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にゃんこさんが書いたサイドストーリー 「Seasons」

■ 第2話 冬 その2

倫子は諦められなかった。直江も、そして芽生えはじめた小さな命も。
「先生…」
倫子はゆるゆると立ち上がると窓辺に立ち、なにか思うようにじっと窓の外を見ている。
やがて、ゆっくりと直江をふりかえったその目には、少しの狂気が見えた。
「もし先生が私と一緒に札幌に行かないのなら…ここにいるというのなら」
倫子は、自分が止められないまま言っていた。
「ここで、3人で、死にましょう」
直江は信じられない面持ちで倫子を見つめた。
こんなに静かな激しさをもつ倫子を、見たことがなかった。
「先生が一人で死ぬぐらいなら、ここで3人で消えましょう」
3人という言葉に思わず力が入る。
先生と、お腹の子供…どれが欠けても自分は生きていられないだろう。
そんなことになるぐらいなら、いっそ本気で死にたかった。
いつの間にか雪は止んでいた。
風不死岳の頂きに上った月に照らされた支笏湖が、まるで倫子を誘うかのように
目の前に広がっている。

月明かりは、追い詰められた倫子の表情をスポットライトのように照らし、
直江に見せつけているかのようだった。
静かな能面のような、それでいて差し迫った表情。
(これが母親になるということなのだろうか)
直江は、倫子の春のような無邪気な性格の中に隠された、激しさを感じた。
全身全霊をかけて、自分と自分たちの子供を守ろうとしている。
先ほどまであれほど頑なであった決心が、グラグラと揺らごうとしていた。
だが…しかし…

直江はうつむいたまま微動だにしない。
自分は刃物だ――倫子はそう思った。
愛する人を傷つけている、そう感じながらも責めることを止めることは出来ない。
「先生…先生!」
倫子の強い呼びかけに、直江はようやく顔を上げた。
「君は…僕に生きろというのか?」
倫子は力いっぱい頷いた。
「最期まで、どんな状態になっても生き抜けというのか?」
「奇蹟が起こるかも知れない…
もしかしたら明日にだって新しい治療法ができて治るかもしれない!」
倫子は奇蹟にすがりたかった。奇跡が起こるなら、自分はどんな事だってするだろう。
直江は、自分の上だけには奇蹟が降らないことを知っていた。

でも…これも運命なのだ。
倫子の前で発作が起きたことも、彼女が自分の子を宿したことを知ったことも。
すべて神様が仕組んだことなのだろう。
直江は軽く首を振ると静かに言った。
「わかった… 明日君と札幌の病院へいこう」
直江が承知してくれた――倫子は気が抜けてその場に座り込んだ。
月明かりはまあるく倫子を照らし出した。
「ハハハ…」
急に倫子は奇妙な笑い声を出した。
嬉しいのか、悲しいのか、わからなかった。
幸せなのか、不幸せなのかもわからなかった。
ただわかるのは、直江が、自分とお腹の子供と一緒に生きることを決めたことだけだ。
直江はベッドから起き上がると、倫子をすくうように抱き上げた。
「こんな冷えるところにいてはいけない」
倫子は恐る恐る直江の顔を覗き込んだ。
すると、直江は美しい笑顔を向けた。
倫子は安堵すると、直江の首にそっと腕を回した。

 

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