結子は朝一番の飛行機で北海道入りしていた。
結子を乗せた車は、ロケ現場に向かって支笏湖の外周に沿った道を走っている。桃の節句を過ぎると、とたんに春めいてくるものだが、車の窓から見える支笏湖の白い風景には、まだ春の到来を感じられない。
結子はこの場所に先ほどからなつかしさを感じていた。
(初めて来たのに、もうずっと前からここを知っているような気がする)
目に映る情景を確かめ直してみた。
――深く蒼い湖、緩やかな稜線を描く山々
(――そうか)
「すみません。ちょっと車を停めてもらえませんか?」
結子は自分の抱いた感覚が間違っていないことを確かめたくなり、車から降りて湖畔に歩み寄っていった。雪に足をとられながら樹々の間を一歩一歩進んだ。しばらくすると突然視界が開け、湖の全景が目に飛び込んできた。
めぐる縁し 紡がれし絆
父の想い 娘の想い
時を超え 惹き合うが運命(さだめ)
「ああ、ここだったんだ。この場所だったんだ……」
言葉は白い蒸気となって硬い空気に溶けていった。結子は、その場所が自分の部屋に掛かっている写真と同じであることを確信していた。