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黒衣の女

リーザ・ローウィッツ    

砂漠一面の、

世界中の黄昏

ジプシーの荒野が

いま良くわかる。

寡婦と喪服。

壊れた椅子の、

崩れかけた壁の、

破られた戸枠の、

新しい墓のある家。

街の交差点、青空市場

オレンジ色のトマトの列、

ぼろぼろの服

血のこびりついた広場

何百年もの古い建物

はげ落ちてむき出しのレンガ。

ダニューブを越え

ユーフラテスを越え

ペルシャ湾のすべて

ガザのすべて

砂漠一面

世界中が

いま良くわかる

青年の荒野、

破壊された家庭、

パンを待ち、

砂糖つぶ、塩のつぶ、

分きざみ、その時間をかぞえる

黒衣の女。

昔の友は、今の敵。

子守唄は昔、今は弔辞。

腰の曲がった

黒衣の老女は

世界中で・・

小声で話す

それはいつ果てる?

「月の果てまで

戦争するつもり?」

新しい棺に置いた手

胸に当て

黒衣の女が

祈る平和。




リーザ・ローウィッツ

詩人、編集者、著作権代理人。北部カリフォルニアに住み、詩集二冊のほか日本語からの翻訳本六冊がある。近著『ヨガ・ポエムズ』は、年間の最優秀詩集に与えられるPENジョセフィン・マイルズ賞(二〇〇一年)を受賞した。

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