数年前、X'tal発振を分周して作ったキャリアを用いた独自回路による全域型低歪率D級アンプを開発しました。写真はそれのX'tal発振回路と分周回路です。
D級アンプではいわゆる裸利得が低い為にNF量に限りがあります。またPWM変換や出力のフィルタによる歪率の悪化もあります。
通常的な最適設計法でそれらを解決するだけでは低歪率にも限度があります。
ところで、筆者は昔々その昔、高周波回路の設計において信号電流(仮想電流)の流れに着目してパターンを作成した結果、必ずしもベタアースが必要ではない事が分かりました。同時にベタアースにしただけでは高周波回路の種々の問題解決は出来ない事が分かりました。
そう言った経験に基づきD級アンプにおいても回路及びパターンの信号電流の流れに着目してパターンを作成した結果、単純両面パターンで定格出力150W/4Ω程度の回路において1kHzの歪率0.02%以下/10Wを達成しました。
当時の出力対歪率特性図(1kHz)を2つ掲載します。


★.パターンの書き方について
上で言う信号電流について別の説明をすると、例えば筆者が昔々その昔この原則にたどり着いた時の事を例にして言えば、次の図のような事だったのです。
実例として、まずFM・RF帯を10.7MHzに変換するところを回路図に示すと次のようになります。

しかし、書きあがったパターンを回路図的に書くと次のようになりました。

前後の回路のアースと反対側に接続されたエミッタへ出てきた信号電流はどうやって他の部分と接続されるのでしょう。
もうひとつの事例としてFM・IFの選択増幅段を上げると、その一部分の回路図は次のようになります。

しかし、書きあがったパターンを回路図的に書くと次のようになりました。

この様な部品配置のパターンを作成すれば、信号電流がどのように流れるのか見当もつかなくなります。
しかし、上の2者に共通するところは、回路の周囲はぐるっとベタアースで囲まれている事です。
ベタアースに落とせばそれ以上何も考える必要はないと言う風に考えて来たのでしょうねー。
しかし、この2者はFCC不要輻射規格に合格できなかったり、いわゆる局間ノイズが異常波形を示して所要の感度が得られないなどのNGチューナーにしかならないのです。
感度が得られなかったり、不要輻射に合格できなければ商品として世の中に出る事はありませんからお客様に迷惑がかかる事はありませんが、内部では不必要な手間がかかっていた事になります。
よく、パターンを書く時は8の字を横にしたように書かなくてはいけないと言われたのですが、回路図を書く時は8の字のように書いても、パターンを書くと上の例のように書く人がずいぶんといたのです。
本当は、信号電流が重ならないように8の字を横に連ねたようなパターンを書けば、ベタアースは必要ないのです。ベタアースは信号電流が重なっても低インピーダンスであるうちは影響が現れないと言うだけです。
オーディオと言う低い周波数ではなかなかその事に気が付かないようです。裸利得の高いアンプで強力にNFをかければ低歪率は達成してしまいます。そして、その後で音質対策として種々の方法を試みますが、信号電流を考えて書いたパターンだと様子がかなり違う筈だと思います。
また、いわゆるハムノイズのあたりで言われる1点アースと言う表現があります。しかし、この表現は間違ってはいないが必ずしも正しくない、正確には回路図順と同じにアースラインに接続し最後に1点でシャーシに落とすと言うのが正しいと思います。
D級アンプにおいても、上記のような観点から回路の設計だけでなく、パターンの設計を行う事が重要だと思います。
デジタルだから繋がっていれば良いと言うものでは決してありません。
D級アンプのパターンをベタアースで書く人はいないでしょう。
だからこそ、信号電流に忠実にパターンを書かなければ基本性能である歪率すら十分低い値に出来ないのです。
逆に、信号電流の流れに忠実なパターンを書いた結果として前記したような低歪率を達成出来たと思っています。
また、D級アンプには他にも問題点がたくさんあります。
それはまた、書ける時期が来た時に書きたいと思います。