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わたしのチューリップ

                     小森香子


春寒むの小雪やみぞれに 幾たびとなく

たたかれても たたかれても わたしの植えた

香り高いというチューリップの 六本の芽は

紅紫の芯を緑で包んで 日増しに太く伸び上る



ロンドン二百万 マドリード二百万

バルセロナ百五十万 ローマ三百万

ベルリン五十万 パリ二十五万 アテネ十万

ダブリン十万 ブリュッセル八万 ウィーン三万

アムステルダム七万 オスロ六万 ベルン四万 

ストックホルム二万五千 コペンハーゲン一万 

ニューヨーク・マンハッタン三十万



ロサンゼルスの砂浜を 大きなカンバスとして

四角くとりかこみ「今 平和を」その真ん中に

身をよせあって 数千のアメリカ国民は体で

ピカソの 鳩の髪をした 女の顔をえがいた

ベトナム反戦の頃 絵ハガキや絵皿に

わたしたちも広め見なれた その絵

世界に共通の 平和を希う 民衆のことば



二〇〇三年二月十四日から十五日間 地球をめぐり

アメリカ二百ケ所からヨーロッパ六十ケ国

六百都市 一千万人をこえる人びと そして

日本の凍てつく夜の明治公園から 翌日の

銀座マリオンの二時間リレー・トークまで

青い肩たすきの被爆者も ビラを配り

わたしもまた 一人の詩人としてマイクを握り

戦争するな 核兵器つかうな のその声は

地球の体内から こだましているというのに



それを「利敵行為だ」という政治家が いる。

よくも覚えていたね 今まで そんな言葉

それとも それが本音なのかも あんたの。



よくいわれたさ あの戦争中 まだ女学生で

英語は利敵行為だから 授業廃止

翻訳小説でも読めば 「非国民」と殴られ

言論は××の伏字 新聞は大本営発表ばかり

そして東京は焼かれ 広島・長崎は消された



もしも首相が本心から平和を祈ると言うなら

靖国でなく ヒロシマの碑に ひざまずき

有事法制などやめるべきなのだ。

あやまち を 二度と くりかえさぬために

ブッシュの戦争政策をとめるべきなのだ。



みてごらん 大地の生命を吸いあげて

わたしのチューリップは やがて香り高く

炎のような花を開くだろう 六本の花を

愛と希望と友情と 平和 平等 あたりまえ

人がひととして 生きるための 六つの花を


                           『詩人会議』5月号より


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