ハグマいろいろ

キッコウハグマ

埼玉県熊谷市は関東平野の真っ只中にあり、山らしい山は無く、最高峰が観音山と呼ばれる97mの古墳程度の山で、周囲の土地より僅か40m程度高いに過ぎないが、麓の竜泉寺の寺社林になっている為、開発や乱獲から免れ昔の里山の風情がそのまま残っている。
カタクリに始まり、チゴユリ、低地ニッコウキスゲ、コアジサイ、オカトラノオ、ヤブカンゾウ、コバギボウシ、ヤブラン等の群落が次々と咲くが、9月に入ってコバギボウシが散る頃目立ち始めるのがオクモミジハグマ、キッコウハグマ、コウヤボウキ、カシワバハグマのハグマ類やコウヤボウキ類である。( 「カタクリと観音山」 「チゴユリとその仲間」 「低地ニッコウキスゲの謎」 「トラノオいろいろ」 「ギボウシは山菜の逸品」 の項参照)
白い小さな花で、観音山に次々と咲いてきた他の花に比べれば地味で目立つ花では無いし、悪天候が続くと自己防衛の手段として閉鎖花ばかり付けるので、開く花も少なくなるが、当たり年になると群生し、よくよく見ると味のある形をしている。
オクモミジハグマとキッコウハグマは同じモミジハグマ属に属し、コウヤボウキ、カシワバハグマはコウヤボウキ属に属し、別種であるが、花はそっくりで、しかも観音山に行けば総て見られるのも稀有な事である。
モミジハグマ属は三本の頭花を付けるが、コウヤボウキ属の頭花は5本ないしそれ以上であり、それぞれ葉の形も異なる。

キッコウハグマ、オクモミジハグマは写真に見るように、頭花は三本の花を同時に付け、それぞれが五枚に切れ込んだ花びらを付けるので、全体像は箒(ほおき)やハタキの先のように見える。 葉の形が亀の甲のように見えるハグマをキッコウハグマ(亀甲白熊)、モミジのような形をしているものをモミジハグマ(紅葉白熊)、オクモミジハグマ(奥紅葉白熊)と呼んでおり、モミジハグマは関西、オクモミジハグマは関東に多い。 ハグマ(白熊)はチベットにいるヤクの尻尾の毛の事で、この毛を使って、槍や旗の先を飾り、お坊さんが引導を渡す時の払子(ほっす)となる。 ハグマの花の形がこれらに似ているのでハグマの名が付いたとされる。

オクモミジハグマ

一方、コウヤボウキ、カシワバハグマのコウヤボウキ属は十本前後の頭花を付けているのでいっそう箒(ほおき)やハタキの先の感じが強い。
高野山では竹箒を使うと大蛇が乗り移り災いを招くとして竹箒を使わず、その代用として高野山の付近で自生していた植物を使って作ったのがコウヤボウキ(高野箒)で、製品名が転じて植物名になった。 草本のように見えるがキク科の低木である。
昔は玉箒とも呼ばれ、新年の最初の初子の日、宮中ではこのコウヤボウキで作られた玉箒が授けられたとされ、大伴家持に次の一首がある。 「初春の 初子の今日の 玉箒 手に取るからに ゆらく玉の緒」。

コウヤボウキ

カシワバハグマは葉が柏(かしわ)の形をしているのでカシワバハグマの名があるが、モミジハグマ属ではなく、コウヤボウキ属で頭花の数も写真のように10本程ある。

カシワバハグマ

モミジハグマ、キッコウハグマとコウヤボウキ、カシワバハグマは属は異なるが、同じキク科の花で、秋の観音山を彩る。

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