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にゃんこさんが書いたサイドストーリー 「Seasons」

■ 第11話 初秋 その2

『手術中』のランプが赤く灯った。
手術台に上がった倫子は、看護婦として数限りなく見てきた無影燈の強い光を、ぼんやりと眺めた。
「麻酔しますね。ハイ、数を数えて…」
1、2、…10数えないうちに倫子は深い眠りに落ちていく。
意識が落ちる直前に思い浮かべたのは、直江のあの、穏やかな笑顔だった。

このままでは、子供も母体も危険と判断された倫子の帝王切開が緊急に行われることになった。苦しげな倫子を見ていると、それも仕方がないと思う反面、無事生まれてくるのだろうかと思うと、清美は気が気ではなかった。
「大丈夫ですよ、ここは設備も整っていますから」
担当医師の力強い言葉を信じるしかない。こんな状況の中、万が一ということがあったらどうなってしまうのか。手術室前の長いすでひとりポツンと待つ清美は、不安な気持ちを抱いていた。
そこへ小橋が息せききって走ってきた。
「直江先生が…急変して」
覚悟はしていたが、まさかこんなときに…清美は手術室に悲痛な眼差しを向ける。
小橋は清美を促すと、直江の病室へと急いだ。

病室の直江は、最期の時を迎えようとしていた。
細々とともされていたろうそくの火が、今まさに消えようとしている。
かろうじて残る意識の中、直江の視線は倫子を探しているようだ。
「直江!」
七瀬が手を取った。清美も側へ駆け寄る。
「先生、赤ちゃん生まれるのよ、お父さんになるの!」
その言葉に直江が反応した。
「子供…?」
やっと聞き取れるような、消え入りそうな声でつぶやいた。
「そう、今、倫子頑張っているの、だから先生も…」
頑張って!と言いたかったが、後は言葉にならない。
早く! と清美が願ったとき、廊下からバタバタと足音がして、看護婦が小さな包みを持って病室に飛び込んできた。
「すぐ保育器に入れなきゃいけないんですけど、先生が一目見せてって!」
直江の枕元に置かれたのは生まれたての赤子だった。
清美は、子供の顔が良く見えるようにおくるみから半分だすと、直江のやせた右腕にそっと乗せてやった。
「可愛いわね…」
清美がつぶやくと、どこにそんな力が残っていたのか、直江はそろそろと左手を伸ばすとその小さな頬にそっと触れた。
「男の子ですよ」
看護婦の言葉に答えるかのように笑った、喜びに満ちた目には、薄く涙が光った。
間に合ってよかった…その場にいた一同が思ったその時、月のような瞳は翳り閉じられた。
「先生!」
「直江!」
病室が騒然となった。

手術室では、無事胎児も取り上げられ、縫合作業が行われていた。
作業も終盤に差し掛かったとき、計器を見ていた看護婦が声をあげた。
「先生! 心拍数が…」
確かに心拍数が落ちている。
「そんな、馬鹿な…」
妊娠中毒症がひどいとはいえ、たかが帝王切開ではないか…
「強心剤持ってきて! 」
素早く指示を飛ばしながらも、医師の心は焦りでいっぱいになった。
いったいどうなっているんだ―。
無影燈に照らされた倫子の顔は、蒼く翳っていった。

 

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