今月の葉っぱ
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アベマキ

ブナ科コナラ属の落葉高木

<所長の独り言> 「あべまき」という名は世間ではあまり知られていない。外見やどんぐりはクヌギとそっくりで、一般には「クヌギ」と呼ばれていることも多いが、葉裏がかなり白っぽいことと、樹皮にコルク質が発達することが区別点だ。落ち葉でも区別可能で、クヌギの落ち葉(葉裏はやや光沢のある茶色)と比べたら違いは一目瞭然である。西日本ではクヌギと同じかそれ以上によく見かける木で、身近な林ですぐ出会える木だ。私は観察会でこの木を紹介するとき、名の由来がはっきりしない「阿部槙」よりも、「コルククヌギ」という別名を紹介している。深く裂けた幹を指で押さえると、コルク特有の弾力があるのでわかりやすい。なお、実際のコルクの原料になるのは、ヨーロッパ産で同じコナラ属のコルクガシだ。(2011年12月)

果実

 


 


展覧会「葉っぱスキャンワールド」開催

〜立体スキャン画像が魅せる自然のデザイン〜

3回目となる葉っぱスキャン画像の展覧会を、東京と神奈川で開催することになりました。日程は下記の通りで、29、30、1、2、4、5、7日は所長も会場に滞在予定です。どうぞお気軽にお越し下さい。

[東京会場]日森協会館 1Fロビー(四ッ谷)
[日程]2011/11/29(火)〜12/5(月) ※12/3は休
[時間]9:00〜17:30(最終日は16:30)

[神奈川会場]ぎゃらりーぜん(秦野市)
[日程]2011/12/7(水)〜12(月)
[時間]10:00〜18:00(最終日は17:00)

※詳細はこちらをご覧ください。

 


 


モミジイチゴ

バラ科キイチゴ属の落葉低木

<所長の独り言> 木苺といえば、本種を思い浮かべる人も多いだろう。果実は黄色みの強いオレンジ色で味も良いので、ジャムや果実酒の定番だ。他のキイチゴ類の多くが赤い果実をつけるのとは対照的である。紅葉は赤〜黄色だが、葉の形が似るモミジ類ほど鮮やかではない。上の画像は、東日本で見られるモミジイチゴの葉で、基本は5裂。一方、下の画像は西日本で見られる葉で、基本的に3裂。中央の裂片(れっぺん)が長く伸びるので「ナガバモミジイチゴ」として変種関係に区別する場合もある。しかし、東日本でも3裂する葉が見られれば、西日本で5裂する葉も見られるし、境目の岐阜県などでは中間的な個体が多い。いずれにせよ同種内の変異であり、私は広義で「モミジイチゴ」と呼んでいる(2011年9月)

果実

 


 


アオキ

ミズキ科アオキ属の常緑低木

<所長の独り言> 若葉には赤色や茶色も多いが、アオキは正統派の鮮やかな黄緑色。暗い樹林内によく生える木なので、若葉の色もよく映える。この新芽を食べられるという人もいるが、一度食べてみたら青臭くてまずかった。まあ、食える人には食えるのだろう。なおアオキは、現在普及している新エングラー分類体系ではミズキ科だが、最新のDNA解析によるAPG分類体系では、トチュウ科に近縁のアオキ科(またはガリア科)として独立している。APGは革新的すぎて理解がしがたい印象もあるが、以前からミズキ科の中で浮いていたアオキやハナイカダ(ハナイカダ科)が独立するのは納得。今、東日本大震災を受けて日本が大きくシフトする時機に来ているように、植物図鑑の表記も近い未来APGへとシフトしていくのだろう(2011年4月)

果実

 


 


ムシカリ

スイカズラ科ガマズミ属の落葉小高木

<所長の独り言> 真冬の雪山歩きで、この冬芽(ふゆめ・とうが)に出会うとちょっと癒される。今年の干支、ウサギの耳のようにも見えるし、両手を挙げてバンザイしているようにも見える。表面の細かい毛は、毛布代わりか。よく見ると、冬芽の下には愛嬌のある顔が並んでいる。1,2,3,4,5,6・・・。一つ一つが葉っぱが落ちた痕で、葉痕(ようこん)と呼ばれる。ムシカリに限らず、葉痕の中には3つの点(維管束痕:いかんそくこん)があることが多いので、しばしば顔のように見えるから面白い。春になると、左の球体からはつぼみが芽吹き、耳の部分と右の冬芽はそのまま葉になる。枯れたように見える冬の落葉樹にも、いろいろな表情があり、樹種ごとに独自の工夫で寒さや外敵から身を守っている。自然の神秘と生命力に気づく瞬間だ。(2011年1月)

果実

 


 

イタヤカエデ
カエデ科カエデ属の落葉高木

<所長の独り言>カエデといえば赤い紅葉が鮮やか、という印象が強いが、黄色く紅葉するカエデの代表格がこのイタヤカエデだ。と言いつつ、スキャン画像にはオレンジ色に紅葉した葉を使ってみた。ふつうは黄色くなる木でも、幼木や若い枝では例外的にこのようなオレンジ色や赤みを帯びることある。少し木に詳しい人なら、この葉を見て「これはオニイタヤだろう」と言いたくなる人もいると思う。イタヤカエデの類は、切れ込みの深さや毛の多少に変異が多く、いくつもの亜種や変種、品種に細かく区分されている。オニイタヤ、モトゲイタヤ(イトマキイタヤ)、アカイタヤ、エゾイタヤ、エンコウカエデなどが代表的だ。かつてはエンコウカエデのことを狭義の「イタヤカエデ」とする考えが主流だったが、最近は「イタヤカエデ」の名はこれらの総称として使うことが提唱されている。細分化して煩わしいのは嫌いだから、私も大いに賛成である。(2010年9月)

