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はとぽっぽさんが書いたサイドストーリー 「君に伝えたいこと」


■ 記憶
 

「ただいま!!お母さんも、おかえりなさい」
玄関で陽介と母の声がして、目が覚めた。

今のは何?夢・・・?頬にはうっすらと涙のあとがあった。
しばらくその場から動けなかった。母と陽介が倫子の様子に心配そうに近寄ってきた。

「おかあさん?どうしたの?おなかいたいの?」
「ううん。なんでもないわ」
「おかあさんが元気がないと、おとうさんも元気がなくなるよ」

あっ・・・と、つい口をすべらせた自分にびっくりして、陽介は口をおさえた。
倫子の横に見えているであろう直江の姿を探しているようだった。
(先生、夢じゃなかったんですね。陽介には見えているんですね)
「何か、言った?陽介」
倫子は聞こえなかったふりをして陽介の様子を見ていた。
「なんでもない」
ほっとしている。陽介には、まだそこにいる直江を見ることができたらしい。
「さぁ。お誕生日の準備しようか。陽介も手伝ってね」
「うん。」
陽介はうれしそうに台所へ走っていった。陽介の様子を見てあらためて、倫子は直江が本当に自分に会いにきたのを実感した。
だんだん直江がみえなくなるという陽介にこれからどう伝えていこう・・・。

お誕生会が終わるとと母がアパートへ帰っていった。
札幌のおばあちゃんと長野の七瀬先生と久しぶりに電話でおしゃべりをした陽介は、興奮して寝つけないようだった。おしゃべりはベットへ入ってもおさまらない。

「今日、僕の誕生日だからね。きっとおとうさん、おかあさんの夢にでてくるよ」
「そうなの?たのしみだわ、おかあさん」
「僕、毎日お願いしてたんだ」
「・・・おとうさんに?」
「ううん。・・・神様に」
「そっか。・・・ありがとね。」
「あのかわのそばのれすとらんにいっしょにいくといいよ」
「そうね。そうする」
「ねえ。陽介の夢に出てくるおとうさんといつもなに話してるの?」

あえて倫子は陽介が言いやすいようにと「夢にでてくる」と言ったのに、陽介は少し考えて「だめ。ないしょ」と教えてくれなかった。
陽介は小さな心で陽介なりに父親との約束を守ろうとしているのだと思った。
だから、あえて聞かずに見守ることにした。
話をしたいと思えばその時に聞いてあげればいいのかもしれない。
倫子は話題を変えてみた。

「ねえ。陽介はおかあさんのおなかのなかにいるときどうしてたの?」
「うーんとね。おみずにはいってた」
「おみず?どんな?」
「うーん。よくわかんない。あったかかったよ」
「そっか。あったかいんだ」
「うん。」

きいてよかった。倫子はあったかかったという陽介の言葉に胸が熱くなった。
3歳くらいまでに聞くと答える子もいるらしいとは聞いていたけど・・・
いつまでおぼえていてくれるんだろうか。不思議な気持ちだった。

ずっと嬉しそうだった陽介がしゃべりつかれて眠ってしまうと、部屋の静けさが倫子をまたさっきの再会に引き戻した。
陽介はきっと直江先生と約束していたんだ、私に会いにくることを・・・。

もし男の子が生まれたら「ようすけ」にしようと決めていた。・・・ふと、冬の月のように淋しげだった先生の目を思い出して、太陽のように明るい光を受けていてほしくて「陽介」としました。
一度も先生のこと名前で呼べなかったですね。
今はたくさん呼んでいます、あなたにそっくりな小さな陽介のことを・・・・。

これからの陽介の記憶に、父親との記憶はどれだけ残るのだろう。
自分が父親に愛されていたということをわかっていてくれればいい。
それだけはきっと、陽介は覚えていてくれるはず。
だって、陽介は直江先生が私に最後に残してくれた宝物だから・・・。
 陽介の寝顔を今もとなりで見ていますか?直江先生。
直江先生にはわかっているかもしれないけど、わたしはさっき・・・嘘をつきましたよ。
直江先生より好きな人なんて・・・きっとこの先もできませんから。
二人が幸せならそれでいいですよね。

寝ているはずの陽介が笑った。
きっと、直江先生の小さないたずら・・・。

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