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にゃんこさんが書いたサイドストーリー 「Seasons」

■ 第12話 春 その1

「こんなところで寝ていると風邪を引く」
直江の声に倫子は目が覚めた。
起き上がると、いつもの河原だった。
うたた寝をしてしまったらしい。それにしては、長い夢を見ていた気がするけど。
風邪を引いてしまったのか、頭が薄く痛み、霧がかかったようにぼんやりとしている。
直江はいつもの黒いコート姿で、ゆっくりと歩き始めた。
「待ってください!」
倫子もあわてて、手元にあったバックをたすきがけにすると、パタパタとその後を追った。

3月とは思えないほどの暖かい日だった。
土手の道を、直江が…その後を少し遅れて倫子が歩く。
空はどこまでも高く青く、ホコリっぽい土の――春の香りがどこからか流れてきて、鼻をくすぐる。
「もうすぐ春ですねェ」
「そうだな…」
倫子が話し掛けると、直江はにっこりと笑い倫子の手をそっと握った。
嬉しくなって直江の腕につかまると、2人はならんで河原を歩き始めた。
しばらく歩くとボート乗り場が見えてきた。
「先生、ボート!」
倫子は走り出すと、直江を手招きした。
「乗りましょうよ!」
今日みたいな日は絶好のボート日和だ。風もなく水面は穏やかだった。
1曹のボートを出してもらう。
「あれ、これ7番ボートですよ!」
先に乗り込んだ倫子は、ボートの縁を覗き込むと、はしゃいだ声を上げる。
直江の漕ぐボートは、水面を滑るように走り始めた。

「先生、やっぱり漕ぐの上手じゃないですか」
倫子は感心していった。
「なかなか乗せてもらえないから、本当はボートに乗れないのかと思っちゃいました」
「ははっ!」
おどけて言う倫子に、直江は声を出して笑った。
先生が声を出して笑うのを、はじめて聞いたわ――倫子は、ちょっと目を丸くした。
そういえば、直江にピタリと張り付いていた影のようなものが、今日は不思議なほど見られない。
(こんな気持ちのいい日だもの…)
こういう日があってもいいよな、と倫子は思った。
ボートは緩やかに川を進んでいく。
3月にしては驚くほど暖かい…と、そこまで考えて倫子はふと気付いた。
今は、ほんとうに3月なのだろうかと…。

「倫子」
いきなり名前を呼ばれて、倫子はびくっとした。
「ハイ?」
「君は本当によかったのか?」
「何がですか?」
「僕を愛して、幸せだったのだろうか」
突然こんなこと聞いてくるなんて、直江らしくなかった。
「何言ってるんですか、あたりまえじゃないですか!」
そうか…と直江はほっとした様子だった。
「私は幸せ、すごく幸せです。」
倫子は歌うようにいった。いつもなら聞けない照れくさい言葉も、今日なら言える気がする。
「先生は? 幸せですか、私を愛して…」
「ああ…」
直江はまっすぐ倫子を見た。
「幸せだ…」
倫子は天にも上る気持ちで空を仰いだ。雲までピカピカと輝いて見える。
やっとかなった約束に、倫子は酔いしれていた。

 

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