月のすきま 7月

トップページへ 日のすきま 3月 4月 5月  6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月
2001/07/02(月)22:19:00   □

 気をゆるめると「ぽっ」と火がつくような暑さだ。
 土日と「すきま」しなかった。(サボった。)
 土曜日は有給とって久しぶりに人前で喋った。
 アタマがサビついているのが分かった。
 脳の機能障害かと思うほどアタマが回らなかった。
 まいにち葉っぱの相手をしているとニンゲンの言葉でケンカできなくなる。
 エミネム借りてきて韻と淫を踏んだ異和のビートの表出を学ぶ。なんてね。
 日曜はオレの数少ない顧客(ほとんど唯一)のお庭の手入れ。
 小梅も地下足袋、頭手拭いで草むしり。37℃の日射の下せっせと草を引く。
 ふたりで地べたに腰を下ろし、冷たい麦茶を飲みながら手入れした庭を眺め一服。
 そんな小梅が幸せそうなので、千年四方がなびいたように□。

2001/07/03(火) 22:29:00  サンチョパンサの初プール

 休園のテーマパークでアベリアの移植。
 クローバーの原。なだらかな丘陵。回る風車。無人。
 オレは酷暑の無人の野を制圧し、回る風車にスコップひとつで立ち向かった。
 ぎお! (シャチョウがいなければね)

 今日は初プール。
 そそくさと帰り、運動公園のプールに入る。
 夕陽。木立のむこう。水に潜り、水面に出、夕陽。
 また水、今度は水底、反転し、ほっかり空に出る。西に没陽。いちにちが終わった。

 イルカ泳ぎ、アザラシ泳ぎ。「のし」で50m。妻が笑う。

 ホームセンターで庄内米10キロ。(おいしいお米でありますように)

2001/07/04(水) 22:54:00   雑々

 ヒマラヤ杉の枝下ろし。2連梯子で7mの高さまで。
 ヤニで鋸刃が一日でダメになった。
 
 明日は競馬場近くの公園のマテバシイ剪定。
 隣が解体屋で、あいだにドブ川が淀んでいる。数年前ここに身元不明の死体が浮いた。
 マテバシイが繁りすぎて死体の発見が遅れたそうだ。

 毎日の酷暑で弁当の保存方法に気を遣う。
 いくら日陰でも風通しのよくないところはダメだ。

 きのうの庄内米、ハズレだった。10kg、3500円はやはり安すぎか。
 無洗米が思いの外良い。ちょっと高めだが一粒一粒きちんと生きている。

2001/07/05(木) 18:32:00   アフリカからの

 風呂上がり夕風に吹かれビール片手に日のすきま。
 マテバシイの枝を抜くたびにフレアーが入って来た。燃える。
 こいつら幹焼けして枯れなければいいんだけれど。
 何年も放っておくと下枝が枯れて、カタチを作りようがない。
 樹冠から首を出し茹だりながら旅程を思う。
 (アフリカからの)
 数万年の旅路。
 この★の表皮その他を這いずりながら水のように繋がってこの身を受け、この異和を魂として立ち上がり、遠くを、そう近くをもう一度リセットし、立ち上げ、また日をこなす。未知を、(うまくいきますかな)。
 夕風。
 そしてよい夕餉とよい眠りを。

2001/07/06(金) 21:32:00   日を渡る

 弁当を食おうと集会所の縁側に座ると、子どものシマヘビが出てきた。50cmくらい。蛇もこのくらいなら可愛いぞ。要するに蛇は長すぎるのだ。
 マテバシイの高い枝にキイロスズメバチが巣を作っていた。他の職人が怖がって近づかないのでキンチョール持って登る。巣の出入り口に向けて決死の思いで噴射。わらわら強面のギャングが穴から這いだしめちゃくちゃに飛び回る。ひるまず噴射。女王蜂が這い出てI'm winner! 巣を開くとミルキーな幼虫がぎっしり詰まっていた。
 まいにちが過ぎゆく。一気に跳躍したいのに日はじりじり過ぎゆく。それで5年後、10年後に少しでも自分や世界が好きになれればいいのだ。いつの間にかそういう次元を渡っていればいいのだ。

