静寂のカンボジア〜アンコール・トム
 
Angkor Thom
 
 
アンコール・トム
 

  12世紀、ジャヤヴァルマン七世により創建された仏教の都。涸れてしまった堀に囲まれた4km四方のエリアに、さまざまな都市機能が複合しています。多くの建築が東向きなので午前中の方が綺麗に見えます。  

 
南大門
 


   
参道
メインゲートとなる南大門へと続く参道の両側では、神々と阿修羅たちがナーガの引っ張り競争をしています。それぞれ何人も並んでいますが、彼らは一体ずつ微妙に顔が異なります。向かって右の列が阿修羅。上半身の肉付きがよく、お相撲さんみたいで見ていて飽きません。
   

   
微笑の四面塔
南大門は意外と高さがあります。開口部の幅は車一台通るのがやっとですが、上は四階層分くらい吹き抜けています。見どころは東西南北それぞれに彫られた、微笑する観世音菩薩。顔だけで3mもある巨大な石塔です。ただ、近寄るとあごしか見えないし、離れると小さくなってしまうし、全貌をちゃんと見ようとすると難しいのが悩ましいところです。
     
象の柱
南大門をくぐったら振り返ってみましょう。裏側の壁にはクメール王国のシンボルだった三つ頭の象が彫られています。ひとつのからだに頭が三つなんて、まるでキングギドラですね。あれ、でもこれって、ラオスのランサン王国のシンボルじゃなかったっけ? それとも東南アジアでは象がポピュラーだから、みんな似たような発想になるんですかね?
   

   
境内
道端にはまばらに木立が並び、子供たちが砂埃を巻き上げながらサッカーに興じていました。このあたりは街中の風景となんら変わりませんね。しばらく行くと、象のタクシーが客待ちをしていました。「どうだい、お客さん。乗っていかないかい?」とでも言うように、鼻を上げ下げアピールしていました。
   

 
バイヨン
 


       
 
東門
象のタクシーが待機している場所の向かいがバイヨンの入口。このあたりはアンコール・トムで最も賑わうところ。飲食店や土産物屋がたくさん並んでいます。
 
第一回廊
バイヨンの大きな見どころのひとつにレリーフがあります。第一回廊にはチャンパとの戦争を中心とした歴史絵巻が、壁一面に刻まれています。
 
写実主義
レリーフには当時の庶民の暮らしも生き生きと描かれています。動物の姿などは妙に写実的で、見ているうちに楽しくなってきます。ほら、豚の肩肉の付き方とか。
 

   
第二回廊
レリーフと並ぶもうひとつの見どころは、言わずと知れた「クメールの微笑み」。ガイドブックやテレビとは違って、実際に見るとかなり奇妙なものです。不気味というかヘンテコというか、何だか落ち着かない気分になります。左はジャヤヴァルマン七世自身の肖像。チャームポイントはつり上がった目。
   

       
 
撮影ポイント
見ての通り、この寺院はあちらこちら微笑する観世音菩薩の彫刻で一杯です。中でもベストポイントは、遠近法のように三つ並んで見えるこの場所とされています。
 
中央祠堂
第二回廊を回り込んで行くと中央祠堂に至ります。ここは須弥山の頂上に当たり、そのまわりの小さな祠はいわば峰のようなもの。山全体に変化をつけ趣を出しています。
 
祠堂内部
バイヨンも他の遺跡同様、現役の寺院です。香の煙でむせかえりそうな祠の中には仏像が安置され、信者が花や供物を供えに訪れます。
 

     
ジャヤヴァルマンの宇宙観
バイヨンには創建者であるジャヤヴァルマン七世の宇宙観が見事に表現されています。ヒンドゥーをその宗教的基礎としたアンコール・ワットとあえて対峙するかのごとく、彼が帰依したのは大乗仏教でした。須弥山を中心として、塔や城壁で山々を、環濠や池で大海を、それぞれ象徴させる手法自体は共通ですが、方角や空間の取り方が大きく異なります。最大の違いは「クメールの微笑み」こと観世音菩薩像。バイヨンのどこにいても見ることができるということは「仏陀は常に庶民を見守っている」ということ。救済を最重視した設計だったことがわかります。
     

 
象のテラス
 


   
象のテラス!
王宮の前には300m以上にわたってテラスが設けられています。ここで歴代の王は閲兵を行い、向かいの野原で繰り広げられる歌舞音曲を楽しんだとのことです。ところで延々と続く土台の壁一面に描かれているのは、象また象。しかも永遠に続くかと思われるほど長い。確かに名に偽りがありません。
   

   
ガルーダのテラス?
と思いながら見ていくと、ちょっと待てよ。象以外の生き物がテラスを支えているではありませんか。ガイドさんいわく「これはガルーダです」。そうなの? このユーモラスな造形、てっきりマントヒヒか何かと思いましたよ。どう見てもサル系でしょ。少なくとも鳥じゃないよね。
   

 
王宮周辺
 


       
 
バプーオン
かつてはバイヨンより高かったというバプーオン。空中参道が有名ですが、この日は修復工事中で入ることができませんでした。フランス人の観光客もちょっと残念そう。
 
塔門
王宮もバイヨンと同じく東が正門になります。本殿は木造だったために今では痕跡すら残っていませんが、塔門はご覧の通り往時の姿をとどめてくれています。
 
ピミアナカス
王宮の中心にはピラミッド型の宮殿がありました。シンメトリーで美しく、どことなくマヤ遺跡を思わせる形をしています。でも土台の地面が一段掘り下げられているのはなぜ?
 

   
プラサット・スゥル・プラット
象のテラスの向かい、野原の先にも遺跡がありました。小さな祠のような12の塔が礼儀正しく並んでいます。かつてはこの間に綱を張り綱渡りをしたという噂ですが(王様は象のテラスから眺めたんでしょうね)真偽のほどは定かではありません。日本の学術隊が修復を担当しています。
   

 
癩王のテラス
 


   
なぁんだ
癩王、それは閻魔大王のこと。でも象のテラスと違って何人もの癩王が並んでいるわけではありません。土台の壁を支えているのは神々や阿修羅、女神たちです。また、テラス上には件の癩王の像もありますが、これはレプリカ。本物はプノンペンの国立博物館にあるそうです。
   

   
癩王の使い
その他にもレリーフにはいろいろな生き物が描かれています。たとえば蟹とかワニとか魚とか。中にはヤマタノオロチならぬ九つの頭を持つナーガといった大作も。宗教的というより庶民的な感じのするモチーフですが、ひょっとしてそれらは癩王の使いだったりするのか?
   


   

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