原爆裁判・集団訴訟
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現在の動き

日本被団協は9月20日厚生労働大臣宛に「原爆症認定制度の見直しにあたっての要求」を提出しました。
見直しにあたっての要求 解決要求の根拠


原爆症認定集団訴訟で 3 月 20 日仙台地裁で判決があり、 2 人の原告が勝訴、また 22 日、東京地裁は 30 人の原告のうち 21 人の訴えを認める判決を出しました。  仙台判決声明  東京判決声明

名古屋地方裁判所は 1 月 31 日、原爆症認定を求める被爆者の裁判で、原告 4 人のうち 2 人について、厚生労働大臣の認定申請却下処分を取り消す判決をだしました。厚労省は 2 月 8 日、 2 人について控訴、原告の4 人は 14 日、2 人の処分取り消し請求と全員の損害賠償請求を棄却した判決を不服として控訴しました。声明

5月12日大阪地裁において原爆症認定集団訴訟の最初の判決が出されました。9人の原告被爆者の原爆症認定申請を国が却下したことに対して、全員の請求を認める判決を言い渡しました。勝訴判決についての声明 判決要旨(pdf)

広島地裁は、8月4日、原爆症認定申請を却下された広島の被爆者 41人が、処分の取り消しを求めていた裁判について、原告全員について、「却下処分を取り消し」、全員を原爆症と認定することを命じる判決を言渡しました。声明(pdf)

厚生労働省は判決を不服とし、8月11日に控訴しました。
抗議声明



原爆症認定のあり方を問う


シリーズ 「認定」のあり方を問う  「被団協」新聞より
作業文書1   作業文書2   要請書


1.「寄与リスク」への誤解   安斎育郎(立命館大学教授)  2001.8月   「被団協」新聞8月

 厚生労働省は原爆症認定の新基準をつくり、すでに適用し始めています。被団協は「認定基準検討会」を組織し、こ
の程 「作業文書」第1号 として「『寄与リスク』概念をめぐる誤解について」(安斎ら著)を公表しました。厚生労働省が新しい認定基準を検討する際に基礎とした児玉和紀教授(広島大学)の論文「原爆放射線の人体への健康影響評価に関する研究」の誤りや問題点を指摘したものです。

いろいろあるリスクの表し方

 例えば、ある癌が10万人あたり非被爆者群で10人、被爆者群で15人発生したとします。つまり、被曝によって5人余
計に発生した発生した場合です。この時、被曝による危険度(リスク)をどのように表したらよいでしょう。
 三つの考え方があります。1、発癌者が5人増えた(絶対リスク)、2、発癌者が1.5倍に増えた(相対リスク)、3、被爆者群の発癌者15人のうち被曝に起因するのは5人だから、被曝の寄与率は33%だ(寄与リスク、「原因確率」ともい
う)の三つです。

寄与リスクは「最適」か?

 児玉論文は、「寄与リスクは絶対リスクと相対リスクの考えを併せもつ最適リスク評価尺度だ」と主張しましたが、こ
れは誤りです。
 なぜなら、非被爆者群で20人発生していた癌が被爆者群で10人増えて30人になった場合、絶対リスク10人、相対リスク1.5倍、寄与リスク33%となり、相対リスクも寄与リスクも、前のケースと区別できないのです。寄与リスクは相対リ
スクと同じ欠陥をもつ尺度に過ぎず、「最適性」の主張には根拠がありません。それに、同じような状況下で被災した被爆者を放射線起因性で認定したりしなかったりするのは、非情でもあり非現実的です。
 さらに、新しい線量評価方式(DS86)は遠距離被爆者の場合に大きな誤差を含むことも大きな問題です。被爆者補
償の精神は国家責任の自覚と弱者救済の視点を基本とすべきで、一見科学的に見える方式で機械的に処理するようなことにならないことを切望します。  


