■死ぬのが怖くない人間なんていない。
石倉のいなくなったベッドを見つめ「石倉さんは納得して旅立てたんですよね」と問い掛ける倫子に、直江は
「僕たちが整えたのはあくまで「形」だ。死ぬのが怖くない人間なんていない。石倉さんの強さが支えだった」という。
『整えたのはあくまで形』−僕が医者を続けようと決めたのは自分の死を整えるためだ。
『死ぬのが怖くない人間なんていない』−僕だって死は怖い。
『強さがすべて』−遠からず訪れる死を受け入れる強さを持たなくては。
石倉の最期は直江の死と重なる。
彼女は直江の病気を知らない。
この言葉の裏にどんな意味が隠されていたか、知るはずもない。
しかし、直江の死を知った後、倫子は確実にこの言葉を思い出すだろう。
「死ぬのが怖くない人間なんていない」
『先生も怖かったんでしょう? どうして私に言ってくれなかったの? 先生が抱えた苦しみを軽くしてあげたかった。
私はただはしゃいでただけ。私を悲しませたくなかったから? 私にできることはなかったの? あなたのために?』
『僕のことは何でも君に話す』と言った直江の言葉を疑ったこともあるだろう。
だからこそ、直江はビデオを残したのだ。
あのビデオを見て、倫子は納得できたのだろうか。『君だから』と直江が信じた倫子なら、分かってあげられたのだろうな。それもすごいことだよな。
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