2001/07/08(日) 23:19:00   日曜日

 土曜日は8時半に寝て、今朝は7時半に起きた。たっぷり寝てカラダが甘い。
 日曜日は自分で洗濯。布団上げ。にんげんドキュメント、「光れ!泥だんご」「瀬戸内寂聴の人生相談」見ながら。
 午後から手拭いを買いに浅草に出る。久々の浅草。神谷バーで昼からビール。大ジョッキ。
 ふらふら歩くとヤクザ衆がスーツの上に揃いの半纏を着て、道幅一杯に集会していた。ごめんなんしょと通らせてもらう。
 合羽橋の道具屋街まで歩く。通りでは町内会の夏祭りをしていた。大道芸を見学。いつの間にかタンバリンを持たされて芸の盛り上げ役。
 銀座、数寄屋橋のHMVでイギー・ポップを試聴。53歳がhowlingしていた。
それから池袋。西武Libroぽえむ・ぱろうるで立ち読み。楠勝平作品集「彩雪に舞う…」を買う。掘り出し物。
 さらに向かいの東洋一の床面積を誇るジュンク堂で立ち読み。ヘーゲル「歴史哲学講義上・下」、峰岸正樹「庭木の自然風剪定」購入。ここは各フロアの会計を全部一階の出口ですることになっている。これじゃ万引きし放題じゃないかと思いながら会計していると、バンドやってそうな若い兄ちゃんが初老の保安2人に取り押さえられていた。店のスタッフは皆見て見ぬ振りをしている。兄ちゃんは「店長を呼べ」と叫んでいる。そのうち警官が入ってきた。
 地元の駅に帰り自転車の鍵を外していると今度はヤンキーと警官の追いかけっこ。
 遊水池の牛蛙のバスの響きを聞きながら自転車でしょろしょろ帰る。

2001/07/09(月) 07:42:00   楠勝平

 炎暑、酷暑、熱暑、惨暑、激暑、それでも朝晩は涼しい。
 風呂上がってビール飲んでメシ食べてテレビなど眺めているともう眠くなる。

 公園剪定。枝を抜くたびに熱射が入る。
 それから給水場の草刈り。熊手で集草。肩が凝った。
 楠勝平の作品集、びっくりしながら読んでいる。
 1974年に30歳で夭折したこのマンガ家は、つげ義春に勝る質の作品を残している。
 「十一才頃だったろうか/私は一四・五になったら/おわってしまうのだと/ばくぜんとだが/思っていたのです/おわってしまうと/言っても死ぬのでなしに/どこかに消えて/しまうというような/感じなのです」
 ではじまる『あらさのさぁ−』などは何度も唸ってしまった。
 どの作品もコマ割、画の構図、突き放したエンディング、すべてが秀逸。
 うれしくなったよ。

2001/07/11(水) 19:25:00   日が過ぎる

 いつの間にか梅雨は明けたんだそうだ。だからそう言ったろうに。
 草刈りのエンジン音の中でハイになって思わず「だからそいつはちがうんじゃないか!」と叫ぶ。田中邦衛の声色。「わしゃぁ、そう言った。たしかに言った」今度は大滝秀治。
 単調な仕事はときおり姿を破らないとやってられない。日を過ごす。

 数億円かけて作った高級料亭(一食2万円)の庭の管理が入って喜んでいたが、オヤジの土建屋の社長が癌で死んで結局競売に出すことになったそうだ。サツキの刈込みが途中なのに、もう手入れは中止になってしまった。きれいな和服の仲居さんを眺めながら琴の音の中、馬酔木を鋏むなんていう時間は一回こっきりでお仕舞い。

