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にゃんこさんが書いたサイドストーリー 「Seasons」

■ 第6話 夏 その4

「僕らの結婚式には、ぜひともお2人で出席していただきたい」
帰り支度を済ませた小橋は、玄関に見送りに出た直江と倫子に言った。
「私はどうだかわからないが…君はぜひ出席させていただきなさい」
直江がにこやかに言うのを聞いた倫子は、自分の迫り出たお腹をポンとたたいた。
「聞いてる? ママは結婚式に行きたいから、予定通り出てきて頂戴」
予定日は11月はじめだ。クリスマスイブまでには1ヶ月以上ある。
「お昼、ご一緒してくださるとよかったのに」
倫子は残念がったが、小橋はこれから七瀬と約束があると断ったのだ。
「学会の結果はまたご連絡致します。どうもお邪魔しました」
小橋が頭を下げると、それまで大儀そうに壁にもたれていた直江が体を起こすと、急に思いついたように言った。
「新しいデータがあったんです。七瀬先生とご覧になっていただけますか?」
「はい、お預かりいたします」
「机の上に黄色いファイルがある、とってきてくれないか」
倫子の姿が部屋の奥に消えると、直江は小橋をじっとみて小声でささやいた。
「私に何かありましたら、倫子と子供の力になってはいただけませんか?」
直江の覚悟を思うと、小橋は言葉に詰まった。
「私でお役に立てることでしたら…」
そういうのがやっとだった。

倫子は寝室の隅にある座り机の上で、本の山と格闘していた。
「どこにあるのかな、ファイルは…」
この1ヶ月ほどですでに洋書と医学書の小さな山が2つほど出来ている。その山をかき分けるようにファイルを探していた倫子は、黄色い表紙を見つけると、勢いよく引っ張り出した。
「あれ?」
ファイルではない…本だ。黄色い表紙には大きく『赤ちゃんの名づけ事典』とかかれている。
先ほど宅配便で届けられたのはこれだったのだ。隠すように本と本の間に入れて…。
倫子にこれを見られたくなかったに違いない。
「先生ってば…」
名づけの本なんて直江には一番似合わないもの…どんな顔をして注文したのだろう。
その姿を思うと、倫子はクツクツと笑い出した。想像すると笑わずにはいられない。
可笑しくて笑いながらも、倫子はいつの間にか本を胸に抱え、涙を浮かべていた。
幸せな気持ちが満ちてくる。幸せ…今、倫子は幸せだった。
「あったのか?」
玄関で直江の声がする。
はっとして黄色いファイルを探すとそれは机の下にあった。
「ハイ、ありました」
倫子は涙をぬぐうとファイルを手に慌てて玄関へ向かった。

 

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