1999年6月のミステリ

メドゥサ、鏡をごらん
井上夢人著 1997年作 双葉社
あらすじ
作家・藤井陽蔵の自殺体が発見される。その姿は全身にセメントを塗り<石>になっているという異様さだった。。体に塗られていたセメントの中からガラス瓶が見つかる。その中には紙切れが一枚入っており、その紙に書かれていた文字とは「メドゥサを見た」。
感想
う〜ん、小説として破綻しているんとちゃうかなあ。もう最後は「好きにして」って感じ。
実験的小説なんでしょうね、おそらく。
「メドゥサ、鏡をごらん」という題は、大きな意味があったんだな。
おすすめ度まあ評価度ではないので★★★
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死の記憶 Mortal Memory
トマス・H・クック著 1993年作 文春文庫 佐藤和彦訳
あらすじ
44歳のスティーブの所にレベッカと名乗る女性が訪ねてくる。彼女は作家で「自分の家族を殺した人々の事を書いているんです。」と言う。スティーブは9歳の時に家族を失っていた。年の離れた兄と姉、そして母を撃ち殺して父親は失踪したのだった。
感想
寡黙な男達が心の内を表さず悲劇が起こる。魅せられ罠に落ちていく様が哀しい。

久しぶりに”暗い奈落に落ちていく”ように、物語に引きずり込まれました。

たぶん「警察署長」で有名なスチュアート・ウッズの作品「疑惑」(だったと思う)が原作のドラマを思い出す。随分以前にTVで見た。幸せそうな軍医一家が惨殺されるというストーリー。ただひとり生き残った夫は「マンソン・ファミリーのようなヒッピーが家族を皆殺しにした」と言う。評判のよかった軍医は疑われる事はなかったが、妻の父親が殺された娘と幼い2人の孫娘、そして娘の胎内にいた孫(男の子)のため、こつこつと捜査を続ける。ひとり娘だったのだ。そして浮かび上がっていく疑惑「婿が犯した事だったのではないか?」
実話を元にしたドキュメンタリーのような展開でした。確かライターとしてウッズも出てきたと思う。残された血痕から起こった事を類推していく所が似ていた。
おすすめ度★★★★1/2
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チャーム・シティ Charm City アメリカ探偵作家クラブ賞 アメリカ私立探偵作家クラブ賞
ローラ・レップマン著 1999年作 講談社 岩瀬孝雄訳
あらすじ
勤めていた新聞社が潰れてしまい、しかたなく私立探偵になったテス、29才。ミュージシャンのぐっと年下のボーイフレンドがいる。生き甲斐はボート。
ある日バーを経営している伯父のスパイクが強盗に襲われ、「イヤー(年月)、イヤー」とうわ言を繰り返している。なんのこっちゃ? しかたなしにテスは伯父の家にいたグレイハウンドをあずかるハメになる。犬はあんまり好きじゃないのに。おまけにコイツは口臭もちときた。やれやれ。
感想
私立探偵テス・モナハン・シリーズ第2作目。作者は元新聞記者だそうです。
チャーム・シティとはアメリカ・ボルチモアのニックネーム。地図で見ると、ボルチモアというのはワシントンの近くなんですね。
新聞社や、新聞記者の生態が面白い。読者の「知る権利」を盾にしていわゆる「正義」を書く、正直とばかりはいえない一匹狼達。しかし彼らにも職業人として越えてはならない一線があるのだ。

訳がイマイチなのかなあ。
「誘惑の巣」と同じ人か。ぬるま湯に浸かっているみたいで、テンポが遅いような気がする。 おまけにこの表紙絵はなんとかならんか。電車の中で読むのが恥ずかしかったぞ。(カバーしたらえーねんけどね)
おすすめ度★★1/2
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柔らかな頬
桐野夏生著 1999年作 講談社
あらすじ
18才のカスミは、北海道のさびれた海の見える町から逃げるように東京に出てきた。生まれ育った土地から逃げる事、東京で暮らす事のみ願っているカスミは、東京で知り合った10才年上の森脇道弘と請われるままに結婚する。ふたりの娘、有香と梨紗も生まれたが生活に疲れたカスミは道弘の仕事相手石山に惹かれる。石山と逢瀬を重ねて二年、石山は北海道に別荘を買い、自分の家族とカスミの家族を招く。そして家族と同じ屋根の下でカスミと抱き合う。夫も子供も捨ててもこの人と行きたいとカスミが思った翌朝、5才の有香が行方しれずとなった。
感想
「生のいき着く先は必ず、死」という事なんやね。いつ、どんな形で行き着くにしても。

 数年前肺ガンが再発した元上司を病院にお見舞いした事があります。なくなられる数ヶ月前ですが、あと数ヶ月で定年を迎えるという、容貌も性格も武士のようなその方は、ガンと闘いながらも「死の事を考えると恐い」と落ち着いた声で言われました。「今まで経験した事がないから。死ぬ時や死んだらどうなるのかと思うと、恐い。」 言葉がありませんでした。

−ねたばれあります−
子供を見失い、苦しみぬいた主人公カスミは、胃ガンで死に逝く元刑事を看取った事で死をも疑似体験し、恐れる物がなくなりました。「いなくなった子供を探す事」「何かから逃げる事」を止め、これから死にいき着くまで、生と死のすべてを聞き、見て、そして肌で感じて生き抜こう、ひとり漂流しようとしています。悲しい、悲しすぎる。が、誰にも媚びないカスミのその強靱さと潔さに圧倒されました。

親は究極的には子供に元気で長生きして欲しいとだけ願っている。信じている。
数年前テレビで「行方しれずの子供達の家族」のドキュメンタリーを見た事があります。家族同士がネットワークを作り支え合っていこうという内容でした。
友達と別れて自宅に向かう途中で帰ってこなかった小学生、おじいちゃんが田んぼで隣の人と話をしていた数分の間にいなくなった4才の孫娘・・・。あるお母さんは、情報を求めるための娘の顔写真を印刷した立て看板をきれいに拭くのを日課とされていました。あるお母さんはいつも始業式の日には同級生達を自宅に招いて、子供たちにお菓子をふるまい友達に娘を忘れてほしくないと願っておられました。ひとりのお母さんが「今頃どこで、どう育てられているのかと思うと・・・」と声を詰まらせられていたのが忘れられません。あるお母さんは「お父さんに、そろそろ娘の物を片づけないか」と言われ「そうする事にした」と言われてました。  残酷すぎる。
おすすめ度★★★★
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香水 ある人殺しの物語
パトリック・ジュースキント著 1985年作 文芸春秋 池内紀訳
あらすじ
1738年、ルイ15世時代の革命前のパリで私生児として生まれ落ちたひとりの男がいた。名をジャン=パティスト・グルヌイユという。彼は悪魔でもあり天使でもあり天才でもあった。この世のあらゆる香り臭いをかぎ分ける事ができ、また未知の香りを創りだす事ができる。
感想
そおだったの。
今まで「なんであのふたりが」とか「お前ばかりが何故もてる」とか思っていたけれど、人と人が惹かれあうのは、魅了するのは、その理由は・・・「香り」(体臭)だったのです(笑)。
結構エグイ。エグくて香しい(かぐわしい)風変わりな物語でした。
おすすめ度★★★★
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