黄葉

 


 

ウワミズザクラ
バラ科ウワミズザクラ属の落葉高木

<所長の独り言> 今年の2月は暖かかった。前半には雪も降ったが、後半はまるで4月の花見日和のようにポカポカで、アマガエルも鳴いたしカメムシも冬眠から覚めた。そして、サンシュユが2月下旬に満開を迎え、木々の芽も少しずつ開き始めた。さて、写真はウワミズザクラの芽吹き。関東地方では平野部の雑木林にも普通に見られる木だが、西日本では山奥の木という印象が強い。4月後半に咲く花はコップ洗いのブラシ状で、サクラのイメージとはほど遠い。そのせいか、これを「サクラ属」に含めることをやめ、最近は「ウワミズザクラ属」として区別する図鑑が増えている。かつてウメやモモを含んでいたサクラ属は、サクラ属、ウワミズザクラ属、スモモ属、モモ属、アンズ属(ウメはここ)、バクチノキ属の6属に分解されたのだ。専門家たちの議論がなかなか私たち一般人の耳に届かないのは残念だが、「サクラ」の定義も時代とともに変わりつつあるようだ。(2010年3月)

 


 

ナンキンハゼ
トウダイグサ科シラキ属の落葉高木

<所長の独り言> 今年は紅葉の色づきが早い。暖地の紅葉の主役、ハゼノキやナンキンハゼ(下写真は果実)、モミジバフウなども次々色づき始めている。夏が涼しかったことも関係しているかも知れない。一夏を通じて夜寝る時に扇風機さえ使わなかった(拙宅にエアコンはない)のは記憶にない。温暖化、温暖化と騒がれる昨今、確かに植物の世界でも温暖化は感じるが、毎年肌に感じる気候はむしろ「異常気象」と表現した方が適切な気がする。一説には、太陽の黒点活動から間もなく「ミニ氷河期」が到来するとの見方もあるようだ(朝日新聞記事)。となると、これまでのCO2主犯説の騒ぎは何だったのか?という話になりかねない。現代人はあらゆる現象を科学で解決しようとし、感性より理屈を重視し、どんどん頭でっかちになりつつあるが、その危険性に気づくのはこういう時かも知れない。今から20年前、森林の役割は「酸素の生産」と言われていたが、今は「二酸化炭素の吸収」に変わった。さて20年後の役割は?(2009年10月)

 


 

アラカシ
ブナ科コナラ属の常緑高木

<所長の独り言> 気づいたら、夏のように暑い日差しが降り注ぎ、森の木々が大きく葉を広げている。少し前にサクラが咲き、赤茶色や銀緑色の若葉が芽吹き始めたと思っていたのに、里の春は時間が経つのが早い。サクラの花が散り終わると、次は常緑樹の若葉が目につき始める。アラカシやシラカシなどのカシ類は、古い深緑色の葉の上に、赤茶色や萌葱色の若葉をのぞかせる。常緑樹の葉とは思えないこの瑞々しさが続くのも、あと数ヶ月間。次に気づいたときは、3年長持ちする厚くて硬い葉になっているのだろう。時が経つのが早く感じ、季節の移り変わりを見逃してしまう頃、僕らの心身も硬い葉っぱのように出来上がってしまっているのかもしれない。(2009年5月)

 


 

ウリカエデ
カエデ科カエデ属の落葉小高木

<所長の私見> カエデって日本に26種類もあるの、知ってました? じゃこれは何カエデだ? ・・・すぐ分かった人は結構な樹木通ですね。正解はウリカエデ。幹が瓜のように緑色だから瓜楓。カエデは寒い地方に多いのですが、ウリカエデは暖かい西日本の林でもちらほら見られるカエデです。浅く3つに裂けて、秋の紅葉はふつう黄色ですが、日当たりが良いとこのように橙色や赤色に色づくことも時にあります。そんな木々の紅葉を解説した著書『紅葉ハンドブック』が今月に発売になります。掲載種は121種、うち、カエデはなんと24種類も掲載しました。載ってない2種類は、屋久島や沖縄に分布するヤクシマオナガカエデとクスノハカエデだけです。日本初の紅葉図鑑を自負しているので、ぜひご覧になってみて下さい(2008年9月)

 


 

シダレヤナギ
ヤナギ科ヤナギ属の落葉高木

<所長の私見>その昔、マツをはじめとした常緑樹は、一年中変わらず青葉を茂らすことから、不老長寿や永久不変の象徴とされ、縁起がいい木とされたそうだ。ならば「めでたい現象」というべきか、最近は冬も葉を落とさない落葉樹が増えている。例えばシダレヤナギ。東京の都心では公園や街路樹に点々と見ることができるが、冬に葉を落とすはずのシダレヤナギが、お正月にも青々と葉を茂らせている個体が多いことに気づく。落葉樹ならではの明るく柔らかな葉を、真冬に拝むことができるのは不思議な気分だ。このまま温暖化が進めばさらに常緑樹が増え、やがては熱帯のように落葉と芽吹きが同時に訪れるかも知れない。自身の不老長寿を願う人間たちにとって、なんと縁起がいいことか。ちなみに不老長寿に全く興味がない僕は、盛者必衰の理を象徴する沙羅双樹の花のほうがずっと好きだ(2008年1月)

 

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