■嘘の中に入ってくる。
「嘘の中に入ってくる」というのは「現実逃避」ということだと思う。
怖くて聞けない。認めたくない。だから,医者のつく嘘を否定しないですがり,その嘘を信じ,嘘の中に入る。だれだって死は怖い。そういう患者の心理を,直江は知っている。だから患者に対して嘘をつくのだ。
そういう彼もまた嘘の中に入っている。彼の場合は,彼自身が周りの人につく嘘によって,彼自身を守るため。
彼のつく嘘によって,彼は自分の病気を隠せるし,医者を続けられる。
医者を続けるためには,嘘をつかなくてはならなかった。嘘の中に入っていなければ生きていけなかった。
倫子に出会ってから,彼は倫子にも嘘をつきとおす。この嘘は,石倉さんが奥さんに対して嘘をついたのと同じ理由。
「石倉さん 奥さんのために嘘に入ってきたんじゃないでしょうか。少しでも長く二人で幸せでいられるようにって」
倫子のこの考えは彼女が気づかないうちに,彼女自身にあてはまることになる。
そして。。。倫子は直江の体の変調に気づいていながら,「なんともない」という直江の言葉を信じ,その嘘の中に入っていったのだ。
直江先生の悲しいところは,嘘をつくことでしか,彼女に自分の愛情を示せないところ。
倫子に対して真実を語っているのは,ビデオレターの中だけ。
嘘=愛情。これって悲しすぎる。
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