いヴァーミント・バレルだったが、その後ボブがハート社のステンレススチール製銃身に交換していた。さらにテフロン加工がされてあるため、今では全体が古びた白目でできているように見える。この銃身と作動部分、さらにはネジさえもがデヴコンのベディング・コンパウンドを介して、ファイバーグラスとケヴラーでできた黒い銃床に組み込まれていた。ネジはアルミニウムのパイラーで六十ポンドに締め付けてあった。醜いとしかいいようのない銃だった。使用弾薬は・三〇八ウィンチェスターで、いま薬室にはボブが自作した弾薬が入っていた。

ライフルひとつにまるまる一段落の説明が入る。本文が始まってわずか9ページ目だ。以下、上下2巻の中で銃器の部分は異様に執拗に描写される。ストーリーそのものがライフルを中心に展開していく。これに比べて女性に関してはまるで小道具扱いで、「その女は気品のようなものを感じさせた。」なんて手抜きにすら思えるな。 というわけで、妙に読み応えがあって私は堪能したよ。ガンマニアな部分を捨象してオハナシとして見ても、なかなかのデキだと思う。惜しむらくは書名で、原題の「Point of Impact」にはそれなりに意味があるのに、ライフルにこだわってガンマニア風に「極大射程」とやってしまっては、的をはずしたと言わざるを得ない。
おすすめ度:ハードボイルド好きとガンマニアにおすすめ:★★★★
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夏草の記憶 Breakheart Hill

トマス・H・クック 文集文庫 1995年 芹澤恵訳
あらすじ
1960代初頭、アラバマ州北部の人口1万人に満たない町チョクトー。チョクトー・ハイスクールに通う2年生のベン・ウェイドは転校生ケリー・トロイに惹かれる。 ケリーは美人なだけではなく、賢さと強い性格の持ち主だった。
「死の記憶(1993)」「緋色の記憶(1996)」と並ぶ「記憶三部作」のひとつ。
感想
暗い。滅入ってしまった。
青々とした光り輝く時代の「愛の物語」。しかしその青い時代は破滅を予感させる危うさも合わせ持っていた。そして悲劇が起こる。「原因は恐らくコレだろう」と予想をつけて読み進む。それが誰が誰に対してなのかが読み切れなかった。 ぼーっと生きてきても、中年期というのは結構鬱々とした日々なのよね。体力が落ちる、記憶力が衰える、容色が落ちる、親が老いる、仕事が行き詰まる、先が見えてくる、毎日がマンネリ、子供が思春期などなど、書いていて気が滅入ってきた。その代わりといってはなんだけれど、「少しの事では動じない。」「傷つかない」(単にお尻が重くなり、面の皮があつくなっただけという意見もあるが)「根拠のない自信」という安定した所もでてくるわけなんだけれど。自分の事だけしてりゃよかった若い頃とはだいぶ違う。という更に気の滅入る話はさておき、何が無くても気分の晴れない頃に、30年前の出来事がどっとのしかかってりゃもう暗黒。まっくら。しかも30年前の事件は後を引き様々な悲劇を起こしている。なんて辛いんだ。

子供の頃、親が新聞を読んで「米国には今でもバスの座席に「黒人席」と「白人席」があるんやなあ。」と驚いていたのが記憶にある。恐らく1962、63年の公民権運動の余波が日本にも伝えられていたんだろうな。
おすすめ度:★★★★
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屍蝋の街 THE CITY OF ADIPOCERE

我孫子武丸 双葉社 1999年
あらすじ
2025年の東京。連続殺人鬼”ドク”が脳の片隅に巣くっている刑事・溝口は自分自身をも信頼できない日々だった。そんな不安な中、事の起こりの張本人赤坂が釈放される。恐れていたとおり赤坂の攻撃がはじまるが、それは思ってもみなかった所から降りかかってきた。   「腐蝕の街」の続編。
感想
面白かった。面白かってんけど、何かモノ足らない。後半すんなり事が運び過ぎるせいかもしれない。現実世界とネットワーク上の仮想世界と主人公・溝口の脳内の世界という三世界が登場するんやけど、サイバー空間と脳内世界にあまり違いが感じられないせいかもしれない。電脳世界というから似ていてあたりまえなんでしょうが。詳しくないのでよくわからないけれど。脳内世界での虫もどきになっての戦いが「インターステラ・ピッグ」みたいで面白かった。もうひとつ、ガキ達が”鳥”になって空から舞い降りてくる所がいい。「科学忍者隊ガッチャマン(アニメ)」を思い出しなつかしわあ。

小説よりも映像向きかなあと思う。思うけれど、作者の表現手段は小説やし、殺人鬼が主人公(ジェフ・ゴールドブラム)の体を乗っ取ろうと脳内世界で戦うクーンツ原作の映画「ハイダウェイ」も映画化が成功していたとは言えないしどちらともいえないんやろね。
おすすめ度:★★★1/2
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白夜行 (びゃくやこう)

東野圭吾著 集英社 1999年
感想
未読の方へ ねたばれ感想です。

 
主人公達の心情が発露される場面はほとんどなく、ふたりの関係は読者に判断がゆだねられる。陰と陽という対照的な世界に生きているかのように表向きは見える「深い絆」で結ばれたふたりの、正気を失うような世界に入り込んだふたりだけの道行きの話だと思う。この世に生まれ生を全うしたとしても、「深い絆」で結ばれるような関係を持つ事ははたしてどのくらいの人ができるんだろう。「魔球」「眠りの森」をもっとダークにした気持ちの悪い話でありながら幼い頃からの変わらないふたりだけの結びつきが、そのピュアさがうらやましい。孤独ではなかったと思う。
 物語は、昭和48年のオイルショックからはじまり、その後19年間の日本の世相を背景にしている。この日本の移り変わりも一つの主人公になっている。第4次中東戦争、オイルショックに触発されたトイレット・ペーパーパニックは、日本中を巻き込み日本中がある目的(トイレットペーパーを手に入れる)に突き進むという話題も心もひとつになった大事件とともに、「自分さえよかったらえーねん。」という価値観の定着はこの物語の始まりにふさわしいのかもしれない。

 文中頻繁にでてきて印象的な言葉は、「直感」「勘の良さ」です。この世で勝つため復讐するため、異邦人ふたりの研ぎ澄まされた神経を表しているのか。それとも「勘」の鈍った現代人を作者は危惧しているのか。

新年早々、「ちゃんと説明してくれへんかったら、わからへん。」というちびさぼに、「そんな勘の鈍い事でどうする。」と(おもいっきり鈍い親ふたりに言われたくないやろな)と思いながら説教した。「自分の頭で考える、類推する、ってトコから洞察力が身につくねん。」とか言ってたんですけれど、自分が出来もしない事を言わなきゃいけないんですよ・・・ねぇ。

もひとつ、作家同士仲がいいからなのか刑事の造型が黒川博行氏の小説の刑事と似ていました。青春物語とともに酸いも甘いもかみわけられる大人をも描ける力量になりはったんですね。
おすすめ度:★★★★
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