「話ってなんだ」
「東京に行こうと思います」
「ここを辞めたいっていうのか」
「はい」
「東京でどうする」
「新しくできた病院で外科医を探しているそうです。真鍋教授に話をしてもらいました」
「なに? もう決めたっていうのか」
「すみません」
「治療はどうする」
「治療はしません」
「しないって,それはどういう...」
「進行を遅らせたところで助かりません。だったら,僕は自分の体を有効に使いたい。
MMの進行過程を記録します。」
「自分の体を実験台にするというのか?」
「データは先生の研究に生かしてもらえます。僕の死は無駄にはならない。それに」
「ほかにも理由があるのか?」
「僕は入院などしたくありません。最期まで医者としてやっていきたいと思います。
医者として最期まで患者に接したい。それには,ここにいてはだめなんです。
みんなが僕を気遣ってくれるでしょうが,僕にはそれがつらいです。
信念も崩れてしまうでしょう。
医者を続けるためには,病気のことを誰も知らないところに行かなくてはなりません。
ここにいてはだめなんです。」