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タイムカプセル


神々の島マムダ せもとくま 王さま王さま わらいぼし マンジュ

       
   
作  江副信子
絵  砂原久美子

 

「おとうさん、新聞なに読んでるの?」 こたつごしに声をかけると、お父さんは顔をあげてぼくと目をあわせた。くすっとわらって「日づけだよ、きょうの日づけ」「えっ、うそ~。
日づけなんて読んでなにするのさ」「あしたは周一の誕生日だ。ジャ~ン!
おまえのために、お父さんとお母さんからのすごいプレゼントがある」 ぼくは目をぱちくりさせた。
つぎの日、昼ごはんを食べたあと、お父さんはぼくを庭につれ出した。お母さんもニコニコしながらついてくる。

お父さんは大きなシャベルで花壇のわきをほりはじめる。穴の底にあったのは、ひとかかえもあるプラスチックの丸い容器だった。「ほーら、出てきたぞ」 おわんを二つかさねあわせたような形だ。まん中をきっちり止め金でしめてある。 お父さんはそれをつまんで引き上げた。透明のプラスチックは泥がついてかなり汚れていたが、中がぼんやりと見える。ノート、おもちゃなどがびっちり入っている。容器を地面におろすと、お父さんはしゃがんでぼくを見あげた。「周一これなんだかおぼえているか」「さーぁ…」「そうか、わすれちゃったか。これはタイムカプセルだ。お前が五つの誕生日に、思い出になりそうなものを集めて、この中にいれてうめたのさ」「ふーん、おもしろそう。早くあけてみて」「よーし、あけるぞ」 
お父さんが留め金をはずすと、シュッという音がした。そしてふたがパカッと開く。「わわわ…、な、なんだ。こりゃ」 お父さんがのけぞって、しりもちをついた。おかあさんは「きゃーっ」と、さけんでその場にぼうだちになった。 こわごわタイムカプセルをのぞくと、ぼくも目を丸くした。ぼくの思い出のものなんか、かげも形もない。そこには小さな五さいぐらいの男の子がすわっていたのだ。

その子はてのひらほどの大きさで、おもちゃのような小さないすにこしかけている。ふしぎそうに、ぼくたちの顔をかわりばんこに見た。「き、きみはだれだ」と、ぼくはかたい声で聞いた。「ぼくは、ふじた しゅういち」「うそだ、藤田周一はぼくだ」「ちがうよ、ぼくが ふじた しゅういち」「ちがう、ぼくだっ」 男の子は気の強そうな目でじっとぼくを見る。「しゅ、周ちゃん…」お母さんがうしろからささやく。「この子ほんとうに、五歳ぐらいのころの周ちゃんだわ」「あっ、おかあさーん」 だきあげてほしいというように、男の子は手を高く上げる。「だ、だめよ。ごめんなさい」 お母さんははげしく首をふった。我にかえったように、お父さんはタイムカプセルをしめようと、ふたに手をかける。そのとき上のほうから、大きな声が聞こえてきた。「まって、しめないで…」 はっと空を見上げると、雲のあたりから大きな顔がのぞいている。家の裏にあるけやきぐらいもありそうだ。「ひえ~っ」 三人とも、その場にしりもちをついた。「おどろかないで。ぼくだよ、ぼく」 高校生ぐらいに見える男の子だ。「ぼくも藤田周一だよ。君の未来の」 頭の中がだんだん混乱してきた。するとあいつがぼくで、こいつもぼく。そしてぼくもぼく…? すると考えていることが分かるとでもいうように、高校生はうなずく。「そうだよ、さあぼくと握手をして…」 そういって差し出された手と、ぼくは握手をした。左手で高校生の手をにぎると、反対の手で小さな男の子にも手を差し出した。小さなその子はうれしそうに手をにぎり返してくる。 
未来と過去のぼくとの握手。


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an   英語に翻訳  G.L.Slembrouck and Nobuko Ezoe an

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