2001/07/12(木) 22:09:00   砂嵐とプール

 砂嵐。
 熱射と砂嵐。
 霊園でサザンカの移植。
 昼寝中、卒塔婆がばたばたいって五月蠅かった。
 うるさい。
 でも木影は快適。
 木影の有り難し。
 卒塔婆はうるさい。
 からだじゅう赤砂まみれだからプールへ行った。
 運動公園。7時まで。
 ふい〜、でのび、ぷれ〜いず、でのびた。
 タマヤマさんが先に入っていた。
 このひととは血まみれのケンカをしたことがある。
 こちらは糸切り歯が折れて入れ歯になったし、
 むこうはアブドラザ・ブッチャーのようになり、3日会社にこなかった。
 もう孫がいるのに血の気の多いひとだ。
 「夕方のプールはぬるいよ」なんて、挨拶を交わす。
 おれは「のし」でふい〜。
 木の間の夕陽を見ながらふい〜。
 からだに水を吸わせる。
 たまに潜水していなくなる。

2001/07/13(金) 19:36:00   今夜はカレーだ

 今年は94年以来の猛暑になるかもしれないとテレビが言っていた(と小梅が言う)。
 94年は植木屋をはじめた年だ。親方と東京湾に面した公園で木を掘り取っていたら39℃になっていた。さすがの親方がいっぷくしようと言った。
 当時住んでいた長屋にエアコンは無く、扇風機を抱いて寝た。庭のひまわりが屋根より高くなった。種から蒔いたヘチマが繁茂しあちこちぶら下がった。蝉が夜中に突然狂い鳴きした。隣家の風鈴がちんちろりんと鳴った。
 あれから8年。小梅は風を怖がり、部屋を閉め切る。周りが畑地だから雨が少ないと砂が入る。洗濯物も干せない。
 おれは仕事から帰って窓を開け放ち、風に吹かれてビールを飲む。小梅は哀しそうな声を出す。「砂が入る…」
 今夜はカレーだ。
 カレーがうれしくてうれしくてたまらなかった。
 脂身ばかりの豚肉に、片栗粉をたっぷり入れたグリコワンタッチカレー。
 なんどもなんどもお代わりして、それでも足りなくて夜中にこっそり鍋をすくった。
 いろんな時間。
 「できたよ〜」
 今夜はカレーだ。

2001/07/16(月) 22:50:00   スマグラー

 土曜日、法事に向かう電車の中で、吉本の「アフリカ的段階について」読んだ。
 なんだそんなことか。当たり前のことを言っているんだ。
 で、その当たり前のことが何であるかを自分の言葉で言えない。
 そんな不全感。
 法事からの帰り、新宿「青山ブックセンター」で真鍋昌平の『スマグラー』を立ち読み。
 良い才能だ。線に絶望がある。
 おれは近ごろ停滞している。

 ここ4〜5日風が強く、窓を開けられないので、パソコン一式をエアコンのある部屋に運んだ。(小梅のため)

 歴史を進化発展とみるのでも、ランダムな偶然とみるのでも、神話や物語とみるのでもなく、おれの毎日のある切実さをスコーンと向こう側へ突き抜けさせてくれる、そんな父や母として手に触り、腑に落ちることが出来たら、おれも、も少しいい画が描けるんだろうにな。
 
 今日は草刈りと水やり。
 労働に意味などない。あるいはたぶん労働の意味はなくなった。そこから先の歴史をどうするかだ。

2001/07/17(火) 21:17:00   電気虫

 今日から涼しくなるという予報だったが
 2時頃、熱中症でぶっ倒れそうになった
 広葉樹の葉裏には電気虫がいっぱいいて
 クラゲのように刺した
 
 家に帰ってビール呷りながら
 真鍋昌平のhpの日記を読む
 句読点のぶん
 改行するというスタイル
 こいつはもらい。

2001/07/18(水) 19:40:00   カミキリムシ

 午前中
 ヤマモモの剪定
 昼、藤棚の下で弁当を広げていると
 丁度近くの小学校の下校時で
 次から次と小学生がおれの弁当をのぞき込んでゆく
 見たってあげねえよ
 暑さでかすれた声で威嚇する
 「あ、ぜいたくにトンカツ入ってる」
 うるさい
 おれは犬と子どもには容赦しねえ
 ってことは同類項ということか
 きょうもぬくい
 午後は藤棚の枝抜き
 太陽
 フレア
 放射線いっぱい
 ぶっかぶる蛇口もお湯
 1時から3時まで
 気がちがいまする
 そういうときは歴史を考える
 なぜなら
 死の意味が見あたらないから
 ぶったぎられるだけじゃん
 関係
 ふざけんな

