1998年6月のミステリ

善人はなかなかいない (ミス外)
フラナリー・オコナー著 筑摩書房 211ページ 横山貞子訳
あらすじ
1964年父親と同じ膠原病により39才で亡くなったフラナリー・オコナー、1955年〜1964年の5編の短編集。
感想
うまく言えないけれど、「善人はなかなかいない。」は、是非一読を。
さぼてんは「フォークナーの短編集に少し似てる。」と思い、さぼてん男は「フレドリック・ブラウンのよう」という感想でした。
たぶん、人がもつ邪悪さと悲喜劇のユーモアが混じり合った作品だと思う。現実をまっすぐに見つめ、「どこまでデフォルメできるか、その限度を知ることが作家にとって問題だろう。」という作者の言葉が心に残る。
おすすめ度:★★★★1/2
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愛の殺人 Murder for Love
オットー・ペンズラー編 ハヤカワ文庫 1996年 488ページ
あらすじ
16人の作家による「愛ゆえの殺人」を主題にしたミステリの短編集。
感想
気に入った4編です。

 「ストーカー」フェイ・ケラーマン
    読み終わって「これぞ短編の醍醐味。」と思った作品。

 「傷心の家」サラ・パレツキー
    昔ながらのミニ・ミステリの味がして好き。

 「ホット・スプリングズ」ジェイムズ・クラムリー
    男の人には心からこういう話を書きたい人が大勢いるんじゃないかな、という臭いがする。

 「カレンが寝た男」エルモア・レナード
    ひょうひょうとした軽いフットワーク。「人生の真実」なあんて言葉が浮かぶ。

おすすめ度:★★★1/2
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インターステラ・ピッグ Interstellar Pig
ウィリアム・スリーター著 トパーズプレス シリーズ百年の物語4 242ページ 斉藤倫子訳
あらすじ
両親と海の別荘に来ている16歳のバーニーは暇を持て余し、隣の別荘にやってきた大学生風の3人に興味を抱く。3人は試作品だというゲームをしていた。
感想
映画と本とどちらがより好きか?と問われたら返事に困る所やねんけど、こういう本を読むと「本の方が好きかな」と思う。とても読み手のイマジネーションを刺激する、不思議な魅力のある本です。
本に書かれているのは、ロールプレイゲームっていうのかな。私はゲームをした事がないので、10年以上も前に書かれたこの作品を楽しみましたが、現在のビデオゲームやネットワークゲームを楽しんでいる人達が読むとどうなのかな。感想を聞いてみたい。
ティーンエージャー向けの冒険小説風ですが、作者の卓越した文章力、そして訳も読みやすく後半のスピーディな展開もお見事

***ネタバレあります。****ご注意****
昔(また出た)見た「宇宙大作戦スタートレック」の、ある星に着陸したら、そこにたった1人住んでいる生物は見る人によって「昔の恋人(ドクター・マッコイじゃなかったかな)」だったり「母親」だったりするという話を思い出しました。そういえば、レイ・ブラッドベリの「火星年代記」にも同じ様な話があった。
おすすめ度:★★★★1/2
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赤毛の男の妻 THE WIFE OF THE RED-HAIRED MAN
ビル・S・バリンジャー著 創元推理文庫 296ページ 1957年作 大久保康男訳
あらすじ
脱獄犯がニューヨークで殺人を犯し、恋人と逃避行。それを追う刑事。
感想
ああこの小説だったのか。そうかあ。一度読み終えてから、またパラパラ読み返すと「こういう意味だったのね。」という出来事が所々でてきて2度楽しめました。哀しい話なんですけどね。恋というのは大人になってからする方が楽なんだな。ちょっと身につまされました。
コンピュータとかで様々な情報が手に入るようになった現代から見ると、追う者と追われる者との研ぎすまされたカン、本能が新鮮です。
おすすめ度:傑作です。★★★★1/2
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心とろかすような マサの事件簿
宮部みゆき著 東京創元社 280ページ 1997年作
あらすじ
ジャーマン・シェパードのマサは、元警察犬。今は老いたるといえども蓮見探偵事務所の一員として活躍している。4作の短編と1作の中編からなる5つの事件簿。
感想
マサはマサでも大屋政子さんのマサではなくてたぶん大政小政のマサ?。←「パーフェクト・ブルー」を未読なのであてすっぽ。
事件そのものよりも、マサが調査のために近所の犬猫鳥達から情報を集める所がおもしろい。人間をよく観察していて実にみんな情報通なのだ。

