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涼さんが書いたサイドストーリー 「出会った頃の君でいて」


■ SCENE6 恩師との再会

その日、長野の駅に初老の紳士が降り立った。七瀬だった。
大きな荷物を持ち直すと、深いため息をついた。そのとき不意に荷物が軽くなった。驚いて振り返った七瀬の目に映ったものは・・・。

「直江・・・。」
「先生、今日はお持ちしますよ。」
直江は七瀬の荷物を持ち、歩き出した。呆然とする七瀬。

「先生」促されて、我に返った七瀬は並んで歩き出した。
「君が北海道に旅立ったことは風の便りで知ったよ。やはり私は教え子をりっぱな医者に育てすぎたようだ。あの後、君の首根っ子つかまえて、つれて帰らなかったことが悔やまれてね。」
七瀬は下を向いた。

「先生、僕はあのとき、僕のわがままを許してくださったことで、ますます先生を尊敬しました。僕が僕として生きるためにはあのときここに帰ってきてはならなかったのです。先生はそれをわかってくださったのですから。」

そうこうするうちに二人は着いた。

「直江、寄っていきなさい。」
二人が向かったのは七瀬の教授室。
「先生、お帰りなさいませ。」医局員たちがあいさつした。
「すまないが、しばらく教授室に入らないでくれないか。まとめたいものがあるのでね。」
「わかりました。」
七瀬が仕事で教授室にこもることはめずらしいことではなかったので、だれも不思議には思わなかった。
「今やっている研究で君の意見を聞かせてほしいのだ。」七瀬が言った。
「ありがとうございます。先生のお役に立てるのでしたら。」直江が答えた。

それから日暮れまで二人は研究について意見を戦わせた。それは二人にとって何にも代え難い大切な時間だった。夕暮れが迫ってきた頃、七瀬が言った。
「帰るところはあるのか?」
「はい。」静かに直江が答えた。
そのとき七瀬はずっと聞きたかった言葉をつぶやいた。
「君は1人じゃなかったんだろうな。」

「僕は自分の運命を知ったとき、誰も巻き込まないためにだれも愛さず、1人で生きて1人で旅立つつもりでした。僕も男です。怖さをまぎらすために女を抱いたこともあります。でもどんなに女と寝てもどんなに酒を飲んでも満たされない心の空洞はどうしても埋めることはできませんでした。
志村倫子。彼女はちがいました。僕を包み込んでいやしてくれました。彼女は僕を信じてくれました。彼女がいたから、僕は自分を見失わずに進むことができたのです。」

七瀬は安心した。直江を孤独の中に置き去りにしたと自責の念に駆られていたからだ。

「じゃこれから、彼女のところにもどるんだな。」
「はい。先生と最後にゆっくりと仕事の話ができてこんなにうれしいことはありませんでした。お忙しいのにありがとうございました。」
直江は深々と礼をして出ていった。直江が去った後には、さわやかな春の香りがただよっていた。

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