当直明けの日から3日間,直江は病院を休んで北海道に旅立った。
部屋に一人でいたくなかった。
行き先は支笏湖だった。支笏湖には子供の頃からの思い出がいろいろある。
大人になってからも,何かある度に支笏湖に来て,湖と向かい合った。
ここに来れば自分が素直になれるような気がしていた。
何も考えられなかった。
仕事のことも将来のことも,考えることがすべて無意味なことのように思われた。
自分の前には真暗闇に伸びる1本の細い道しかない。
歩き出せばすぐに道の終点が視界に入ってくるだろう。
まわりには何もないし,誰もいない。
その道を,たった一人で歩いていかなくてはならないとは...
いやだ。そんなのはいやだ。自分は強い人間ではない。
死に向かって一人で歩き続けるなど...できるわけがない。
『このままここで死のうか』そんな考えがよぎった。
支笏湖に沈んだ体は湖底の枯れ木に阻まれて浮かび上がってこないという。
『どうせ長くないなら,このままここで消えてしまえばいい』
そう考える自分に驚き,しかし,それも一つの選択肢であると思った。