非核水夫の海上通信 
このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆

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2008年11月 被団協新聞11月号

 平和施策
 ヒバクシャ地球一周証言の船旅は、10月に地中海に到着。代表団がスペイン・カタルーニャのバルセロナに飛び、自治州政府と議会の歓迎を受けた。
 カタルーニャは1930年代のスペイン内戦で独伊に支援されたフランコ将軍と戦い、多大な犠牲を経験した。その後75年まで独裁下で人権侵害に苦しんだ。当地では伝統的に独立・自主の気質が高い。昨年からは、内戦や独裁下の被害と人権侵害について州政府が本格的な歴史発掘作業に乗り出している。州政府の平和人権局がこの作業を担当している。
 州議会に設置された連帯委員会ではさまざまな国際協力施策がNGOも参加して立案される。委員会は被爆者代表団の訪問にあたり、「核兵器禁止に関する決議」を審議した。カタルーニャ議会として同州政府とスペイン政府に対し、核兵器禁止に向けたイニシアティブを要請するものだ。
 市民と自治体が協力した平和施策の好例を学んだ。
 川崎哲(ピースボート)


2008年10月 被団協新聞10月号

九条の視点
 今年の秋葉市長による8・6広島平和宣言に素敵な一節がある。
 「市民が都市単位で協力し、人類的な課題を解決できるのは…軍隊を持たず、世界中の都市同士が相互理解と信頼に基づくパートナーの関係を築いて来たからです。日本国憲法は、こうした都市間関係をモデルとして世界を考えるパラダイム転換の出発点とも言えます」
 紛争予防NGOネットワークGPPACでは、参加者は国家を代表せず都市名を記す。東京、ソウル、北京、台北から集まり東北アジアを議論するという具合だ。中国代表とか台湾代表とやると、議論が国家間政治に縛られる。日本対ロシアではなく、東京とウラジオストックで話し合う。
 ピースボートは「世界一周」と言わず「地球一周」と言う。世界地図は国境線で色分けされているが、地球には線も色もない。船で回るとそれが分かる。
 軍隊ではなく市民の連携が平和を作る。憲法九条のこの視点が今とても大切だ。


2008年9月 被団協新聞9月号

米の二重基準
 某女子大の夏の集中授業で、今年はディスカッションを試みた。
 核燃料をつくる技術の延長で核兵器の材料が作れる。核不拡散条約(NPT)は加盟国に平和利用の権利を認めている。これらを説明した上でイラン問題に入る。イランは平和目的と主張しているがアメリカは兵器開発と疑っている。「さて皆さんはイランの核活動を認めるべきと思いますか」。意見は半々に分かれた。「権利があるからしょうがない」「違反の事実があるのだから制限すべきだ」。
 次に、NPT外で兵器開発しているインドにアメリカが核協力をしようとしていることを説明する。「これはどう思いますか」。「え〜それひどすぎますよね」と驚嘆の声。「アメリカって勝手すぎる」。専門で勉強している学生ではないが、問題の本質を見抜き「反対」が圧倒的だ。
 八月の広島でダナパラ元国連事務次長は語った。「インドへの核協力は核不拡散体制への根本的挑戦だ」。


2008年8月 被団協新聞8月号

G8サミット
 G8洞爺湖サミットは、近年のG8としては初めて「核軍縮」に言及した。これまでのサミットが「不拡散」ばかり語り、自らの軍縮義務については黙りであったことを考えると一歩前進である
 しかしその文言は、核保有国が行なっている核削減を「歓迎」し、G8外の核保有国、すなわち中国やパキスタンの核が「不透明」なのでしっかりやれ、と読めるような表現だ。元来、世界の核の95パーセント以上を保有するのは米ロであり、彼らが後戻りせず一層の削減を率先する責任がある。4保有国と4同盟国からなるG8に、そのような責任意識は見受けられない。
 サミットはまた「地球温暖化で原発に関心をもつ国が増えている」とし、不拡散と保安を強化しつつ原子力の基盤整備を進めることを打ち出した。しかし、安易な原子力拡大は核拡散の危険を高める。不拡散措置を強化しつつ、核に依存しない再生可能エネルギーを模索すべきだ。
 川崎哲(ピースボート)


2008年7月 被団協新聞7月号

 核軍縮・不拡散
 6月に来日し広島を訪ねたオーストラリアのラッド首相は、新しい「核軍縮・不拡散国際委員会」を設置することを発表した。2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議前に提言を出す。
 豪州は1995年に「キャンベラ委員会」を主催し、核廃絶への行動を国際社会に促した。98年にはインド・パキスタンの核実験を受け日本が「東京フォーラム」をつくり核不拡散・軍縮の行動計画をまとめた。04年にはスウェーデンがブリクス元イラク査察委員長率いる「大量破壊兵器委員会」を作った。
 新委員会の共同議長にはエバンズ元外相が就く。氏は、キャンベラ委員会を設立した外相であり大量破壊兵器委員会の委員でもある。世界の紛争問題でも積極的に発言している。
 「世界最大のウラン供給国として核問題で主導的役割を果たせる」とエバンズ氏は意欲をみせる。日本は共同議長を担うと報じられている。積極的な取り組みを期待したい。


