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MRTさんが書いたサイドストーリー 「湖の残照」

■ 2 なみおと 
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 志村結子。
この一年で大きな羽ばたきをみせ、将来を期待される若手女優。十五歳の時、友人と街中を歩いているところをスカウトされ、以来五年の間、コマーシャルやドラマを着実にこなしてきた。

 元々、芸能界には興味がなかった。祖母、そして母は、看護婦をしている。その環境の中で育った結子にとって「自分も看護婦になる」との思いを抱くのは自然なことであった。
この世界に足を踏み入れた時も、あくまでバイトぐらいの感覚だった。しかし、本人の気づいていないその豊かな感性が、周囲の者を惹きつけるのにそう時間はかからなかった。次第に中心的な役を演じるようになり、今ではドラマになくてはならない存在の一人になっている。

 リビングのソファーに深々と腰掛け、冷たくなった手を温めるようにコーヒー・カップを両手で包み込んでいる。部屋の中は程よい暖かさに保たれていた。
(お母さんのいれるコーヒーは、やっぱりおいしいな)
 飲みながら疲れが癒されていくのを結子は感じていた。

「ねえ、お母さん。看護婦って大変だよね。お母さん、よく長年やっていられるね」
「何よ今更。少しは尊敬した?」

 胸を張りおどけてみせる倫子。励ましともひやかしともとれるような笑みを浮かべて
「そうそう、結子は今、看護婦さんだものね。にわか看護婦さん、上手にやれてる?」と言った。

 現在、結子は看護婦を演じている。病院を舞台にした、青年医師とのせつないラブストーリーである。これまでは等身大に近い役を演じてきたが、このドラマでは主役級に抜擢され、しかも青年医師の支えになるという難しい役どころをこなしている。

 倫子の問いかけに、結子のすっきりした眉がわずかに動いた。

「うーん、どうかな……。とにかく看護婦さんが大変だということは、ひしひしと感じているわ。役作りが難しいということじゃなくて、患者さんとのやりとりがつらいの。
患者さんの死に関わっていて、どう対応すればいいのかな、という本質の部分で精神的にどんどん追い詰められちゃうのよ。ドラマの中のことだとわかっていても、台本を読んでいて、つらくて、つらくて……」
 結子はコーヒーカップを口に運びながら、遠くを見つめるような眼差しをした。

「でもね、相手役の中江さんが優しいんだ。いつも私のことをさりげなくフォローしてくれるの。とても助けられてる。口には出さないけど感謝してるの」
「そうなの――」

 倫子は一瞬、目を細めたが、すぐにやわらかな笑みを返し
「良かったじゃない。そういう人と一緒にやれて」と言った。

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