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にゃんこさんが書いたサイドストーリー 「Seasons」

■ 第1話 冬 その1

パチパチと、暖炉が音をたてて燃えていた。
暖かい、なんて居心地がいいんだろう――倫子は満足だった。
隣に座っていた直江がスッと立ち上がり、薪を足す。
「今度来るときは春がいいな」
ずっと2人でいられる…この旅で確信した。
心の中に秘めていたことを、思い切って切り出そうとした瞬間、直江に抱きしめられた。
「僕は、君の側にいる…ずっと、そばにいるから…」
嬉しくて、幸せで、倫子は直江の胸に顔をうずめる。
(このまま時が止まってしまえばいいのに)
どうして自分はそんなこと考えるのだろう…そんな嫌なこと…と思った瞬間
直江の体が倫子から離れて、ゆっくり崩れるように倒れていった。
「先生! 先生!!」
あわてて抱き起こすと、顔は土気色になり、額には脂汗を浮かべている。
「大丈夫、大丈夫だから」
倫子の腕を振り解き立ち上がろうとしたが、その場に再び崩れた。
どう見てもただの腰痛ではない。
倫子はすばやく脈を取り楽な体制にしたが、直江の苦しみは増すばかりだ。
自分の手には負えない―倫子が唇をかみ締めたその時、
「薬…薬を…」
そうだ、薬だ。倫子は直江の鞄に飛びついた。

ベッドサイドで、倫子は直江の寝顔をじっと見つめた。
薬がよく効いているのか安らかなその顔は、日ごろとは打って変わった表情を見せた。
頼りなげで、はかなく美しい寝顔…。
静かに直江が目を開けた。
「先生…」
焦点の合わないその目は部屋を見回す。
「ここは…」
「支笏湖ですよ」
倫子は、まだぼんやりしている直江の手を取ると、自分の頬に当てた。
直江の手に、その頬の冷たい感触が伝わってきた。
「また驚かせてしまったかな」
「話をしてくれていたから、大丈夫」
明かりを落とした物音一つしない室内を、窓からの雪明かりが照らしていた。
「雪の音…」
「ん?」
「雪の降る音が聞こえる…」
降り積もる雪の音が2人を包む。この世にまるで2人きりのような静かな晩…

静寂を破ったのは倫子だった。
「先生、明日札幌の病院に入院しましょう、小橋先生が手配してくださるそうです」
「連絡したのか?」
「すいません」
「どうして…」
直江が、かすかに動揺しているのが判る。
「小橋先生なら、なにか知ってらっしゃるかと思って」
「何か聞いたのか?」
倫子は首を振った。小橋は、直江の病について、何も教えてはくれなかった。
ただ…もう自力で帰ることは出来ない、札幌の病院を手配するのでそこに行くように、
とだけ言った。
しかし、倫子も看護婦の端くれだ。自力で帰れないことがどういうことか察しはつく。

「先生、私に何か言うことはありませんか?」
直江は黙ったままだ。
「私は言うことがあるわ」
倫子は直江の目をまっすぐに見た。
「私のお腹の中に先生の赤ちゃんがいます!」
こんな風に言いたくはなかった。でも、今、言わなければ…ざわめく胸に急き立てられる。
直江は無言のままだ。だが、握ったこぶしがかすかに震えている。
「私、生みますから」
「それはダメだ。」
「どうして?」
きっぱりとした直江の態度に、倫子は泣き出さんばかりだ。
言われるかもしれないと覚悟はしていた。
でも、いざ口にされると、その言葉は刃物のように倫子を突き刺す。
次から次へとあふれてくる涙を、直江はそっと指でぬぐった。
倫子は、いままで恐れていて聞けなかったことを、思い切って口にした。
「生んではいけないのは…それは…先生がもうすぐいなくなっちゃうから?」
倫子は直江の目をじっと見詰める。直江は何も答えてはくれない。
だが、直江の潤んだような瞳にすべての答えがあった。
直江はここで死ぬつもりだ…倫子は確信した。

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