 弁当の新聞紙の上に
 カミキリムシ
 何カミキリ?
 キボシ? クワ? シロスジ?
 ゴマダラじゃねえ
 子どものカミキリムシ
 指で弾くと
 藤の根本に
 ぽ〜んと
 あ、
 ちょっと痛かったかもしれん

 ごめんな。

2001/07/19(木) 22:20:00   遠雷

 今日も雨は降らない
 目通り147cmのクスノキの剪定
 こいつもこの日照りにこの身体を維持するのは大変だろうに
 てっぺんの枝に身をあずけ
 遠くの雲を見る
 
 ゆうべはなぜか寝苦しかった
 じたばた畳を泳ぎ
 潮をたがえた
 つぎの流れを待て
 地平から遠雷

 夜の奥
 
 いままで何が腑に落ちた?
 リアルはあったか?
 いま、ここは

 極楽へ行った
 今夜は涼しい
 たまには極楽へゆこう
 身体をだらしなくしよう
 ぐてぇぇ…

 妻は音楽に合わせて踊る
 身一点、身一点、
 この日、この時、

2001/07/20(金) 21:28:00   花火

 夕食後、少しごろごろしようかと思っていたら、
 南と南西と北西で
 同時に3カ所、花火が上がりだした
 どん、どん、と音がする度に
 南の窓へゆき、北の窓へゆき
 夏だのう。

 今日は「海の日」だという
 植木屋になってから祝日休みの経験がないから
 いつからこうなったか見当がつかない
 だが、休みの日にさえない顔して、
 さえないカジュアルでうろつくオヤジたちは嫌いじゃない
 まぶしい眼をしてローンの街並みを眺めたりしている。

 時代のことは誰に名付けてもらおう
 日が過ぎる
 トウモロコシが実り
 ヒマワリが仰向く
 捕虜だった伯父は入盆を迎え
 ひとり残された娘が線香を焚く。

 きっと物語は間違う
 欲しいのは物語を脱ぐ力
 いつも裸で
 まっさらな世界を呼吸する 

 花火
 圧倒的にあがれよな。

2001/07/21(土) 23:58:00   禁煙13ヶ月目

 まんが喫茶ってのはどうしてああだらしない顔した奴が多いのだろう
 タバコも臭いし、
 もういいや
 真鍋昌平のアフタヌーン連載の「THE END」 もだんだん薄くなってきたし
 「サイコ」や「軍鶏」も人物造形が回を追うごとにどぎつく類型的になってくる
 しょうもう
 じ・えんど
 おしまい。

 家にくる新聞屋のおじさんは
 集金や契約更新のとき何度もなんどもオジギしながら帰るそうだ
 このおじさんは朝なるだけ音をたてないようにアパートの階段を上り
 引き抜きやすいようにきっちり郵便受けの中まで新聞を押し込んでくれる
 いつも何かぶつぶつひとりごとを言っている
 50過ぎで世になれないおじさん
 がに股ノーヘルで原チャを運転し
 配達が終わると歌をうたいながら帰ってゆく
 いかすぜおじさん
 
