志賀 浩二 : 固有値問題 30 講

作成日 : 2024-02-19
最終更新日 :

概要

はしがきから引用する :

(前略)この 30 講では,固有値問題を 2 次の行列の場合からはじめて,ヒルベルト空間上の作用素のスペクトル分解に至るまでの道を一気に描いてみた.

感想

線形代数から関数解析へ

本書の分類について悩んでいた。目次は、第 1 講 平面上の線形写像に始まり、第 30 講 フォン・ノイマン‐ 1929 年で終わる。この第 30 講の表題は、フォン・ノイマンが、1929 年の論文で、 自己共軛作用素のスペクトル分解定理を示したことからつけられたと思われる。だから、最初の講は線形代数で、最後の講は関数解析である。 本書を所蔵する川口市立図書館の分類では日本十進分類で 413.6、すなわち微分方程式になっている。たぶん、この分類の下位に 413.67 境界値問題.固有値問題があるからだろう。 私としては、この分類に従った。

線形代数からの離陸

本書の書き出しは線形代数である。ただ、第 9 講の「正規直交基底」で、一般的に「グラム・シュミットの直交化法」を、本書では「ヒルベルト・シュミットの直交法」というあたりで、 なんとなくヒルベルト空間が出てきそうな予感がする。そして、第 10 講「射影作用素,随伴作用素」や第 11 講「正規作用素」のあたりから関数解析のにおいがしてくる。第 10 講の本文でも「言葉づかい」という項で、 線形写像の代わりに線形作用素という言葉の方を主に使うことになる。また、線形作用素を行列の成分表示で表現されることも少なくなってくる。

第 10 講では射影作用素と随伴作用素が導入される。線形作用素 `A` に対し、
`(Ax, y) = (x, A^** y) \quad (x, y in V)`
が成り立つ線形作用素 `A^**` を `A` の随伴作用素という。

そして第 11 講では正規作用素の性質が調べられる。`A^**A = A A^**` を満たす線形作用素`A` を正規作用素という。正規作用素の例として、エルミート作用素(特に射影作用素)やユニタリー作用素があることが示される。 そして第 11 講末尾の Tea Time では、正規作用素の性質の証明で、正規作用素の固有方程式のことには全く触れていないことについて、固有値問題が変容してきたと著者はいう。 このあたりの機微は本書を読んでもらいたい。

そして 第14 講ではついに積分方程式、つまり無限次元空間上の作用素の固有値問題を垣間見ることになる。第 15 講では、積分方程式に関するフレードホルムの理論が示される。おおまかにいえば、 積分方程式に現れる積分を部分和で近似し、ここから得られる n 元の連立一次方程式の `n -> oo` を考えるのだが、本書によればフレードホルムの深い天才的なアイディアが必要であったという。 第 16 講ではヒルベルトの観点が示される。

第 17 講以降は、完成されたヒルベルト空間とその上の線形作用素の理論に基づいて講義が進められる。そして、ベクトル空間は有限次元性の条件は外れて、加法とスカラー積の演算をもつ集合、 厳密には `CC` 上のベクトル空間で話が進められる。

ぼんやりしているうちに返却期限が来てしまった。再度借りて読み直してみよう。

数学 30 講シリーズ

書誌情報

書名 固有値問題 30 講
著者 志賀 浩二
発行日 1991 年 4 月 30 日 初版 第 1 刷
発行元 朝倉書店
定価 2900 円(本体)
サイズ A5 判 252 ページ
ISBN 4-254-11485-0
備考 川口市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi