花はどこへ行った
シンハラ語と日本語の係り結び6  Sinhala QandA77-6

2008-Mar-03 2015-May-08

 シンハラ語の疑問詞が文末の動詞語尾をE形で結ばせるのは「コヘダ?කොහෙද? 」に限ったことではない。「だれ?」「なに?」「いつ?」「どうして?」「どうやって?」、などすべての疑問詞が動詞語尾をe形で結ぶ。そして、平叙文でも……


係り結びはどこへ行ったか

 シンハラ語の疑問詞が文末の動詞語尾をe形で結ばせるのは「どこだ?-コヘダ?」に限ったことではない。「だれだ?」「なんだ?」「いつだ?」「どうしてだ?」「どうやってだ?」など、すべての疑問詞が文の述語となる動詞語尾をE形で結ぶ。
 これまでの話を整理してWh疑問文が平叙文に現れたときの動詞語尾a形(終止形)と併せて両者の文を並べてみる。 

එහේ කව්ද ඉන්නෙ?
එහේ කව්ද න්නවා

ehee kav-da in'ne?
ehee kav-da in`nava.
そこに誰がいるか?
そこに誰かいる。
ඔයාට මොනවද ඕනෙ?
ඔයා මොනවද ඕන

oyaa-ta monava-da oone?
oyaa-ta monava-da oona.
あなたは何が欲しいか?
あなたは何かが欲しい(のね)。
අය මොකක්ද කිව්වෙ?
අය මොකක්ද ඉව්වා
aya mokak-da kivve?
aya mokak-da kivva
あの子は何を言ったか?
あの子は何かを言った。
එහෙම ඇයි කිව්වෙ
එහේම ඇයි කිව්වා
ehema aeyi kivve?
ehema aeyi kivva..
そんなことなぜ言ったか?
そんなことをなぜか言った。
නුවරට කොහොමද ගියේ?
kනුවරට හොමද ඉයා

nuvara-ta kohoma-da giye?
nuvara-ta kohoma-da giya.
カンディへどうやって行ったか?
カンディへどうにか行った。

 Wh疑問文の全ては疑問マーカーを動詞語尾e形で受ける。
 Wh疑問詞を動詞終止形で受ければ平叙文となる。
 文中に節を含むような複雑化する言い回しでは疑問マーカーがWh疑問詞と生き別れになり、疑問マーカーが節の外に置かれることがあったにしても、Wh疑問文の動詞e形は変わらない。これが日本語の係り結びと比較してシンハラ語に認めたWh疑問文の係り結びだ。

 シンハラ語の係り結びはWh疑問文の疑問マーカーと動詞活用の対応だけにとどまらない。平叙文でも日本語の場合と同じように、シンハラ語は係り結びを起こす。それは強調文だ。

強調文の係り結び

 UGの研究者はシンハラ語の係り結びをWh疑問文で証明した。しかし、係り結びは平叙文でも生じている。日本語の係り結びと同様に、強調文でもシンハラ語の係り結びが生じる。 例えば強調を表すතමයි thamayiという不変化詞(ニパータ)は、文末に置かれる動詞語尾をe形で結ばせる。තමයි は強調すべき名詞をその直前に置く。
 例えば、強調のない平叙文では文末の動詞語尾がa形(終止形)を取る。

සිරි සිංහල උගන්නනවා
siri  sinhala  ugan'nanava
シリは シンハラ語を  教える

 これが係り結びの助詞(ニパータ)තමයි を用いて強調を表すと文中の動詞はe形をとるようになる。
① සිරි තමයි සිංහල උගන්නනවා
 siri thamayi sinhala ugan'nan'ne
 シリは (まさに!強調) シンハラ語を  教える
② සිංහල උගන්නන්නේ සිරි තමයි
 sinhala ugan'nan'ne siri thamayi
 シンハラ語を 教えるのは シリだ(まさしく!強調)。

an introduction to Spoken Sinhala / W.S.Karunatillake / 2004 / M.D.Gunasena

 ①は助詞の「タマイ」を用いた通常の係り結び文です。
 ②の文は倒置話法で、この話法自体が本来、強調を表し倒置によって動詞はe形を取っている。
 強調の係り結びをするシンハラ語の「係助詞」。それはතමයි thamayiばかりではない。
 たとえば、නම් ナムnamも同様の働きを持つ係助詞だ。しかし、これは文の述部で対応する動詞語尾はa形(終止形)のままだ。

මම නම් සිංහල ඉගෙනගන්නවා
mama nam sinhala igenagn'nava
私は(まさに!
強調) シンハラ語を 学びます

 නම් には係り結びを見出せない。日本語の係り結びが歴史の中で消滅したように、シンハラ語でも係り結びの消滅した係助詞があったとはできない。証左がない。

 නම් namの場合、名詞に付いて強調を表すと共に、動詞終止形の語尾について条件・仮定を表す用法もある。

මේක සිංහල පොතක් නම් මම ගන්න කැමතියි
meeka sinhala pothak nan mama gan'na kaemathiyi
これが  シンハラ語の 本 なら  私は  買い-たい。
නන් nanはනම් namの音便。

 強調と仮定・条件を合わせた次の短文はナムනම් namの二つの用法を的確に現す巧みな言い回し。スリランカでナムの用法を尋ねていると、よく聴かされる。

ඔබ යනවා නම් මම නම් යනවා
oba  yanava  nam, mama  nam  yanava
あなたが 行く なら(条件)、 私  だって(強調) 行く。

係り結びはどこへ行ったか?

   日本語の係り結びは中世に消えました。シンハラ語では、まだ確認できる係り結びの例が残っています。
 シンハラ語の平叙文では係り結びの確認できる文と出来ない文が上記の例のように混在しています。でも、「花はどこへ行った?」のようなWh疑問文には現在も係り結びが残されているのがシンハラ語なのです。
 係り結びを追って行くと琉球語からハンガリー語まで多々あるらしいのですが、シンハラ語の係り結びほど日本語のそれにぴったりと寄り添うものはないようです。なぜならば、シンハラ語は日本語から消滅した「なむ」を今でも日常会話で使っている言語なのですから。
 

...කොහෙද ඉතින්


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