■今怖いのは自分の体のことじゃない。
愛する人から笑顔が、僕の前で笑顔が消えることが一番怖いんです。
彼女が笑っていること。最期に別れるときまで彼女から笑顔が消えないこと。それは彼が納得して死んでいくために必要なことだった。
彼は忍び寄る死を待たない。自ら命を絶とうと決心している。そのときは自分で決めなくてはならない。自分で死ぬ日を決めるとはなんと残酷なことだろう。彼は人生に絶望して、何の希望もないまま自殺するのではないのだ。
『生きていたい』 『彼女のそばにいたい』と思いながら、その気持ちを振り払って湖に沈まなくてはならない。そのためには、死ぬ意味を持たなくてはならないのではないだろうか。
愛しているから彼女の悲しむ顔は見たくない。自分の考えを直江は「わがまま」と表現した。彼女から笑顔が消えてしまったら、自分は絶望してしまう。
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