子供の頃親戚がシェパードを飼っていて、その犬がものすごう甘えたで「ほんまに警察学校卒業したん?」というくらい人なつっこくて番犬にならず、でっかいカラして郵便屋さんに抱きついて顔をぺろぺろなめたら、びっくりした郵便屋さんが表に飛び出したとかいう反武勇伝の持ち主だった。マサのような賢さはみじんも感じられへんかったけど、かわいかった。<<ほら、あるやん。出来の悪い子ほどかわいいってやつ。
おすすめ度:★★★
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レフトハンド 第4回日本ホラー小説大賞長編賞
中井拓志著 角川書店 325ページ 1996年作
あらすじ
外資系の製薬会社テルンジャパンの埼玉県研究所で、ウィルス漏れ(ハザード)が発生。三号研究棟は直ちに閉鎖。通称レフトハンドウィルス(LHV)は、致死率90%以上。感染したものは・・・
感想
びっくり(@_@)!。科学物というよりゲテ物(笑)。「そんなことしたら会社をクビになるう」と怯える社員が多数登場すんねんけど、命より大事なんかとか「ジタバタ」「ドタドタ」等数々の描写、笑ってしまう。ふざけていて不真面目なような、恐ろしいような、悲惨なような、なげやりな狂った話
映画好きなら某映画と某映画を思い浮かべること必至。
大賞の「黒い家」に何故負けたのか、こちらも読まなくては。
おすすめ度:★★★★
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バースへの帰還 英国推理作家協会 シルヴァー・ダガー賞
ピーター・ラヴゼイ著 ハヤカワ・ノヴェルズ 343ページ 1995年作 山本やよい訳
あらすじ
警察に辞表をたたきつけ、プータロー生活も2年のダイヤモンド。ある夜ロンドンから、古巣のバース警察に引っ張っていかれる。4年前に刑務所に放り込んだ殺人犯が脱獄し、仇のトット警察官の娘を誘拐し「俺は無実だ」とダイヤモンドに再調査をつきつけていた。
感想
気難しい大男(デブ)、辛口のユーモア、人を人とも思わずこき使う猛進型、強面(こわもて)という魅力オンパレードのピーター・ダイヤモンドシリーズ3作目。
ダイヤモンド元警視は、 「フロスト警部」と根っこの所は似ている。「したくない事は、やっぱりしたくない。」 ダイヤモンドが事件に巻き込まれる特異なプロット。よくできています。シリーズ最高作といわれるのがわかる。
「警察にもどれるかも」という希望がでてくる後半、俄然馬力がかかる様子がおかしい(^^)。
おすすめ度:★★★★
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眠れない聖夜 アガサ賞最優秀処女長編賞

ジーン・M・アダムズ著 ハヤカワ文庫 307ページ 1995年作 和泉晶子訳
あらすじ
米国から英国に移住した六十いくつのドロシーは、クリスマスの夜、ゴシック建築の粋を集めた大聖堂で死体につまずく!
感想
ストーリーは可もなく不可もなくといったとこかな。謎解きってほどの事はありません。

子供には恵まれなかったけれど、仲むつまじく暮らしてきて「老後は大好きなイギリスに住もうね」と楽しみにしていたのに、ひとり取り残されたドロシー。そこにあらわれた「長身、筋肉質、やわらかい豊かな白髪」の警察署長アラン。孤独な熟年のシャイな恋。ええやないの。こまごまとした数々の情景描写に、にんまり。
おすすめ度:★★★
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