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シ ョ ウ ・ ザ ・ フ ラ ッ グ 


                    葵生川 玲



     *
旗を洗う。

歳月を洗うように。

ショウ・ザ・フラック。

湾岸戦争の帰還兵を迎える
ウエルカム・ホーム・セレモニーに、
持ち出されようとしている
記念の旗を洗う。

ギネスブックが認定した
世界一大きい「グレート・アメリカン・フラッグ」。
天地210フィート、左右411フィート、重さ7トン 強 (フットボール場2面分)。 
1980年作成の、
1980年レーガン大統領に贈呈のあと、
倉庫に眠ったままの ホコリまみれの巨大なアメリカ。

巨大な旗を洗う。
ゴルフボール製造に関して高い技術水準を誇る ウイル ソン・スポーティング・グッズ社のテネシー州フンボル ト工場の、
真新しい作業着と帽子、白いカバーの付いた靴で身を纏った従業員が、
150人。
9時間かけて、
水 3万ガロン。
トラック 5台。
消防ポンプ車 2台。
箒、ブラシ、バケツ 数十を使って、
巨大な旗を洗う。
技術力と労働力の質の高さが高く評価されるウイルソン
の誇りをかけて、
町を挙げて大歓迎の、
マーチング・バンドを繰り出しての大イベント。
      *
米政府高官が、言ったとか言わないとか アメリカ人は、旗が好きだから あれは、どうなったのか 誰が誰に向 けて、言ったのだったか、言わなかったのか 論議は日 本人にも、旗の好きなのがいるから 曖昧な、外務省発 表と、さらに言葉の呑み込んだままのゆるゆるなマスコ ミ報道と それで、結果はどういうことになったのだっ たか 言葉だけが、たどたどしく流布されて 誰に、期 待されるのか、 
ショウ・ザ・フラッグ。
それは間違いなく、アメリカ人の好きな言葉だ でも観 客のいないドラマの台詞の意味も いつしか湾岸では、 日常的に 天にも地にも海にも満ち満ちていて 星条旗 が踊っている 船の尻尾につながって 日の丸と旭日の 軍艦旗が、尻尾を振るように激しく揺れている インド 洋では、イージス艦や護衛艦の艦尾にもそれがあって  送り込んだドラマの制作者たちは、もう次のシーンを激 しく夢見ている。

註*引用の記事と写真は、一九九一年六月号『マルコポーロ』創刊号の特集「アメリカの仮面を剥 ぐ」による。
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