 今日は漁師船がたくさん係留されている河口でケヤキの剪定
 ゴンドラ取り付けて乗り込みリモコン操作
 昇降、旋回、伸縮、
 海に入道雲
 踊っちゃいますわよ

2001/07/22(日) 22:10:00   華勝園のひとびと

 日曜の昼は妻と華勝園にラーメンを食べにゆく
 私鉄の駅前の小さな店
 間口が狭いうなぎの寝床のような店だから見過ごしてしまう
 修業先の植木屋が管理していたハイツが近くにあって
 仕事の昼飯に利用していた
 だからもう通い始めて8年になる
 ひょこひょこ曲がり腰で歩く
 畑が似合いそうなオバさんが注文を請け負って
 それがどんなに混んでいても絶対間違えず
 伝票もないのに計算もぴったりで
 プロとはこういう人かと唸った
 この店の品は安くうまくボリュームたっぷりで
 ひそかなファンが多いらしく(味噌ラーメンが絶品!)
 いつもほどよく混んでいる
 ときどき
 初老の双子のオジさんに出会うのだが
 このふたりは着ているものも一緒で
 同じ所作で店にあらわれるものだから
 なんだか幸せな気持ちになってしまう
 日曜は家族連れが多いが
 平日は隣のスーパーのオバさんたちが
 わいわいにぎやかに食べている
 そのにぎやかなテーブルのあいだを
 ひょこひょこ小さくおじぎしながら
 華勝園のオバさんは
 きっちり仕事をこなしてゆく

2001/07/23(月) 21:40:00   ヒグラシ

 暑さと埃のなかきっちり残業し
 あとは風呂上がりの冷えたビールをやるだけだと
 そればっかりを頭に
 いつもの藪下の畑を自転車で帰ると
 木の間からふいに銀の箔、銅の箔、金の箔が落ちてきた
 kana.kana,kanaと
 ふいにタマシイが奏ずるので
 自転車を止めて
 夕暮れの空を仰ぎ
 うなだれる
 アヴェ・マリア
 多層であるよ
 そのまま、このまま
 いかせてもらいやす。

2001/07/24(火) 22:17:00   ふぁいあ〜!

 熱中症で死人が3人出たそうだ
 松吉も4人目になりかけながら刈込みを振るった
 (水道をかぶってもしばらくはお湯なんだ)
 近くの国道を参院選の選挙カーが何台も通った
 ひときわうるさいのが通るので
 「やかましい!」と怒鳴ると、
 革ジャン着込んだ大仁田厚が手を振っていた
 あっけにとられて見送った
 夕方、「ドクター中松」の連呼の後に
 また「オオーニタ、アツシ。オオーニタ、アツシ。」が通った
 今度は本人は乗り込んでいなかった。
 さすがの奴も熱中症で倒れたか。

 帰宅して市民プール。
 水温が30℃あった。

 酒の安売り店でアサヒの本生を2ケース買い込んだ。

 今日は田舎のお祭りだ。
 馬が倒れなければいいけれど…。

2001/07/25(水) 23:02:00   野垂れ死考

 きょうは3ヶ月に一度の病院出頭日。
 そろそろ内視鏡をやらなければならないと脅された。
 午後から池袋のジュンク堂でたっぷり本の狩猟。
 サンシャインの古本市で、高木護の「野垂れ死考」を購入。
 夢中で読む。
 夢中を繋げられれば、ほんなこつ、しあわせな人生たい。

2001/07/26(木) 21:33:00   美しい村

 嘘のように涼しい日。
 夕方雨もぱらついた。
 「野垂れ死考」読む。
 行商で回った九州のあちこちの村の風景を思い出す。
 あのころは農村浴をしていたんだ。
 もちろん村の暮らしは解体の一途をたどっていたのだが、
 どうしようもなく美しい村の風景というのはあった。
 峠の道から村を振り返ると、
 田も畑も牧も林も川も、
 そして家も蔵も庭も道も、
 まぼろしのように霞んでいた。
 見果てぬ共同体。
 そんなことを一所懸命考えたりした。

 初めて剪定鋏というのを使ってみた。
 これまで全部の枝を木鋏と折畳みノコで処理していた。
 修行したところが剪定鋏を「梨屋じゃねえ」と見下していたので、
 自分もなんとなくそのつもりでいた。
 バカとハサミは使いようで、鋏は使いようで切れる。
 けれどそのぶん、ハサミと腕は痛む。
 剪定鋏、なんてステキなんだ。
 すぱすぱ切れるじゃねえか。
 木にとっても切断面がなめらかになるので、癒合がよくなること間違いない。
 剪定バサミ、なんてステキなんだ。
 おかげで今日は肩が凝らないよ。

