街

瀬野　とし

小さな商店街は黄色だった


狭い道の両側

すべての街灯に黄色い垂れ幕

「文芸春秋」の旗の横に黄色いハンカチ

「中華定食」の前にも黄色いハンカチ

履物屋　惣菜屋　洋服店　リサイクル品店･････････

店先に一枚ずつ黄色いハンカチが吊るされて

下ろしたシャッターの前にも


｢平和があっての商い｣

イラク攻撃の危機が迫ったいま

平和を願う意思表示を黄色い布で、と

商店街が決めたのだった

大阪市福島区野田阪神本通商店街


あちこちの細長く垂れたハンカチを

四角にぴんと張るように

脚立を持って留めなおしてまわっている人がいた

まだ兄ちゃんみたいな店主らしい人

　新聞で見ましたよ

声をかけたら

　おおきに！

とびきりの笑顔が返ってきた


人びとの住まいのそばに店が並んでいて

おかずを買ったり

服を探したり

家具屋をちょっと冷やかしたりする

そんな街は世界中にあるだろう

（イラクにも　アメリカにも）


人びとの心のなかの

平和な暮らしを願う気持ちが

いま　黄色になって表れ出たようで


黄色に　見上げた空の青がまぶしい

空から

爆弾が降ってくるなんて･････････

（このあたりは　大阪大空襲を受けた街）


　罪のない者　巻き込まんといてぇな

　そないに決着つけたいのやったら
　
　ブッシュとフセインで　
　
　相撲取ったらええねん

　ウチが行司やったるわ！


隣合せたおばちゃんの意見に

　ほんまやに　そうやね！

わたしが相槌を打ち

ふたりとも　届いたあつあつの“釜玉うどん”を

フーッと　吹いたのだった