2008年5月 被団協新聞5月号

 G8サミット
 先日イギリス大使館から突然電話がかかってきた。「G8サミットを前に日本のNGOの意見を聞きたい」という。大使館に呼ばれ、政策担当者と1時間ほど意見交換をした。
 イギリスといえば、05年のサミットを機にアフリカの貧困や地球環境問題で露出が多い。NGOやメディアを巧みに活用して存在感をみせている。政策の実質はともかく、サミット開催国のNGOに電話までしてくるあたりに、広報のしたたかさを改めて感じた。
 7月の洞爺湖サミットで日本政府は、核不拡散が議題の1つだという。しかし語る言葉は「北朝鮮、イラン、大量破壊兵器不拡散」ばかりで「軍縮」の文字は登場しない。例年のサミットからみても何ら新味はない。被爆国でのサミットだからこそ、核軍縮を掲げ世界に存在感を示すべきではないのか。
 キッシンジャーらが核廃絶をとなえノルウェーはその国際会議を開いた。日本の姿勢が今問われている。


2008年4月 被団協新聞4月号

『火垂るの墓』
 野坂昭如原作『火垂るの墓』の実写映画が完成した。神戸大空襲で母親を失った14歳の清太と4歳の節子の生き様を描いた名作だ。
 実写版の監督は日向寺太郎監督。清太役に吉武怜朗(NHKテレビ小説「瞳」に出演)、母親役に松田聖子、おば役に松坂慶子といった豪華キャストだ。
 当初『父と暮せば』の黒木和雄監督により進められていた企画だが06年に黒木氏が急逝。日向寺氏は「戦争を体験していない私が描くのは不遜」と断ったが、加藤典洋の次の言葉に背中を押されたと記している。「(戦争体験の継承は)リレーのバトンタッチのようなものだ。…今問題なのは、むしろ、戦争体験をどう『受けとる』か、というバトンを受け取るイニシアチブだ」
 ラストで雨に打たれた清太が立ち上がり歩き出す姿が印象的だ。
 全国ロードショーに先立ち5月4日の9条世界会議(幕張メッセ)で特別試写会が開かれる。問合せは03‐3363‐7967


2008年3月 被団協新聞3月号

 5月の「9条世界会議」(幕張メッセ)では、核と9条に関するシンポジウムが開催される。ゲストの顔ぶれを紹介しておこう。
 ウィラマントリー元国際司法裁(ICJ)判事。核兵器の使用・威嚇は国際法違反というICJ勧告を導いた人物だ。現在は紛争の続くスリランカで平和教育を展開している。
 アリス・スレーターは、NGOネットワーク「アボリション2000」の生みの親。直前にジュネーブで開かれる核不拡散条約(NPT)会議の様子を伝えてくれる。原子力にかわる持続可能エネルギーの提唱者でもある。
 キャスリン・サリバンはニューヨークの高校生らに核兵器について教えている軍縮教育家。ナガサキの原爆に関する映画『最後の原爆』の監督でもある。
 日本からは浅井基文・広島平和研究所所長が参加する。元国際原子力機関事務局長、国連イラク査察委員長のハンス・ブリクス氏も参加を検討中だ。


2008年2月 被団協新聞2月号

 今年5月「9条世界会議」という1万人規模の国際イベントが開催される。主会場は幕張メッセ。仙台、大阪、広島でも開かれる。「武力によらずに平和をつくる」という日本国憲法9条の考え方を、世界のさまざまな問題の解決に生かしていこうという趣旨だ。
 基調講演の一人は北アイルランドのノーベル平和賞受賞者・マイレッド・マグワイアさん。武力紛争のなかで対話と非暴力を訴えてきた彼女は言う。「ヒロシマ・ナガサキで戦争と核兵器の恐ろしさを知った日本が、世界にべつのビジョンを示してほしい。」
 ほかに1999年のハーグ平和会議を主宰したコーラ・ワイズさん、イラク戦争に反対している米兵や国連元高官ら、世界5大陸から多数のゲストが参加する。核、紛争、アジア、グローバル化などをテーマにした分科会や音楽ライブもある。ブース展示も募集中だ。
 被爆国から世界平和の新たな規範を作り出そう。


2008年1月 被団協新聞1月号

 今年七月、北海道洞爺湖でG8サミットが開催される。地球温暖化が中心議題になる。
 核の関心からも注目したい。第一に、サミットは北朝鮮やイランの核問題も取り上げる。日本政府は、核不拡散で得点を稼ぎたいらしい。しかし、特定国の核を封じ込めるのではなく、核保有国にも軍縮を求めなくてはならない。また、東北アジアや中東での公正な平和秩序構築を議論することも必要だ。
 第二に、温暖化対策として政府は原子力の推進を掲げている。しかし原子力の拡大は抜本的な温暖化対策にならないばかりか、世界的な核拡散の危険も高める。G8エネルギー相会合は、核燃料再処理を進める青森県で開催される。
 被爆国日本でのサミットは、核兵器廃絶への議論を巻き起こせるか。G8の議論は今後、中国、インド、ブラジルなど新興国へも大きな影響をもつ。すでに「G8NGOフォーラム」が結成され提言活動を始めている。



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