2001/07/28(土) 22:23:00   涼しい

 涼しい。さびしいくらいだ。
 道路の植え込みのゴミ拾い。
 オモライさんになったみたいに、ゴミ袋下げて延々あるく。
 この日照りで植え込みの3〜4割方が枯れている。
 死んだ臭い。
 空き缶や弁当カスを拾って歩く。
 昼休みは埠頭で食べた。
 青潮が発生して、ハゼが苦しそうに浮いていた。
 曇り。
 沖合は晴れて南の色。
 海の色を見ながらにぎりめしをぱくつく。
 どこか景色のいい田舎で暮らしたいな。
 景色や空気のにおいだけで元気になれるそんなところで。
 アタマのなかは刹那が一杯。
 いつでもどこでも破滅をひらいている。
 涼しい。さびしいくらいだ。

2001/07/29(日) 23:12:00  それでまあ

 「ブエノ・ビスタ・ソシアル・クラブ」
 「アメリカンヒストリーX」
 ビデオで見た。
 いろんなひとが生きているな。
 
 小梅は白川静に夢中だ。
 「しずかちゃん、しずかちゃん」とメシの時にも興奮して喋っている。
 いいからちゃんとごはんを食べなさい。
 相変わらずやせっぽちだ。
 
 包丁を研いでくれというので研いでやった。

 オレはどこか景色のいい田舎を回って研ぎ師でもして暮らそう。
 いい庭があれば手入れもさせてもらおう。
 「なあに、腹一杯喰わしてもらえばよかですたい。」
 「あと、帰りににぎりめしを2つ3つと味噌をもらえるとうれしかな」

 なんで熊本弁かな。

 熊本は気性が荒くて、ハウスに入っただけで怒鳴られた。
 「いいキュウリができそうですねえ」
 「ばかくさ。こりはメロンばい」

 考えればいろいろあったけれど、その意味がよくわからんのです。
 アタマがぼんやりして、ときどき「キリッ」とこころが痛くなる。
 いろんな雲が浮かんでいるばかりだから、酒でも飲んで、いいあんばいに夕焼ければ、
 それでまあよかたいねぇ。

2001/07/30(月) 19:11:00   どうだ

 近くの児童遊園に3連鉄棒設置。
 アキラと。
 予算の関係でオバサン専務は昼くらいで終わらせるつもりだったらしいが、 
 遊具をなめてもらっちゃこまるぜ。
 子どもがケガしたらどうするんだ。
 地面が固くてスコップが効かない。
 小ユンボを取りにゆく。
 そんなこんなで6時までかかった。
 それでも昼寝のベンチは涼しかったし、
 夕暮れにはカナカナが鳴いた。

 現場を知らないで偉そうに仕切るんじゃねえ、と
 くさくさしながらサービス残業して帰ると、
 小梅が中学生のようなおさげで、にっこり、
 「おかえりなさい」「今夜は親子丼よ」

 あん。 
 わが10名に満たない読者諸氏よ、
 持つべきは幼妻。
 どうだ、うらやましいだろう。

2001/07/31(火) 21:19:00   右から左へ

 ゆうべは海の生臭いにおいが夜を満たし、寝苦しかった。
 身もだえしながら9時間も寝てしまった。

 近くの中学校で伐採・抜根。
 ユンボでネズミモチの根っこに悪戦苦闘している時に、何かが裾の中に入った。
 蜂かと思って払ったが、取れたような気がしない。
 そのうち昼飯になった。
 いつもの握り飯3個を食べて、トラックのシートに横になり、足を窓枠に投げ出すと、
 また足のほうがむずむず、さわさわする。
 さっきは右足だったのに、今度は左だ。
 ふくらはぎからふとももにかけて、さわさわさわさわする。
 ぱんぱん叩いてはみたが、効果がない。
 そのうち蜂の頭のようなものを触った。
 こいつか、と思い、押さえつけながら外に出て、ズボンをふるって裾から落とした。
 落ちてきたのはなんだと思う?
 20cm大の黒々としたムカデだった!

 「ひぇえぇえぇえええ!!」
 
 それにしても、はじめ右で、それから左ということは、
 いつの間にか真ん中の領域もお通りあそばしたのだろうか。
 刺されなくてよかった
 と、つくづく思う松吉であった。