2.線量評価の問題点(上)  沢田昭二(名古屋大学名誉教授) 2001.9月  「被団協」新聞9月

 厚生労働省は、「新認定審査方針」に「原因確率」(寄与リスクともいう)の考え方を取り入れました(@参照)。これによれば、「原因確率」がおおむね50%以上の場合には原爆放射線の影響の可能性があると推定し、10%未満の場合はその可能性が低いとするようです。

「原爆放射線」と一口に言うが…

 原爆放射線の影響は、@爆発後一分以内に浴びた初期放射線のガンマ線と中性子線による体外被曝、Aその後の「黒い雨」などの放射性降下物や残留放射線による体外被曝、B放射能を含んだ水や食物を摂ったり、塵や砂ぼこりなどを吸い込むことによる体内被曝――これらすべてを考慮しなければなりません。
 ところが「新認定審査方針」は、旧厚生省のときと同様、AとBを軽視しています。また、「原因確率」を計算するときの初期放射線の量についても、遠距離の中性子線量に大幅な過小評価があり、松谷裁判や京都裁判でも問題になったDS86をそのまま使い、爆心地からの距離ごとのガンマ線と中性子線を単純に足し算した「吸収線量」を使っています。

放射線の種類で異なる影響の度合い

 「吸収線量」は、体重1kg当たりが吸収した放射線のエネルギー量(単位=グレイ)で表します。しかし同じ「吸収線量」でも、人体に与える影響は放射線の種類によって異なります。そこで、ガンマ線を基準にして、その何倍の影響を与えるかを生物学的効果比として「線量等量」(単位=シーベルト)で表します。通常、中性子線の生物学的効果比は10ないし30です。つまり、同じ「吸収線量」でも中性子線の人体への影響はガンマ線に比べ10〜30倍も大きいのです。
 こうした事情を考慮していない「新認定審査方針」では、遠距離被爆者の「原因確率」が実際よりかなり小さく抑えられ、従来の認定基準(内規)よりも申請却下が増える可能性もあります。
(次号で具体例を考えます。)  作業文書2



3.線量評価の問題点(下) 2001.10月  「被団協」新聞10月

 「新認定審査方針」を19歳のとき広島の爆心地から1.8kmで被爆して、肝臓ガンで認定申請をした場合を考えてみましょう。

単純なあてはめだと

 広島の爆心地から1.8km地点のDS86による「吸収線量」は、ガンマ線が15.2センチグレイ、中性子線が0.13センチグレイと推定されます。(1センチグレイは吸収線量の単位でグレイの100分の1)。「新認定審査方針」のように、DS86のガンマ線と中性子線の「吸収線量」を足し算すると、15.3センチグレイとなります。「新認定審査方針」にある肝臓ガンの、皮膚ガンなどの表から、被爆時年齢19歳の「原因確率」は7.5%となり、「おおむね10%未満である場合には、当該可能性が低いものと推定する」として、申請は却下されるでしょう。

きちんと計算すると

 一方、広島の爆心地から1.8kmでは、ガンマ線の吸収線量の実測値はDS86の推定値の1.5〜2倍の20〜30センチグレイ、中性子線量の実測値はDS86の60〜160倍の8〜21センチグレイです。中性子線の生物学的効果比を20として合計の「線量当量」を求めると180〜450センチシーベルトになります。「新認定審査方針」にある表のセンチグレイを、本来の「線量当量」のセンチシーベルトに読み直して「原因確率」を求めると、中性子線の生物学的効果比を20とした場合には48〜71%になります。この結果、「おおむね50%以上である場合には、当該申請に係る疾病の発生に関して原爆放射線による一定の健康影響の可能性があることを推定する」として、認定されるか、個別審査にまわるでしょう。
 放射性降下物と残留放射能による放射線の体外被曝と体内被曝の影響は入市被爆者の調査で明らかにされています。これらの要因を軽視したうえに、具体例に示したような過ちをおかす「新認定審査方針」によって、本当は放射線によって生じた障害を持つ被爆者の認定申請が、却下される事例が増加する可能性があります。

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