- 戦前の民間航空機メーカーの中では、中島と三菱はその双璧で、常に鎬を削っていた。 あるとき、霞ヶ浦で、中島と三菱とのコンペティションが行われ、中島からは技術やや現場の者が参集した。 さて彼らが厄介になった旅館での話である。
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ある日、知久平は世話になる女中にチップを出そうと、袋に包んで弟の乙未平にことずけた。 預かった乙未平はチップの額の多さに仰天した。 その半分でも三分の一でも十分な額であったので、黙って少し削ってしまった。
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- 後日それを知った知久平は、「金を使って宣伝することはたやすい。 しかし、口伝えで、中島はなかなかよくやるよいところだとか、あの会社の人達はよい人達だとか、悪いとかは、ほとんど人の噂から判るもので、女中の気持ちさえも掴むことが大切なことだ。 あまり妙にちびると、お互いのコンペティションのときなど、細かい気配りに対して受ける信用は、一寸したつまらないところで大いに効果があるようなものだから、そんなことでちびるものではない」と諭した。
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技術以外の細かいところでも、三菱との競争に勝つために隅々まで繊細な配慮が常になされていたのである。
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【追記】
- 「繊細な配慮」というコトバが合っているかどうか?疑問であるが、「派手好み」というと身も蓋も無いが、何事にも普通の人の数倍に物事を捉え、行動する知久平の性格を表す逸話であろう)
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